「みつばちマーヤ」の子孫の危機

やま / 2017年5月23日

ミツバチがいなくなった原因はたくさん考えられます。ある大手企業が開発した除草剤や遺伝子組み換え作物が原因だと考える市民もいれば、ある農薬が原因だと発表する専門雑誌もあります。「間違いなく言えるのは、人間に責任があるということだ」という見出しの記事が「南ドイツ新聞(Süddeutsche Zeitung)」に掲載されました。

ヨハナ・アドルジャン記者は「みつばちマーヤ」の古里であるミュンヘンの北の町、オーバーシュライスハイムを訪ねました。ドイツ児童文学作家のワルデマル・ボンゼルス著『みつばちマーヤの冒険』(1912年)は、当時40ヶ国語に翻訳されたそうです。反ユダヤ主義者であったボンゼルスは、1933年ナチスの焚書の後でも特権を受け、作家として暮らすことができたようです。

「みつばちマーヤ」が“飛び回って”いたころから105年たった今、この町には30匹ほどの女王蜂がいるそうです。その幾つかの群れを育ているのがウーテ・バルアイセンさんとマルクス・ダイサーさん夫妻です。養蜂家夫婦は盗難を恐れて、蜂の巣がどこに置いてあるかは公表しないでほしいと記者に頼みました。養蜂だけでは生活は出来ず、ミツバチの世話はあくまでも趣味です。彼女は会計の仕事を持ち、彼はミュンヘンでコーヒーとワインの店*を経営していて、自家製の蜂蜜もそこで売っています。

ドイツの養蜂状況を数に表すと、1990年代初めに120万群前後あったのが、現在、半分に減ってしまったそうです。(ちなみに日本では20万郡弱です)*。野生のミツバチはこれ以上減っていると推測されています。

バルアイセン・ダイサー夫婦が育てているミツバチの2群はオス蜂しか生まれず、今年、冬を越すことができませんでした。私はレイチェル・カーソン著『沈黙の春』を思い出さずにはいられませんでした。更に幾つかの群れが全滅してしまった原因はバロア病*です。元来、東洋から入ってきたミツバチヘギイタダニという寄生虫による伝染病で、世界中に分布しています。最近までバロア病が見られなかったオーストラリアでさえ、このダニが発見されました。それは人間がミツバチの群れと女王蜂を養蜂製品として、あらゆる国へ出荷しているからです。

「ミツバチは人類にとって一番大切な家畜と言えるでしょう。ドイツで育つ有用植物の80%の受粉を働きばちがします」とミツバチの花粉交配としての役目を語るダイサーさん。「本来は農家や食品産業などが、みつばちを育てる養蜂家にお金を払わうべきなのですが」と偏ったシステムを指摘します。「そしてミツバチは人間と自然の状況を表すインディケーターとも言えます。このまま人間が金儲けばかり考えて自然を破壊していけば、ミツバチはどんどんと死んでいくでしょう」とダイサーさんは怒ります。「ミツバチが全滅すれば、4年後に人類は滅びる」とはアインシュタインの警告の言葉です。

1960年代のドイツでは、単位が小さく、多種多様な農作物が育つ農地が見られました。道沿いには動物や昆虫のために野草のはいているスペースが残され、野生の花がきれいでした。経済成長とともに大型トラクターなどが取り入れられ、借金を背負った農家は出来るだけ利益をあげないといけません。効率の良い農業生産のために耕地整理がされて、単一耕作が行われるようになりました。そして農薬や肥料がまかれました。しかし1種類の植物の開花期間は一定の期間で終わってしまいます。バルアイセン・ダイサー夫妻は6月に花が見つからないミツバチに、蜜の入ったガラス瓶を置いてやるそうです。「そうでもしないと、ミツバチたちは飢え死にしてしまいます。真冬ではなく初夏にですよ!」と憤慨します。

今年3月末にベルリンで連邦食糧・農業省により「みつばち議会」がました開かれました。これも社会が問題を意識し始めた良い傾向ではないかと、記者は養蜂家夫妻に聞きました。「とんでもない、このような議会を開いたり、無分別な対策を決めたりするのは、慰めにしかなりません。結局は何も起こらないでしょう。スーパーに行けば季節問わずに果物や野菜が買えます。消費者はミツバチが少なくなっていることなど無関心です。そしてミツバチがいなくなってしまったら、地球全体にどのような影響があるかも考えていないでしょう」とバルアイセンさんは沈み込みます。「いままでのように、自然をただ経済的観念からみていれば何も変わりません。私たちが自然と人間の繋がりを考え直さなければだめです。そしてミツバチもそのつながりの一部です」と別れ際にダイサーさんは語り、記者は「みつばちマーヤ」の古里を去りました。

ミツバチの大量死についての映画「モアー・ザン・ハニー(More Than Honey)」
マルクス・インホフ監督、スイス、2012年
http://www.morethanhoney.ch/
映画について(日本語)

関連リンク:
バロア病*Wiki
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%AD%E3%82%A2%E7%97%85

*日本養蜂家協会
http://www.beekeeping.or.jp/

ダイサーさんのコーヒーとワインの店*
http://www.markus-daiser.de/epages/15510098.sf/de_DE/?ObjectPath=/Shops/15510098/Categories

写真参照
https://www.flickr.com/photos/meinhardtbranig/

 

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