ルターゆかりの町ヴィッテンベルクの駅が「緑の駅」に

永井 潤子 / 2017年5月14日

今年2017年のドイツでは、マルティン・ルターによる宗教改革の500年祭が盛大に祝われる。宗教改革は、ザクセン・ヴィッテンベルク大学の神学教授だった若きルターが、1517年10月31日、カトリック教会の贖宥状の販売に抗議してヴィッテンベルク教会の木の扉に「95カ条の提題」を打ち付けたことをきっかけに始まったと言われる。その歴史的なヴィッテンベルクの町の駅が、環境に優しい駅となったことが今話題になっている。

贖宥状というのは、「キリスト教徒はこの世で犯した罪を本来は聖地への巡礼などで贖わなければならないが、教会の発行する贖宥状を買うことによって、免罪される」としたもので、当時の教会は「魂を救うためには、贖宥状を買う必要がある」と宣伝した。これに怒ったのがルターで、この宗教改革の結果、キリスト教会はカトリックとプロテスタント(福音主義教会)の二派に分かれることになった。

その宗教改革から500年の今年、さまざまな記念行事が行われるが、ルターゆかりの町、ヴィッテンベルクを訪れる世界各地からのプロテスタント教徒も多数にのぼるとみられている。ルター500年祭の一つのクライマックスは、5月24日から28日まで、ベルリンとヴィッテンベルクで開かれる福音主義教会大会(Evangelischer Kirchentag)で、特に最終日の5月28日にヴィッテンベルクで行われる記念礼拝式には、約30万人が参加すると予想されている。ドイツ鉄道はそのために、この日だけで120本もの特別列車を出す計画だというが、普段ヴィッテンベルク駅に乗り降りする乗客は1日 わずか4000人程度、人口4万6000人の小さな町の小さな駅にとっては大変な負担になりそうだ。この日の乗客の輸送がスムーズにいくかどうか頭を悩ます同駅の関係者たちも、その一方でヴィッテンベルク駅がドイツで2番目の「緑の駅」となったことが多くの人に知られるのを喜んでいるという。

「緑の駅」とドイツ鉄道が宣伝するのは、駅で必要なエネルギーが全て再生可能エネルギーでまかなわれ、太陽の光が最大限に利用され、気候温暖化ガスCO2を出さない努力がなされている駅のことだ。2014年に初めて本格的な「緑の駅」となったのは、ノルトライン・ヴェストファーレン州の大都市、ケルン近郊のホーレム/ケルペン駅で、駅舎の屋根にはソーラーパネルが取り付けられ、一部の屋根には植物が植えられ、文字通り「緑の屋根」となった。また、待合室などは全てガラス張りで、太陽光が十分に入るように設計され、気候温暖化ガスを全く出さない努力がされた。この駅はドイツあるいはヨーロッパ最初の「緑の駅」として話題になり、環境賞などさまざまな賞も獲得した。

ドイツ鉄道によると、その後2017年のルター500年祭までにヴィッテンベルク駅を第二の「緑の駅」にする努力が続けられ、昨年末までに完成したという。現在ヴィッテンベルクの町はザクセン・アンハルト州に属し、正式名は「ルター都市ヴィッテンベルク(Lutherstadt Wittenberg)」で、駅にも正式名が表示されている。この駅の屋根にもソーラーパネルが取り付けられ、地熱が暖房に利用されるなど、駅で必要なエネルギーは全て再生可能エネルギーが使われるようになった。また、太陽光を最大限に利用するため、屋根には採光のための窓がつけられ、照明は全て効率的なLED に変えられた。さらに雨水が全て溜められて、水洗トイレに使われるよう工夫されたという。

普段ヴィッテンベルク駅の6つのホームには毎日155本の列車が発着するが、福音主義教会大会の記念礼拝が行われる5月28日には普段の倍近くの列車が発着することになる。こうした列車でやってくる大勢の乗客たちが、ヴィッテンベルク駅が環境に優しいという意味で歴史的な駅になったことに気がつくかどうか、注目される。

 

Comments are closed.