12の小見出しに見る原発の過去・現在・未来

永井 潤子 / 2017年3月26日

福島原発事故6周年に当たってドイツメディアの福島関連記事を探していた私は、ドイツの公共国際放送、ドイチェ・ヴェレのドイツ語ウェブサイトにコンパクトな記事「フクシマ、さよなら原発?」(© Deutsche Welle 執筆:Gero Rüter)を見つけた。この記事では原発に関する12枚の写真に12の小見出しで簡単な説明が付けられている。ドイチェ・ヴェレにはかつて日本語番組があり、私はその日本語番組の記者として27年間働いた。日本語番組は1999年末で廃止されてしまったので、「小粒ながらピリッと辛い」この記事の説明の部分を日本語に訳してご紹介することにする。

6年前の福島原発の事故は多くの人に大変な災害をもたらし、日本と原子力産業にも大きな影響を与えた。原子力という危険な技術にまだ未来があるのだろうか? それとも時代遅れになったのだろうか? これが番組全体のテーマである。

⭐︎ 原爆の何百倍もの放射能

2011年3月: 地震と津波の後、福島では原子炉4基で事故が起こり、3基で、メルトダウン(核溶融)が、4基(訳者注: 3基)で水素爆発も起こった。このような大惨事が日本で起こるとは、多くの人にとって想像もできないことだった。この事故で放出された放射性物質セシウム137は、広島に投下された原爆の500倍にものぼった。

⭐︎ 巨大なコストと被曝

この惨事の結果は、莫大である。日本政府の発表によれば、日本におけるこの事故の被害は、21兆5000億円に達する。これに被害地の精神的な苦痛と他の国々の放射能汚染による損害が加わる。

⭐︎ 太平洋は今後も汚染され続ける

今では事故を起こした原子炉に新たな覆いがかぶせられ、地下水の流入を防ぐため地下に氷の壁が設けられた。しかし、破壊された原子炉や溶融した核燃料棒の取り出しは目下のところ不可能であり、近い将来に取り出せる可能性も見えていない。特に地下水の汚染問題は深刻である。汚染された地下水の一部はポンプで汲み取られ、タンクに貯蔵されているが、一部は太平洋に流れ込んでいる。

⭐︎ 甲状腺癌は20倍に増加

日本にとって「不幸中の幸い」という面もあった。それは事故直後、風が海の方向に向かって吹いたことだ。汚染された空気が海に向かったため、東京周辺の広範囲な地域に住む約5000万人が被曝することを免れた。しかし福島の事故現場近辺地域は強く汚染された。20万人が故郷を離れて避難し、医師たちは福島の子供達の甲状腺の発生率は、他の地域の20倍にのぼることを発見している。

⭐︎ 大多数は原発反対

日本の電力における原子力の割合は事故前には約30%だったが、現在はわずか1%程度である。かつて54基の原発が稼働していたが、現在は2基しか稼働していない。日本政府は原子力を維持する方針で、原発の再稼働を望んでいる。しかし、地元住民の反対が強く、これまでは阻止されている。

⭐︎ 原子力産業は大きな危機に

福島原発の事故以後、原子力産業は大きな危機に陥っている。日本でもアメリカでもフランスでも原子力産業は損失を出すだけで、原子炉はもはや売れず、新設計画の多くは延期されている。

⭐︎ 輸出のヒット商品の代わりに災害

フランスは次世代の原子炉、EPR(欧州加圧水型原子炉)に大きな夢をかけてきた。この新型原子炉は「安全で、輸出のヒット商品となる。2012年以降、フランスのフラマンヴィーユで発電する」と言われてきた。しかし、今なお完成せず、稼働開始は早くて2018年になる見通しで、建設費用は当初の3倍以上の100億ユーロ(約1兆2千億円)に達する見込みである。

⭐︎ イギリスは原発を新設する?

イギリスは何年も前から南西部のヒンクリーポイントにEPR型原子炉2基の建設を計画している。建設開始は2019年の予定で、建設費用は330億ユーロ(約3兆9千600億円)と見積もられている。この計画に対する疑念は高まっている。新型原子炉による電力は太陽光や風力による電力よりはるかに高くつき、国の莫大な助成金なしには競争力を保てなくなるだろうという懸念が高まっているのだ。

⭐︎ 古い原子力発電所をタダであげる

原子力発電所は、かつては儲かる事業だった。しかし、今では多くの原発が古くなって劣化し、しばしば修理が必要となって、事業主に損失をもたらしている。そのためスイスのエネルギー企業、Alpigは、所有の原発2基(稼働年数は33年と38年)をフランス電力会社Edf にタダであげようとした。しかし、Edfは要らないと断った。

⭐︎ ドイツの脱原発は進んでいる

福島の大事故の後ドイツは脱原発を決定した。これまでに9基の原子炉が運転を停止し、残り8基は2022年までに段階的に操業を停止する。放射性廃棄物処理のコストを賄うため原発関連企業は、230億ユーロ(約2兆7600円)を国の財団に支払った。廃炉の費用も同様に莫大なものになるが、しかし、この費用について国は財政的な支援を行わない。

⭐︎ 原発事故に対する不安が高まる

欧州連合(EU)とスイスを含めたヨーロッパ地域では、今なお132基の原発が稼働している。稼働年数が30年から35年までの古い原発の操業は停止されたため、現在の原発の平均稼働年数は32年である。これらの原発での故障が増え、安全上の諸問題が明らかになってきているため、多くの市民がこうした原発の稼働を続けることは「ロシアンルーレット」に等しいと考え、稼働停止を要求している。

⭐︎ 中国は原発事業をさらに進めている

EU加盟国、日本、ロシアでは2011年以来、原発は新設されていないが、中国では事情が違う。中国は他の国には見られないほど原子力に力を入れ、石炭による発電をやめようとしている。しかし原子力以上に中国が力を入れて投資しているのは、風力と太陽光エネルギーである。

 

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