シェーナウからの日本の市民に向けたメッセージ

永井 潤子 / 2016年4月3日

30年前のチェルノブイリ原発事故をきっかけに南西ドイツの小さな町、シェーナウで反原発の市民運動を起こし、自然エネルギーによる電力会社EWS(シェーナウ電力)を作り上げた人として知られるウルズラ・スラデックさんが、福島原発事故5周年にあたり、日本人に向けてのメッセージを発表した。

スラデックさんはこのメッセージを、福島でこのほど設立された「ふくしま自然エネルギー基金」の創立に向けて発表した。この基金は、市民主体の自然エネルギー事業への支援を通して福島の復興を目指すことを目標に作られた。太陽光発電の普及など自然エネルギー関連事業はもちろんのこと、地域活性化の事業、教育福祉事業など、県民主体の復興プロジェクトを幅広く発掘し、内外から寄せられる寄付を原資に、資金面での支援を行っていこうというもので、すでに3月初めから企業や個人からの寄付を受け付けている。基金の規模は当面数十億円を目標にするという。来年1月からは具体的な事業に対する支援活動を開始する予定だ。市民主体の復興事業への資金面での支援活動のほか、福島第一原発事故の記録や記憶を残すための記念館の建設やアーカイブの設立も目指している。また、原発事故によって住民が離散した地域の伝統文化、芸能、食文化を復活させる教育事業への支援も計画している。こうしたさまざまな支援活動によって、地域に働く場も創造できると期待する。

代表理事は、すでに同県喜多方市で自然エネルギーによる発電を行っている「会津電力」の代表取締役、佐藤彌右衛門氏で、脱原発を訴えてきた東京の城南信用金庫相談役、吉原毅氏、NPO法人、「環境エネルギー政策研究所」(東京都)所長の飯田哲也氏、福島県立博物館館長の赤坂憲雄氏、会津自然エネルギー機構理事の千葉親子氏、世界的なアーチスト・音楽家の坂本龍一氏、サムソエネルギーアカデミー代表、ソーレン・ハーマンセン氏、シェーナウ電力のウルズラ・スラデックさんなど、内外の多数が発起人に名前を連ねている。そもそもこの自然エネルギー基金設立のきっかけになったのは、福島原発事故後の2013年8月に市民出資で自然エネルギー電力会社、「会津電力」を立ち上げた佐藤彌右衛門氏が、シェーナウの「電力革命児賞」を受賞したことにあり、その賞金300万円が福島の自然エネルギー促進活動に生かされてきた。福島原発の事故直後から、被害を受けた福島の人たちの気持ちに寄り添ってきたスラデックさんにとっては、シェーナウの「電力革命児賞」の受賞が「ふくしま自然エネルギー基金」設立のきっかけになったことは、ことの外、嬉しいことだったようだ。ドイツのスラデックさんと、福島・会津の佐藤さん、志を同じくする者同士の国境を超えた連帯が実を結んだ結果が、「ふくしま自然エネルギー基金」の設立という形になったのだ。明確な目標と理想、困難にもかかわらず目標を実現しようとする強い意思、周囲の人たちを巻き込んでいく人間的な魅力と行動力など、二人の間には響き合う確かな共通点がある。代表理事、佐藤彌右衛門氏の設立のメッセージをご紹介する。

あの原発事故から5年、豊かな自然エネルギーに恵まれた日本には原発はいらない、その想いから福島の地で地域主導の自然エネルギー普及に取り組んできました。福島は元来、歴史と伝統を重んじ、豊かな自然の恵みを大地にいただき、人と人との暖かなきずなを守り暮らす土地です。今こそ、こうした福島のこころをもって、エネルギーを自らの手に取り戻し、福島の未来への復興を実現する。二度とこの地球上で原発事故の悲劇を繰り返さないために、福島の教訓を全世界に発信することを目指します。ここに国内外の多くの志を同じくする皆様と「福島自然エネルギー基金」を立ち上げます。

福島第一原発事故の影響で、厳しい状況にさらされた福島県民。その有志の中から国や東京電力を批判するだけではなく、自分たちで何かできないかという話し合いが事故直後から何度も持たれてきた。特に、放射能による被害が比較的少なかった会津地域では、会社経営者らを中心とする市民たちが、2013年3月に原発に頼らない社会を目指す「会津自然エネルギー機構」を立ち上げた。そしてエネルギーによる地域の自立を実践するために同年8月、会津電力株式会社が設立されたのだった。会津電力は第1期プロジェクトとして2015年秋までに合計11箇所に太陽光発電装置を設置、合計出力約2メガワット(2000キロワット)、約600世帯分の電力を生み出すことを目標にし、すでにその目標は達成された。第2期以降は地域の川や森の資源を生かした小水力発電や木質バイオマスなどを手がけるという。

会津電力の社長である佐藤彌右衛門さんは、もともと9代も続く地元の蔵元、大和川酒造の社長で、自社の酒蔵の屋根にも太陽光パネルを設置、今では「全国ご当地エネルギー協会」の代表幹事も務めている。今回「ふくしま自然エネルギー基金」の代表理事に就任した佐藤氏は「自分は30年も飯館村のお米を使って醸造してきたが、原発事故で、それが不可能になった。放射能の影響は何万年にもわたる。後の世代のために福島から脱原発を実現することが大切だ。行政に頼らず、民間の力で自然エネルギーによる復興をなし遂げたい。福島で作られた電気の大半は首都圏に送られるが、福島が東京の『植民地』から抜け出して自立する道を見つけたい」とも話している。

なお、「シェーナウ電力」代表のウルズラ・スラデックさんは、今年2月末にベルリンで開かれたIPPNW(核戦争防止国際医師会議)で「困難なエネルギー転換への道」と題する講演を行った。その中でイギリスなど原子炉の新設を図る国が増えるなどの厳しい現状に触れた上で、「多くの市民が諦めずに積極的な行動を長年にわたって忍耐強く続ければ、困難と思われた事態もいつかは変えることができる」と強調した。当時、日本の現状を考えて絶望していた私は、スラデック氏の体験に基づく楽観的な見通しに勇気づけられた。

「ふくしま自然エネルギー基金」の事務局は当面「環境エネルギー政策研究所」内に設けられるということなので、寄付などのお問い合わせは同研究所(電話、03−5942−8937)まで。

関連リンク:
シェーナウの奇跡1
シェーナウの奇跡2
シェーナウの奇跡3

シェーナウ電力会社が灯す希望

 

 

2 Responses to シェーナウからの日本の市民に向けたメッセージ

  1. 折原利男(埼玉県) says:

     私は、『シェーナウの想い』は、2012年1月に横浜で開催された「脱原発世界会議』で観ました。この映画を上映したのは、翻訳して字幕をつけた(このときは字幕はまだ完成していないとのことでした)及川斉志さんと佐山摩麗子さんという若者でした。終わってふたりと話をすると、ドイツで観て感動し、なんとか日本でも紹介したいということで、若者の情熱と力に感動しました。もちろん、映画もです。

     このサイトでも触れていましたが、日本のあちこちで上映会が開かれています。

     ご報告のように、ドイツのスラデックさんと、福島・会津の佐藤さん、志を同じくする者同士の国境を超えた連帯が実を結んだ結果が、「ふくしま自然エネルギー基金」の設立に至ったという出来事は、少し前の東京新聞でも報じられました。そのスラデックさんが、日本に向けて、暖かくも力強いメーセージを送ってくださったことに、また感じ入っています。いろいろと負の情報があふれているなか、本当にありがたいですね。

  2. 三澤 洸 says:

    永井さん、その後体長は如何ですか?東北大震災から5年、今度は九州で震度7の大地震が発生。短波の後藤さんの故郷で、定年退職後にご夫婦で暮らしています。電話で様子を聞いたところ、食器が落ちた位で、家には被害が出ていないとのことです、しかし、水道、ガスが止まっており、大変な状況です。中でも、震度5以上の大きな余震が続いており、おちおち寝ていられないということです。後藤さんは目が殆ど見えないので、不安が増大しています。当方と同年(昭和9年生まれ)の奥さんが元気なので、まだ良いのですが・・・