収束はいつのこと? - 今も毎日7000人が作業に従事

あきこ / 2015年11月22日

2020年のオリンピックを東京に招致するため、安倍首相は2013年9月、「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています」(首相官邸ホームページより)と世界に明言した。福島第一原子力発電所は現在、実際どのような状況にあるのだろうか。

11月5日付のドイツの週刊紙「ツァイト」の1ページにわたる記事に目を奪われた。上半分は4枚の写真、下半分が記事という構成で、タイトルは直訳すれば「輝かなくなるまで」となっている。「放射線が出なくなるまで」という意味である。サブタイトルは、「福島の事故現場はずっと前に整備されていたはず。いまだに毎日7000人が作業。しかし安全なことは何もない」となっている。この記事が明らかにしていることは、福島第一原子力発電所の事故から4年8ヶ月経った今も、「アンダーコントロール」からは程遠い状況にあることだ。

この記事は、福島第一で作業員として働いた経験を漫画「いちえふ」に描いた竜田一人についての説明から始まる。「4年前、竜田一人の経済状況がもっとよかったら、福島に行くようなことは決してなかっただろう。竜田は『どうしてもお金が必要だった』と当時のことを述懐している。(中略)すべての人々が、3つの原子炉がメルトダウンを起こした福島第一の周辺から立ち去ったわけではない。多くの日本人がまさにこの地にやって来たのである。事故処理のために。竜田一人はその一人だ」という書き出しで記事は始まる。この記事を書いたフェリックス・リル記者は、今年4月27日付の「ツァイト」紙で竜田一人氏とのインタビュー記事を載せており、今回の記事でも同氏の言葉が多く引用されている。例えば、「ここに働きに来ている多くの人たちは、他に行くところがないからだ」、「初めて福島に来たとき、新聞の求人広告では時給2000円から3000円保証となっていた。ところが、実際に働いてみると、一日8000円にしかならなかった」など。

竜田氏の言葉や、彼が描いた漫画を出発点に、リル記者は福島第一の作業員の状況に注目する。以下、記事からのいくつかの引用である。(インデント)

日本版マフィアであるヤクザ50人が、ホームレスや債務者を安価な労働力として福島に送りこんでいる。東電と政府は、それについては承知していないと明言した。

政府は事故現場のコントロールがより速く進展することを目指しているため、現場で継続的に働く人員の数は昨年、4000人から7000人に上昇した。被ばく量の制限による交代を計算すると、2014年だけで延べ2万2000千人の労働者が現場にいたことになるだろう。7ヶ月のうちに、39回の事故が起き、そのうち8つは重大な事故であった。

作業員の求人が、いくつもの下請け会社を通して行われるために、東電の幹部は作業員の支払いや技術訓練に責任を負わないという実態を指摘するリル記者は、作業員の増加とともに倍増する事故の原因について、原子力市民委員会の委員であり、プラント技術者でもある筒井哲郎氏にインタビューする。筒井氏の回答は明快である。

誰もが最善を尽くしていると言う。そうかもしれないが、下請け会社という構造によって、作業工程は縦割りにしかなっていない。例えば、工程を話し合っていないために、搬送会社と管の設置者が同時に現場に現れる。

今年1月に起きた2件の死亡事故(タンクの天井からの墜落と、点検器具に頭をはさまれる事故)も、計画のずさんさで説明がつく。現場では十分な調整が必要だ。原発以外の現場で、他の企業と調整しないような会社は、たちまち破産する。作業員の訓練、安全、能力の管理のための一本化されたシステムが必要だ。

リル記者はメルトダウン直後、当時の東電社長が労働者の安全を優先すると言っていたのに、「現在の東電広報は『労働条件が安全かどうかは言えない。状況の改善に努めている』と述べるに留まっている」と指摘する。電力の自由化を控え、福島のイメージをよくしたいという東電の広瀬直己社長は、作業員の給与を改善するという約束をした。しかし、同記者は「作業員の給料は昨年より良くなっていない」という、現在3号炉で壊れた管の修理作業をしている竜田氏の証言を伝えている。

リル氏は記事を次のように締めくくる。

メルトダウンから1ヶ月後の2011年4月、東電は原発の事故現場を6ヶ月あるいは9ヶ月以内にアンダーコントロールすると宣言した。それから4年半が過ぎた。今では政府も東電も敢えて予測はしない。(インテンド終わり)

安倍首相が世界に向けて「福島はアンダーコントロール」と宣言したのが2013年9月。リル記者の記事を読むと、2020年のオリンピック開催(しかも、9月27日付の産経ニュースによると、野球・ソフトボールの1次リーグを福島で開催となっている)が危ぶまれる。あと5年、原発事故現場では、ますます作業員が必要になるのではないか、そうなると下請け会社を通じて求人された未経験の作業員が増える、下請けシステムの縦割りの弊害によって事故が増える、東京でもオリンピック開催の準備工事が増える、労働力はますます不足…… これ以上の妄想はやめよう。

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