ドイツのメルケル首相、安倍首相には思いも付かない発言

ツェルディック 野尻紘子 / 2015年5月24日

この5月8日、ドイツは第二次世界大戦の敗戦70周年記念日を迎えた。70年前の敗戦直前には、当時ドイツにあったいくつもの強制収容所が連合軍により解放されており、その解放を記念する式典も今回各地で行われた。そのある席上でのメルケル首相の発言が、私の心を打った。

5月3日、メルケル首相が出席したのは、バイエルン州の州首都ミュンヘンの北西15kmの場所にあった元ダッハウ強制収容所の記念式典だ。

遠方からやって来た高齢の元収容所の生存者たちが、参列者に、胸を締め付けるような収容所での苦しい生活の記憶について話をした後に、メルケル首相は壇上に立ち、彼らが歴史の証人として発言してくれたことに感謝した。「皆さんのような方たちが、皆さんの人生の経験について、 ナチス・ドイツが皆さんに与えた計り知れない悲しみと苦しみについて語ってくださることは、私たちにとって幸運なことです。皆さんのお話を通して、過去の出来事が空論ではなく、実際にあったことだということが証明されるからです」と話した。

このことをニュースで知り、このメルケル首相の発言は、安倍首相には到底思いも付かない発言だろうなと思った。例えば、元従軍「慰安婦」の存在さえも出来ることなら認めたくなく、彼女らの苦情を聞く耳も持たない安倍首相が、彼女らの証言に感謝すること、それを自分たちにとり幸運だと言うことは、考えられないからだ。

ナチス・ドイツの行為を蛮行だと確信し、恥ずかしく思っているドイツは、同じようなことが2度と繰り返されないために、過去を忘れないように努力している。だから過去の証言者は重要なのだ。そして、過去を忘れないことが、諸外国の信頼を得て、近隣諸国とも気持ち良く、仲良くしていくための前提となっている。

なお、ダッハウ強制収容所は1933年3月にドイツで最初に作られた強制収容所として有名で、当初はナチスに反対するドイツの共産党員など主に政治犯が収容された。その中にはユダヤ系ドイツ人もいたが、特にユダヤ人の扱いは苛烈を極めたと伝えられる。1945年4月末アメリカ軍によって解放された。ダッハウより大きい占領下ポーランドのアウシュヴィッツ強制収容所と同じく、ナチス強制収容所の象徴になっている。

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