「地球上で最も安全な場所への旅」

あきこ / 2015年4月5日

DOKとして知られる「ライプツィヒ・ドキュメンタリー映画祭」は1955年に始まり、ベルリン国際映画祭に匹敵する長い歴史を持っている。毎年10月下旬に開催される映画祭には、世界の国々から選ばれたドキュメンタリーとアニメーション作品が上映される。2013年の同映画祭で上映され、現在ベルリンで公開中のドキュメンタリー「地球上で最も安全な場所への旅」(監督:エドガー・ハーゲン)を見た。

 

映画は、「原子力発電所と中間貯蔵施設には現在35万トンを超える高レベル放射性廃棄物が一時的に保管されている。一年に1万トンずつ増え続けている」という字幕で始まる。続いて、このドキュメンタリーの主役ともいうべきチャールズ・マッコンビー博士が登場する。彼は原子物理学者であり、高レベル放射性廃棄物の国際的な専門家という説明がつく。「原子力エネルギーが不要となる不安はないか」と尋ねられたマッコンビー博士は「その不安はある」と答える。中国の高レベル放射性廃棄物計画の責任者であるユー・ワン氏の「家を建てるなら、トイレを忘れてはならない」という引用が映しだされる。さらにマッコンビー博士が、「仮にスイスあるいはその他の国々で原子力エネルギーからの撤退を決定したとしても、核のゴミの問題はなくならない」と答えたところで、「人間に過度の要求を突きつける問題との格闘についての寓話」という字幕が出て、地球上で最も安全な場所への旅が始まる。

ハーゲン監督はマッコンビー博士の旅に同行し、彼とその仲間たちの闘いの場を見る。彼の住むスイスでの最終処理場の候補地をはじめ、アメリカ、中国、イギリス、オーストラリア、ドイツ、スウェーデン、スイス国内、さらに六ヶ所村の再処理工場へと「最も安全な場所」を求める旅は続く。中国のゴビ砂漠で最終貯蔵所建設のために、地下500メートルまで掘る実験を重ねるユー・ワン氏を訪ねるマッコンビー博士を案内する遊牧民は、ハーゲン監督が「500メートル掘れば安全だと思うか」という質問に対して「600メートルのほうが良い」と答える。ドイツでは、ゴアレーベンの核燃料最終処理施設の建設に反対する人々が登場する。スイスでも誘致しようとする自治体と反対する住民、オーストラリアで世界の核のゴミを受け入れさせようと働いてきたマッコンビー博士たちの「パンゲアグループ」に対して、大きな反対運動を立ち上げたグリーンピースと「パンゲアグループ」の議論が詳細に描かれる。世界で唯一、自発的に最終処理場として名乗りを上げたスウェーデンのエストハンマル市の市長と副市長がハーゲン監督のインタビューに応えているが、もし何らかの問題が生じた場合にはこの町も処理場計画を取りやめることがあるという。エストハンマルでの処理場では、使用済み燃料を銅の容器に入れて保存するのだが、この銅製の容器が地下水に対していつまでもつかどうかは保証の限りではない。

映画で紹介されるいくつかの場所を挙げたが、映画全体を通して見えてくるのは、核のゴミの最終処理に関して、科学者はお手上げの状態にいることである。「映画の登場人物の中で、中国のユー・ワン氏は核のゴミの最終処理は10万年単位ではなく、100万年単位の話であることを語る唯一の学者だ」とハーゲン監督は言う。それは、「彼が原子力産業の世界にいるのではなく、地質学を専門としているからだ」と同監督は見ている。100万年以上先の安全をだれが保証できるのだろうか。この映画についてのあるインタビューで、インタビュアーが「地球の最も安全なところというのは、地下数百メートルというどこか深い場所にあるのではなく、議会あるいは公けの議論にあるのではないか。なぜなら、人間が存在する限り、公的議論は活発に行われるからだ」と問う。それに対してハーゲン監督は「我々は対話を続けなければならない。何も考えないまま、単純に信じることはできない。我々は批判的で活発な議論を続けなければならない」と答えている。

ライプツィヒ・ドキュメンタリー映画祭の選考委員を務めるグリット・レムケ氏はこの映画について、「ハーゲン監督は地質学者、原発ロビイスト、環境問題の活動家、地方自治の政治家などと出会う。一方は最終処理を確信している。もう一方は疑っている。『証明』あるいは『実現可能性』などが問題になる。しかし、ハーゲン監督は一見ナイーブに問う。このナイーブな切り口によって、同監督は原子力産業の正当化の戦略を、へたな小細工として暴くことに成功している」と述べている。原子力発電所の稼働期間は40年、その間に生じる核のゴミは、ユー・アン氏によれば100万年安全に保存されなければならない。

ハーゲン監督がこの映画で伝えようとしていることは、核のゴミの処理をどうするのかという問題に蓋をしたまま原子力発電を推進することの危険性である。見終わった後、核のゴミを処理するための安全な場所はないということに打ちのめされる。福島原発の事故が収束していないのに再稼働に進む日本の決定に打ちのめされる。だからこそ、「我々は対話を続けなければならない。何も考えないまま、単純に信じることはできない。我々は批判的で活発な議論を続けなければならない」というハーゲン監督の言葉に耳を傾けなければならない。

 

 

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