村の将来を照らすインドの「ソーラーママ」

やま / 2014年9月14日

nacht schule klein「インドのラジャスタン州にあるちいさな村ギル(Ghirr)。日が沈み、仕事が終わると子供たちはやっと学校に行ける。貧しい村には電気は引かれていない。しかしソーラーランプのおかげで『夜の学校(Night School)』の教室は明るい。子供たちは昼間の疲れを忘れ、勉強に一生懸命だ」とドイツ第一公共放送のニュース番組「ヴェルト・シュピーゲル」の司会者の声。行灯を思わすやわらかい明かりのソーラーランプが目に留まり、どこの製品かと知りたくなりました。

ソーラーランプを造ったのは近くの村の女性たち「ソーラーママ」。夜の学校に来ている生徒とは違い、彼女たちは学校に行くチャンスがなかったので、読み書きができません。家畜を育て畑仕事をして家族を養っなっていた手がはんだごてを用い、細い電線を基盤に固定してランプを組み立てます。もちろん、その前に複雑な回路図やモジュール基盤に関する単語の意味を理解し、覚えなければいけません。知識がまったくなかった彼女たちが一人前のソーラーエンジニアに生まれ変わった話が、ドイツの全国新聞フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)に掲載されました。(一部抜粋)

「信じられない話」は、ある一人のインド人が村を訪れてから始まった。このインド人が訪れる村はペルーの高原やブータンの山腹であったり、アンゴラ、ミャンマー、イランのどこかだ。貧困削減のための助けの手が達したことのない村である。辺ぴな村にたどり着いたインド人は村人に問いかける。「インド、ラージャスターン州にあるティロニア(Tilonia)に来てソーラーエンジニアになりたい方はいませんか?」男たちは当てにならいからだめ、働けるのは女性だけだと彼は言った。子供たちや、孫たちを一人で養っている女性たちだ。読み書きができなくても大丈夫。身振り手振りで説明し、絵を使って授業をする。6ヶ月の研修期間が終わったあと、女性たちは再び村に帰る。そこでソーラーランプ、調理器、放物面反射鏡やソーラー・パネルを組み立てる。村人は、以前までろうそくや灯油に使っていたお金を共同に集めて、「ソーラーママ」に報酬として支払う。

4027934685_82304bdbfa_z貧しい希望なき生活から抜け出すチャンスを女性たちに与えたのは「ベアフット・カレッジ(Barefoot College)」の創立者サンジット・バンカー・ロイ(Sanjit Bunker Roy)氏でした。第1校が開かれたのは40年ほど前です。それから今日に至るまで、13の「ベアフット・カレッジ」ができたそうです。村人はこの大学に通い、教師、医者、技術者、建築家、あるいは鍛冶屋や左官屋の職人になる授業を受けることができます。ソーラー部門ができたのは2003年で、それから40カ国から来た700人の女性が研修を終えました。彼女たちが「ソーラー化」した村の数はインドだけでも1015にもなり、「ソーラーママ」は45万人の村人に太陽の光をもたらしたことになります。1世帯の家族が消費していた灯油の量は年間約60リットルで、CO2の排出量は約1tです。この付近では8人家族が普通だとすると、削減できたCO2の排出量は年間56,250tの計算になります。

「ベアフット・カレッジ」とその創立者については既に数多くのメディアが報道していますが、私の関心を引いたのはミュンヘンにある市民財団Nuclear-Free Future Awardのウェブサイトでした。この市民財団は核のない未来の実現に取り組む人に賞を与え、今まで目立たなかった彼らの仕事を紹介し、賞金を提供して援助しています。2000年10月に「ベアフット・カレッジ」が賞を獲得し、受賞者の功績について次のような説明がウェブサイトに載っていました。(一部抜粋)

実際に村の人たちが自分たちの手で取り組んでいかないと、納得できるエネルギー供給は成功しない。都市から離れた村にソーラーパネルが設置される。いつか故障が起きる。都市からなかなかやって来ない専門技士を待つとすれば、なにもならない。しかも村人は技士の高い報酬を支払うこともできない。それでは自分たちでやるしかない。自分たちでパネルを設置して管理し、修理していくべきだ。女性は男性よりも劣るものという考え方の強いこの地域で、女性たちがこの仕事を手に取ったということは、まさに革命的だ。「ベアフット・カレッジ」ではガンディーとかつて敵国の首相だったチャーチルの思想を取り入れた。「無知な村人の実用的な知恵を信頼すること」と「仕事の上に誤りはつきものである」というそれぞれ二人の思想だ。「ベアフット・カレッジ」では早くからソーラー器具の研究、実験を重ね、誤りから学んでいる。そこで生まれたのは村独特のハイテク・解決方法だ。

7172384444_8068b10945_z「ベアフット・カレッジ」のある村ティロニアでは、既に2000年から太陽エネルギーだけで電力需要をまかなっています。その当時、15台のコンピューター、250の接続がある交換電話網、メール、図書館や分娩室の照明、100世帯の電気供給、水道施設のポンプなど、14年前に自然電力100パーセントの農村開発地帯がインドにあったのを初めて私は知りました。賞を与えた市民財団は「村の子供たちが通っている 『夜の学校』こそ最も注目すべき功績だ」とも書いていました。受賞式があった2000年には、100校あった「夜の学校」は今では700校に増えているそうです。

「夜の学校」は夜7時に始まり、10時に終わります。家畜小屋を建てるために使うレンガはいくつ?牛やヤギの病気の症状は?どの草が薬になるの?など、授業の内容は直接生活に関係があるものばかりです。「夜の学校」の教育ビジョンは草の根デモクラシー。近くの学校が3校集まって子供議会を作ります。大人の議会のように首相や文部大臣の役目もあり、他の学校の議会との話し合いもあります。学校の管理は子供議会に任されていて、カリキュラムを組むのも、教員の採用、退職について決めるのも子供議会の役目だそうです。

ソーラーランプの充電池が切れるまで数学、生物を学ぶ子供たちの動画をみながら「自分の受けた授業と比べてみると実に羨ましい」とニュース番組「ヴェルト・シュピーゲル」の司会者は述べていました。

「ベアフット・カレッジ」公式サイト、http://www.barefootcollege.org/

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最貧国の闇を照らす。女性のための「ベアフット・カレッジ」、“WIRED JAPAN”から、http://wired.jp/2013/01/02/barefoot_college/
新しい価値観で未来を創り直すために「裸足の大学」インドのベアフット・カレッジに学ぶこと、http://csr-magazine.com/2012/01/01/analysts-barefoot/

写真参照
SOS キンダードルフのルポから、http://www.sos-kinderdoerfer.de/getmedia/746ab91c-0d00-4d6c-97ae-c48dee0dd69c/ubuntu_Magazin8_Web.pdf
「ソーラーママ」、flickr. Barefoot Photographers

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