原発事故3年、変化するドイツ人の日本観

永井 潤子 / 2014年4月20日

東日本大震災から3年を迎えた今年3月11日、ドイツのメディアは特に福島原発事故後の日本の現状について大きく取り上げた。なかでも私の心に突き刺さったのは、ケルンに本拠を置くラジオ局、ドイチュラントフンクの解説だった。 全国を聴取エリアとするドイツで唯一の同局は、報道を中心とするレベルの高い番組で知られ、ラジオはこの局しか聞かないという人もかなり多 い。日が経つにつれてこの局の3月11日の解説がさらに重みを増して私の胸に迫ってくるようになった。

「終わりのない大惨事」というタイトルのニュース解説を同局のユルゲン・ハーネフェルト記者は次のような言葉で始めている。「どうしてこんな過ちを犯すことができたのだろうか。日本は高水準の技術を持つ国だと我々は 考えてきたのではなかったか? 創造力豊かな技術者と 信頼できる労働者の国、時間をきちんと守り、清潔で正確な仕事をする人たちの国だと考えてきた。こうした見方は早まった判断だという ことを我々は3年前に知ることになった。環太平洋火山帯に属する国である日本では、地震、津波、火山の噴火はしばしば起こる。そうした国で海岸沿いに原子力発電所をつくること自体、驚くべきリスクを冒すことを意味する。さらにこの原発では、津波を防ぐための措置も不十分だったといい、不注意のそしりを免れない。 しかも、この危険な原発を稼働させる東電は、法律で義務づけられている原子炉整備・保守の条件すら守っていなかったという。これは許すことのできない無責任さだと言わざるを得ない」。

同記者の解説には次のような説明が続く。「このことは日本の民主主義の大きな影の面、つまり、政治と経済、メディアと産業界の利益が密接に絡み合っていることから説明できる。この透明性のない利権の結託は、日本では“原子力ムラ”と呼ばれている。 このムラには、フクシマの被災者の東電や国に対する訴えを却下する検事たちも住んでいるようだ。そしてその村長は首相であることがますますはっきりしてきた。福島原発事故の人間的悲劇にも心動かされず、原子力業界と密接に結びついた安倍晋三は、原発輸出商人として世界を旅する。彼のメッセージは洗剤の広告のようにシンプルだ。『フクシマはコントロールされている』という彼の発言も『日本の原発は世界一安全だ』というグロテスクな主張も、ともにプロパガンダのための嘘である。彼はまた、日本の戦争責任に疑問を投げかけ、この問題で近隣諸国や同盟国と悶着を起こしているのと同一人物である」。

「ハーネフェルト記者のこうした指摘はもっともだ」と思う反面、外国人ジャーナリストからこれほど否定的な言葉を改めて突きつけられると、やはり日本人としてのプライド が疼く。

「ナショナリストを自認する安倍首相は、日本を新たに強い大国にすることを目指しているが、それは多くの場所で悪夢のような記憶を呼び起こしている。新しい強さのなかには平和憲法の改定、防衛力の強化、原爆製造のオプションも含まれる。日本の原子力発電所で生産されたプルトニウムはヨーロッパなどに貯蔵されているが、それはすでにかなりの数の原爆を製造できる量に達している。フクシマの大惨事からまったく何も学ぼうとしない日本政府。日本が本当に新しい大国の栄光を得たいと願うなら、安倍首相とは違う道を歩むべきではないだろうか」。

最後の一節は日本の一般市民に向けられた言葉でもあると受け取ることができるが、この言葉に私は社会民主党のブラント元西独首相らが昔よく主張していた「闘う民主主義」という言葉を思い出した。 最も民主的だといわれたワイマール憲法のもとでの民主主義体制がナチの独裁体制にやすやすと変わってしまった歴史的経験をふまえた警告の言葉で、「議会制民主主義は形骸化する恐れがある。真の民主主義を勝ち取るためには市民一人一人が絶えず闘っていかなければならない」というほどの意味だと私は受け取っていた。

日本に対する考え方が変わったというのは、ドイチュラントフンクの解説者だけではない。私は1972年から1999年までドイチェ・ヴェレ(ドイツの公共国際放送)で日本語放送の記者を務めていたのだが、4月初め、当時の職場で知り合った親友の誕生日を祝う会に呼ばれた。その席にはドイツの東西南北から彼女の親しい人たち30人ほどが集まっていた。そのドイツ人たちからも「なぜあれほどの過酷な原発事故を起こした日本が、原発を再稼働させようとしているのか」と説明を求められた。なかには「原発事故後の日本の対応はまったく理解できない。以来日本に対する見方が変わった」と率直に言う人や「大量の放射能汚染水が海に流れているのは国際的な犯罪ではないか。それなのに日本政府はその責任を意識していない」と批判する人もいた。

私は「日本人の大多数、特に原発事故の被害にあった人たちや女性たちは脱原発を心から願っているのだが、そういう国民の声が原発推進派の政府や経済最優先の産業界の方針に影響を与えることができないのだ」などと説明を試みたが、彼らを納得させるような説明はできなかった。結局「日本の民主主義は機能していない」という印象を持たれてしまったようだ。政府が国民の大多数の意志を無視して重要な決定をしてしまう時、主権者であるはずの国民はどうしたらそれを阻止できるのか、一応民主主義国であると考えられてきた日本でも有効で強力な手段がないことに今さらのように気付かされる。

メルケル首相が福島原発事故の後ドイツでの脱原発を決めた時「ドイ ツと同じような技術大国の日本ですら事故を防げないことが分かって衝撃を受けたから」と説明していたが、この3年間で彼女の日本に対する考え方も変わったのではないかと憂慮する。

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5 Responses to 原発事故3年、変化するドイツ人の日本観

  1. じゅんさん 
    はじめまして
    私は、垣内つね子と申します。看護師で、人権NGO≪言論・表現の自由を守る会≫の事務局長となって10年になります。
    じゅんさんとみなさんの貴重な記事に励まされ、当会のリンク集でも ウェブサイト「みどりの1kWh」を紹介させていただいております。
    ご批判の通り大量の放射能汚染水が海に流れている事態は、国際的な犯罪であり、フクシマと日本の人々の人間の安全保障にとって危機的状態であり、人道問題なのです。

    当会は、犯罪的な日本政府のこの問題を国連に告発するために、この度、国連自由権規約委員会第6回日本政府報告書審査(7月16・17日)において、フクシマから母子避難しているお母さんと子どもたちと一緒に、ロビーイングを行う計画を決定しました。
    ★ 勇気りんりん♪プロジェクト ピースナイン ★7月8日に成田を出発し、18日までジュネーブに滞在し、22日(ドゴール空港発)までドイツ・フランス等で活動したいと考え、旅費の募金に取り組み始めたところです。
    ぜひ、お知恵とお力をお貸しいただけないでしょうか?

    21世紀の日本で、2003年3月のイラク戦争開戦後、政府を批判するビラを配布したことが犯罪とされ、「白バラ事件」映画「白バラの祈り」のような弾圧事件6事件が起訴されました。
    イラクへの自衛隊派兵後、「ギロチンにこそかけられないが、ナチスドイツと同じ」日本のビラ配布弾圧事件が次々に逮捕起訴され、2008年~2012年までに、6事件のうち5事件が最高裁で有罪判決が確定してしまいました。

    私たちは、2008年からこの問題が国際人権規約(自由権規約)違反であることを学び、6事件を国連自由権規約委員会に通報し下記の勧告を手に入れ、なんとか国公法弾圧堀越事件堀越さん一人だけ無罪判決を確定させることができました。

    国連 自由権規約委員会第5回日本政府報告書審査 最終見解(勧告)2008年10月(抜粋)
    パラグラフ26 
     委員会は、公職選挙法の下での戸別訪問の禁止、選挙期間前に配布可能な文書図画への制限などの表現の自由及び参政権に対して課された非合理的な制約につき懸念を有する。委員会は、政治活動家と公務員が、私人の郵便箱に政府に批判的な内容のリーフレットを配布したことで、不法侵入についての法律や国家公務員法の下での逮捕、起訴されたとの報告についても懸念する。
      締約国(日本)は、規約19条及び25条の下で保護されている政治活動及び他の活動を、警察、検察官および裁判所が過度に制約しないように、表現の自由と参政権に対して課されたいかなる非合理的な法律上の制約をも廃止すべきである。

    日本は、公職選挙法(文書配布と戸別訪問禁止規定)と国家公務員法(102条人事院規則14-7)の弾圧規定によってまだ参政権が確立していません。
    しかし、日本ではマスコミも、憲法学者も国際法学者も、原発関係者もこの問題をスルーしています。
    日本弁護士連合会も、この言論・表現の自由の危機が“参政権を確立させる課題”であることを直視していません。
    まだ司法が独立していず、参政権も確立していない日本では、
    3・11後の貧困とチリングエフェクトによって、
    日本国憲法第9条が改悪の危機に直面しています。

    第2次世界大戦の侵略国である日本は、1979年に国際人権規約(自由権規約・社会権規約)を批准しており、憲法98条第2項で遵守義務を謳っていますが、個人通報制度を批准していないため、司法は無視し続けており、地裁・高裁・最高裁で1例も適応例はありません。
    ドイツには自由権規約よりも厳しい欧州人権条約があるため、自由権規約はあまり知られていないようですが・・・
    欧州ではこの欧州人権条約の下で、人種差別やヘイトスピーチを罰する法律が制定されていますが、日本では自由権規約20条に適応した「戦争宣伝の禁止」と「人種差別・ヘイトスピーチ」等を罰する法律はまだ制定されていません。

    いづれの個人通報制度も批准していない人権鎖国状態の日本では、いま、急速に「ナチスドイツ」礼賛勢力が台頭しています。
    朝鮮日報「日本の極右、池袋でナチス旗掲げデモ行進」 http://blogs.yahoo.co.jp/jrfs20040729/26126703.html
    【日本語訳付き】 ドイツ連邦共和国 国歌「Deutschlandlied(ドイツ)」https://www.youtube.com/watch?v=J3VNUjDLUH0
    ナチス党歌「旗を高く揚げよ ホルスト・ヴェッセルの歌Horst Wessel https://www.youtube.com/watch?v=y40MS2GKbyE

    長文にてすみません。
    日本において、政府を批判するビラを配布することが弾圧され続け、
    言論・表現の自由が確立していない危機的事態をご理解いただき、
    お力添えをいただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。

    • じゅん says:

      垣内つね子さま、コメントありがとうございました。みなさまの国際的な人権擁護の運動が成果をあげますようお祈りいたします。私たちにできることがあればご協力するつもりでおります。じゅん

  2. 市村一哉 says:

    震災から約1年間の間、私は大前研一さんの意見にも沿って、原発必要論でした。しかしその後発表された3種類の調査報告で事故原因の総括ができなかったこと - 国会調査委員会報告などは、なんと原因として日本人の国民性をあげていました - 、未だに汚染水の処置もできないこと、事故再発防止を所管する体制が明確に見えないことから、新設および再稼働反対に鞍替えしました。
    原発の期限付き廃止に踏み切り、また自然エネルギー優遇とそのコスト高(日本も既にそお壁に突き当たっています)に悩むドイツの日本に対する批判は当を得ていると考えます。

  3. 加藤聡子 says:

    3.11から4年を迎えた今、このページにやってきました。
    ドイツ人の日本人観が変わった、それは当然でしょう。
    記事の指摘は的確です。
    日本人である私自身の日本人観も絶望的に変わりました。
    日本にモラルは無い、科学はない
    少なくとも政策決定において、人間尊重のモラルも
    事故原因究明の科学もない。

    そう嘆いても致し方ありません。
    原子力村長は首相であることがますますはっきりしてきた。福島原発事故の人間的悲劇にも心動かされず、原子力業界と密接に結びついた安倍晋三は、原発輸出商人として世界を旅する。
    これは素晴らしい指摘です。これを使いたい。
    村長の部下の文科省は、あろうことか、子どもに被曝推進教育をして
    原発再稼働の後押しを始めています。
    続きは別の記事にコメントします。

  4. じゅん says:

    市村さま、加藤さま、

    貴重なご意見をありがとうございました。これからも個別の記事にコメントをお寄せくださるのを、楽しみにお待ちしています。