ドイツで最も影響力のある女性経済学者 - ロビイストのウソ

あきこ / 2014年4月6日

Claudia Kemfertベルリンの日刊紙「デア・ターゲスシュピーゲル」は日曜版に長いインタビュー記事を掲載する。様々な分野の人が登場し、インタビュアーも突っ込んだ質問をするので、なかなか読みごたえがある。3月31日は女性経済学者クラウディア・ケンフェルト教授のインタビュー。現在45歳の同教授は、35歳の若さでベルリン・フンボルト大学の経済学教授になり、同時にドイツ経済学研究所 (DIW、Deutsches Institut für Wirtschaftsforschung) のエネルギー・交通・環境部門の部長も兼務している。「ドイツは自分たちのエネルギー転換に誇りを持て」という彼女の主張をまとめてみる。

「エコ電気をドイツ人の気まぐれだと切り捨てようとすることこそ戯言」と最初からケンフェルト氏は断言する。以下、“ドイツ版浜矩子教授”の言葉の抜粋である。

デンマークをはじめ、世界の100を超える国が再生可能エネルギーを財政支援している。エネルギー転換をあげつらうなんてとんでもない。もしドイツが産業国として再生可能エネルギーへの転換に成功すれば、世界中にドイツを手本にする国ができるだろう。これこそ我々が気候保護のためにできる最善のことだ。再生可能エネルギーの費用はどんどん下がり続けている。あとは市場が動き、成功あるのみだ。

現在の連立政権はガス、石炭に戻ろうとしているが、これは大変危険だ。遅かれ早かれ化石燃料は枯渇する。転換が遅れれば遅れるほど、費用がかさむ。確かに電気代は上がったけれども、残念なことに再生可能エネルギーが費用高騰のスケープゴートにされてしまった。多くの企業が賦課金を払っていないのだ。各家庭の電気代が企業の賦課金を間接的に負担している。電力市場では1キロワット時が4ユーロセント(6円弱)以下なのに!電力供給会社が実際の電力値下げ分を個人消費者に戻していないというのが事実だ。素晴らしい取引だ。賦課金は上がっているが、その理由は太陽光発電や風力発電の増設ではなく、既存の古い発電所が生産量を下げないからだ。その結果電力超過が起きて、市場の電力価格を抑えている。エコ電気に対する固定買取価格と市場価格の差が広がるために、賦課金が上がっている。電力供給会社は電力取引市場での下がった価格を考慮せず、賦課金を電気代に上乗せするだけだ。これは決して正当化できない。

電力会社は最近まで膨大な利益を得ていた。そして古い電力発電に投資を続けてきた。ところがエネルギー転換決定後、収益がガタ落ちしたため、大音響で国から補助金を得ようとしている。エネルギー転換は一夜にして起きたものではない。準備する時間はあったはずなのに。さらにドイツ電力大手4社の一つであるRWEの損失はイギリスとオランダで生じた。もう一つの大手EONの損失もロシアからのガス供給会社が料金を吊り上げたためだ。再生可能エネルギーが会社に損害をもたらしたという主張で、自分たちの失敗から目をそらそうとしている。

産業連盟、銀行、化学会社、鉄鋼会社は口をそろえて電気代の高騰によってドイツの産業が解体するという脅しをかけているが、ここ10年の間で電力取引市場での電力価格は今が一番安い。大企業は直接電力取引市場から電気を買い取るので、賦課金を払っていない。最も電力消費の高い産業の一つがアルミニウム産業だが、その業界のトップがエネルギー転換のお蔭で利潤が上がったと認めている。オランダのアルミニウム会社が最近閉鎖されたが、その理由はドイツの安価な電気代との競争に敗れたというものだった。このような状況にもかかわらず、エネルギー転換が経済に衰退をもたらすとヒステリックに叫ぶのは、大企業が既得権益を守りたい、ただそれだけだ。石炭、ガス、原子力による発電から再生可能エネルギーへの転換の道を歩みたくないのだ。

石炭による火力発電ではドイツでは4万人の雇用がある。ところが再生可能エネルギーの拡充においてすでに38万人の雇用が生まれた。もしエネルギー転換にブレーキをかけなければ、さらに18万人の雇用が見込まれている。過去のロビイストの力が将来のロビイストよりも力があるため、中小企業から雇用創出の実態について声を挙げてもかき消されているのが現状だ。過去のロビイストの声を代表しているのが、ガブリエル経済・エネルギー相だ。

「太陽光発電における賦課金はムダ金だった、最終的には1千億ユーロ(約14兆2千億円)が開発に投資されたが、今では太陽光パネルは中国で生産されている」というのは神話。この金額は過去30年という期間であり、しかも雇用を生み出した。ところが燃料の輸入にドイツはなんと毎年1千億ユーロ弱を支出している。太陽光発電の促進で多くのことが達成された。技術革新の結果、カリフォルニアにある最新の太陽光発電所では1キロワット時を3.5ユーロセントで生産している。これは石炭や原子力よりも安価だ。それなのにドイツの太陽光発電会社が倒産してしまったのは、政府の失敗だ。中国の生産会社は国から巨額の貸し付けを受けているために、電力生産を安価にすることができた。ドイツでは他の分野では国が援助しているのに、太陽光発電企業に対しては冷たかった。

インタビューが終わるころ、次のアポに間に合うように、教授が秘書にタクシーを呼ばせた。すぐさまインタビュアーは「あなた自身、気候保護のために何をしているのか。タクシーを使っているではないか」と質問したのに対し、「いつもは公共の交通機関や自転車で通勤している。休暇も遠くに飛行機で出かけず、北海で過ごす。地域で生産された品物を買うことにしている。職業上、どうしても飛行機に乗るときは、国際的気候保護プロジェクトに寄付している」と答えている。

小気味よいインタビューで、まさに溜飲が下がる。ケンフェルト教授の著書『電気をめぐる闘い - 神話、権力、独占 (Kampf um Strom – Mythos, Macht, Monopol)』(2013年刊)を読んでみたいと思う。

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