『なぜドイツは脱原発を選んだのか』を読んで

えみぃ / 2013年9月29日
『なぜドイツは脱原発を選んだのか』

『なぜドイツは脱原発を選んだのか』

なぜドイツは脱原発を選んだのだろうか?どんな歴史的経緯を経てドイツが脱原発を決定したのだろうか?まさにそのような疑問に真正面から答えを出してくれる本『なぜドイツは脱原発を選んだのか』(合同出版)が、この夏日本で出版された。読書の秋を目前にした今、この本を手に取ってみてはいかがだろうか。

本の概要・感想

この本は、これまでおよそ半世紀にわたって環境ジャーナリストとして活躍を続けてきた川名英之氏の新著である。第二次世界大戦の終結後から、現在に至るまで時系列的にドイツの脱原発の歴史を詳述してある。具体的には旧西ドイツの原発開発の草創期から、緑の党の誕生、チェルノブイリ事故の反応、このサイトでも連載したシェーナウ電力会社、そして福島の原発事故と脱原発の決定、さらに近年ドイツで議論の的となっている放射性廃棄物最終処分場探しの話まで盛りだくさんだ。年代によって章別に区切られているので、特定の年代の政策についてのみ知りたい人にも読みやすい構成となっている。私の印象では、文献で読んだことのある歴史的な内容から始まり、人づてに聞いたことのあるテーマへと移り、終盤の福島事故以降の事象を扱う章ではドイツのニュースで実際に見た内容が扱われていた。チェルノブイリの原発事故後に生まれた私にとっては、本を読み進むにつれ少しずつ実感が増してドイツの脱原発への歩みが自分に近づいてくるようで面白かった。本の最後には「ドイツと日本の歩み比較年表」が資料としてまとめられており、これまでの独日のエネルギー関連政策の概要を一目で得ることができる。

特徴

さすが、ベテラン環境ジャーナリストの集大成といえるだけあって出来事の日時や様々な数値が、事細かに掲載されている。これは数年間のインターネット中心のリサーチ結果には到底敵わない膨大で貴重なデータの累積結果ではないかと思う。この本は、読み物としてだけではなく、ドイツ脱原発運動の歴史の詳細な「記録」そして「資料」として価値があるといえる。著者自身が撮影した写真もいくつか掲載されており、著者がドイツでの現地取材を長年繰り返した証明として本の内容の信憑性を高めている。ドイツの政治家たちの若き頃の写真の数々は、現在の彼らの姿を知る人にとっては特に興味深いはずだ。

具体的な数値に基づいた詳しいドイツの原発・エネルギー政策の情報が欲しい人には、この本は向いていると思う。一方で、なぜドイツは脱原発を選んだのか?という問いに対して単に短い答えを求めている人、もしくはドイツの政治、歴史にあまり関心がなく再生可能エネルギー関連の導入書籍を探している人にはあまり向いていないかもしれない。そういう人にはドイツの脱原発決定までの歩みが簡潔に書かれているミランダ・A・シュラーズ著『ドイツは脱原発を選んだ』のほうがおすすめだ。川名氏のこの新著はどちらかというと、近代史好きの人や、ドイツの脱原発情報をもっと踏み込んでリサーチしたい人向けという印象を受けた。

最後に

実をいうと私は、みどりの1kwhの大黒柱である「じゅん」さんと共にこの本の編集に少し携わった。あとがきには、みどりの1kwhの紹介も載せていただいたのでこの場を借りてお礼を申し上げたい。少し裏話をすると、著者の川名英之さんと「じゅん」さん、そして私は世代を超えた大学の同窓生である。大先輩のお二人とともに、一つの作品づくりに関わることができたのは大変貴重な経験だった。

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