「水、水、水」、わかっていたのに何もしてこなかった!

あきこ / 2013年9月8日

東日本大震災が日本を襲い、福島原子力発電所での大惨事が起きてから2年半近くになろうとしている。事故から9か月余り経た2011年12月16日、当時の野田首相が原発事故収束を宣言した。この“収束宣言”を疑問視するドイツのメディアの報道についてはすでにこのサイトでも伝えている。福島の事故以来、テレビのニュースと新聞、さらにオンラインで読める新聞・雑誌を一生懸命読んでいるが、8月20日以降、ドイツのメディアで福島に関するニュースが目立って増えている。汚染水の海洋への流出、貯蔵タンクからの汚染水漏れがその原因だ。いくつかの代表的なメディアを見ていると、東電だけではなく日本政府への不信の声が聞こえてくる。

主に見ているのはドイツ公共放送連盟(通称ドイツ第一テレビ、ARD)、ドイツ第二テレビ(ZDF)、週刊誌シュピーゲル、週刊紙ツァイト、日刊紙のフランクフルター・アルゲマイネ、南ドイツ新聞、ターゲスシュピーゲルなどだが、気持ちが重くなるニュースばかりが並んでいる。

参議院選挙が終わり、安倍政権が誕生したのを見計らったように、汚染された地下水が海に流出、さらに貯蔵タンクからの汚染水漏れ、原子力規制委員会が汚染水流出について、国際原子力・放射線事象評価尺度(INES)の「レベル3」に当たることを発表したニュース、9月に入ってから、東電に任せているかぎり事態の解決に至らないと判断した政府が、国費を大量に投入して、放射能汚染水対策に乗り出すことを報じるニュースが続いている。これらのニュースを、ドイツのメディアはどのように見ているのだろうか。

まずドイツ第一テレビは、国費470億円の投入より以前に、地下水が原子炉内に流入するのを防ぐ凍土による遮蔽壁の設置、高機能の浄化装置の開発が技術的に可能かどうかに疑問を呈している。汚染水対策が技術的に可能かどうかもわからないまま、巨額の国費、つまり税金を投入するのは、「2020年のオリンピックを東京に招致するためであり、日本政府はどうしてもこの対応で成果をあげなければならないのだ」と述べている。

ドイツ第二テレビは繰り返し原発事故の問題を取り上げ、専門家による解説を交えながら「一に水、二に水、三に水。水が問題であることは、事故が起きたときからわかっていた問題である」と強調。福島からのヨハネス・ハーノ記者の報道は、「東電の事故対策はうまくいかなかった。それにしても理解できないのは、日本政府が何もせず、東電に任せっきりで放置してきたことである。もしまた地震が起きれば、今度は日本だけではなく世界にも取り返しのつかない惨事になるだろう」という言葉で終わる。

シュピーゲル誌も、膨大な国費投入の背後には2020年のオリンピックの東京招致があると述べ、「福島の大惨事によって他の立候補地であるマドリッドとイスタンブールに勝つチャンスを失う可能性を恐れている」と書いている。

ツァイト紙は「福島とリスクの私物化(Fukushima and the Privatization of Risk)」を書いたアリゾナ州立大学のメーヤ・ネイドソン(Majia H. Nadeson)の「すべての危機管理に関する教科書は、事態がいかに悪くても正直にそのことを伝えるように教えている。そうでなければ世間の信頼を得ることはできない」という言葉を引用しつつ、東電がいかにこの教科書の逆を行ってきたかを明らかにしている。人々が不安に陥らないように事実を過小評価しているというのだ。東電の広瀬社長が原子炉地下から汚染水が海洋に流出していることを知って驚いたと述べたことについても、ツアィトの記事は信頼できないと書いている。国費の投入については、「安倍首相は東電をスケープゴートにしようとしている。メッセージは明らかだ。問題なのは原発ではなく、無能な東電だというメッセージを発している」と手厳しい。

フランクフルター・アルゲマイネ紙は東電の広瀬直己社長にスポットを合わせた記事を掲載した(8月21日)。就任直後は、東電に新風を吹き込むと述べていた広瀬社長だが、原発事故直後、高血圧を理由に数日間姿を現さなかった当時の清水正孝社長と同じように、「問題が表面化するやいなや、するりと身をかがめ逃げてしまう」と表現。広瀬氏が力を注ぐのは、「外部あるいは政府からの介入を防ぐことと、停止中の原発の再稼働に向けて地元を積極的に説得するときだけだ」と述べている。

このサイトでも何度か登場した南ドイツ新聞のクリストフ・ナイトハート記者は8月26日の「目をそらすことが機能しなくなるまで」というタイトルの長い記事で、停止中の原発を再稼働させることが経済成長を支えるとする安倍首相と東電の体質に鋭く切り込んでいる。「メディア、歴代の政府、とりわけ原発で起きた今までの事故の隠ぺいを手助けしてきた経産省は事実から目をそらしてきた。野田前首相は事故の収束を宣言さえしたのだ。そして人々は、詳しく検証することなく権力者の発表を信じるのだ。・・・(中略)国民の半数以上が再稼働に反対する中、経済成長に原発は不可欠と考える安倍首相は、再稼働を参議院選挙の争点にしなかった。正常な状態に戻ったと見せかけるために多額の費用を投じて広域にわたって除染作業を進めてきた。退去させられていた地区に戻ろうとしない住民たちには補償は支払われない。メディアは、再び居住が可能になったと書きたてている」と続く。「除染をしたところで、雨が降れば再び線量が上がること、すでに44人の子供たちが甲状腺がんにかかっていることにも政府は耳を貸そうとしない。統計的に見れば重大な数値ではなく、子供たちは原発事故の前から病気だったという政府関係者すらいる」という。「安倍首相が正常だと見せようとするのは、停止中の原発再稼働のためだけではなく、原発の輸出をもくろんでいるからだ。すでにベトナム、トルコは顧客になった。インド、アラブ首長国連邦、チェコ、スロバキア、ハンガリーへの輸出を考えている。原発セールスマンは湾岸諸国訪問を予定している。・・・東電は原子炉の周囲に凍土による遮蔽壁を作ると言っており、政府も事態を静観している。何も起こっていないのだから、目を向けなくてもよい」と記事を締めくくっている。

ターゲスシュピーゲル紙は汚染水漏れが報道された後の9月2日には、1997年に故高木仁三郎とともに「もう一つのノーベル賞」といわれるライト・ライブリフッド賞を受賞したエネルギー政策の専門家マイケル・シュナイダー氏とのインタビューを掲載した。同氏は凍土による遮蔽壁について、「この手法は膨大な電力を必要とする。ネズミで停電事故を起こしたことを考えると、電力にたよるこの方法は新たな被害を起こしかねない暫定措置だ」と述べ、事態解決には国際的な専門家10数人によって構成されるタスクフォースの必要性を主張する。福島の事故がもたらす結末についての信頼に足る評価があるのかを尋ねられたシュナイダー氏は、「このような評価をするためには、大気中に出された放射性物質の測定と特定の住民グループの被ばく量の測定が必要である。しかし、最初の2ヶ月間、現場の作業員には線量計が渡されなかった。これは犯罪的な行為と言える。この結果、一人一人の作業員の被ばく量が正確に測定できず、今後現れうる健康被害についても明確なことが言えない。海水の汚染についても、今までの評価に矛盾が生じるだろう。これからどんな衝撃的な事実が明らかになるか、残念ながら我々は覚悟しておかなければならない」と述べている。

これらの報道も、また“ドイツ式過剰報道”と言われてしまうのだろうか。

Comments are closed.