映画「シェーナウの想い」日本語版制作者インタビュー

みーこ / 2013年7月21日

ドイツのエコ電力供給会社EWS(シェーナウ電力会社)を紹介する映画「Das Schönauer Gefühl(シェーナウの想い 〜自然エネルギー社会を子どもたちに〜)」の日本語版を見て感銘を受けた私は、どういう経緯で日本語版を作ることになったのか、反響はどうなのか、ぜひ知りたいと思った。そこで、日本語字幕版を作り、日本で上映運動をしているその団体「自然エネルギー社会をめざすネットワーク」にメールを出してみた。返事をくださった共同代表の佐山摩麗子さん(現在日本在住)からの返信メールをもとに、インタビュー形式でやりとりをまとめてみた。

—佐山さんがこの映画のことを知り、日本語版を作ろうと考えた経緯を教えてください。

佐山「福島での原発事故後、食品が汚染されているのではとみんな疑心暗鬼になっていました。それで、粉ミルクやベビーフードを日本に輸入できないかなと思って、2011年4月にドイツのフライブルクへ行きました。フライブルクを選んだのは、環境首都と言われているからです。食品を送るだけでなく、ドイツの自然エネルギー社会を学びたいと思ったのです。フライブルク大学のサマースクールにも参加したのですが、大学の自然エネルギー講座でEWSのことを知りました。そして半年後に帰国したとき、この映画『Das Schönauer Gefühl』を日本語訳をつけて広めようと思いたちました」

—粉ミルクやベビーフードを日本に送る件は、うまくいきましたか。

佐山「それが、法律の壁が厚く、粉ミルクは高い関税をかけられてしまい、日本に送るには個人輸入が限界だとわかりました。ベビーフードだけでも、個人輸入ではなく、正式な手続きを踏んで輸入できないかと思ったのですが、食品を輸入するにはやはり責任が伴います。当時、日本の子どもたちは、放射能の影響かどうかはわかりませんが、体調を崩す子が多く、ドイツのベビーフードが原因とされた場合の対応が難しいので断念しました」

—環境首都フライブルクからは、どんな印象を受けましたか。

佐山「フライブルクの中でもとりわけ環境意識が高く、緑の党の支持者が多いヴォーバン地区に住んだのですが、生活の中から学ぶことも多かったです。幸運にも、初期に建てられた生粋のパッシブハウス(省エネを考えて設計された家)にも1か月半ほどホームステイすることができました。ドイツは、良い意味で合理的だということを生活のなかで感じることが多かったです。無駄を嫌う、というのでしょうか? 大きな家ではなく、コンパクトな家に住むことこそ、エネルギーロスがないという考えが浸透していたように思います」

—日本語字幕制作の実務、映画の権利関係の処理などは大変だったでしょうね。

佐山「はい。フライブルクで知り合った、日本人が環境を学ぶ勉強会『エコ・フライヴィリヒ』の及川斉志さんが翻訳を担当してくれて、その翻訳ファイルをネット上で共有し、私を含む4人のメンバーでさらに練り上げていきました。EWSは『DVDを商用映画として公開しないのであれば、著作権料は要らない』と言ってくれて、ありがたかったです」

—それでも、日本語版を制作して上映するためには、ずいぶんお金がかかったでしょう?

佐山「ええ。映像の著作権料は要らないとは言え、日本語版DVDを作るにはデータ購入が必要でした。データ購入やDVD制作で、合計20万円ほどかかりましたね。エコ・フライヴィリヒのメンバーたちができる範囲でカンパしてくれたことに感謝しています。とは言え現在も、DVD焼き増し費用などで、経費が赤字状態というのが実情です。貸出窓口が増えるのは嬉しいんですが、それだけDVD焼き増し費用の負担が今後も増えていくでしょうから、そこの調整をなんとかしたいと思っています。善意で寄付をいただける場合はいただいていますが、どこの団体も活動資金が足りないのは同じなようで、200の上映会主催団体のうち、寄付をくださったのはこれまで3団体です」

—日本語版DVDをどう広めていくかについて、迷ったりもめたりはしませんでしたか?

佐山「脱原発色をどの程度打ち出すかについて、エコ・フライヴィリヒのメンバーとは意見が食い違う場面がありました。企画書を読んだエコ・フライヴィリヒのメンバーの中には『もっと脱原発色を打ち出してほしい』という人もいたのですが、日本では脱原発を声高にうたってしまうと、無関心層が寄りつかなくなるという空気があると私は思っていました。そこで、あえてソフト路線を目指し、『自然エネルギー社会を子どもたちに』という副題をつけました」

—「貸出窓口を作って上映会をする」という方式は少し手間がかかりますね。シンプルに、DVDをほしい人に売るという方式は考えませんでしたか?

佐山「この映画には、ドイツのテレビ局が著作権を保有する映像も使用されていて、EWSでさえもドイツ国内ではDVDを無償配布しかできません。ですから、日本でも著作権上、無償上映しかできないのです。また『上映料・鑑賞料を無料にして、経済的余裕がない人にも見てほしい』と強く願ったのも、無償にした理由の一つです。日本はもともと映画チケット代が高いですし、日本語版を作ろうと思った当時は日本ではたくさんの方が被災して大変な思いをされていました。そういった方々にこそ、映画を見てほしいと思いました。被災した方の中には、原発で仕事や生活が成り立っている人も多かったと思いますが、そういった方々へ『自然エネルギー社会には希望がある』ということを、ぜひ映画を通じてお伝えできればと思いました。そして貸出窓口を作ることで、映画に共感する人の輪を広げていきたいと思いました」

—日本では上映会の動きが広がっているようですが、手応えはありますか?

佐山「はい。確実に上映会は広まっています。最初はメール管理を全部私が一人でしていて大変だったのですが、今では貸出窓口が順調に増えてそちらで対応してもらえるので、だいぶ楽になりました。でも今でも、毎日3通ほどはメールで問い合わせがありますね。嬉しかったのは、駐日ドイツ大使館と総領事館が貸出窓口になってくれたことですね。ドイツが国として公式に映画普及の手伝いをしてくれるということをありがたく思いましたし、この映画がドイツと日本の架け橋になったような気がして感激しました。最近では、全国発行部数130万部のカタログ雑誌『通販生活』の2013年春号で、EWSのことが紹介されるという出来事もありました」

—環境問題や脱原発などのテーマに関心がある日本人へのメッセージ、今後の抱負はありますか?

佐山「私は、マザー・テレサの『愛の反対は無関心』という言葉に共感するのですが、このことが伝わるといいな、と思っています。『まだまだたくさんの方たちが原発のせいで苦しんでいる日本。原発問題に関心を持ち続け、子どもたちに原発のない社会を残してあげることこそが、マザー・テレサも言っている愛なのだ』ということが、映画を通じてたくさんの方に広がるといいな、と思っています。そもそも私が映画を広めたいと思ったのは、ひとえに、子どもたちの幸せを願ったからなのです。ですから今後も、子どもたちが希望を持てる社会になれるよう、自分でできるかぎりのことを頑張りたいな、と思っています。今はいじめ問題にも取り組み始めて、『いのちシリーズ』という活動の代表もしています」

<佐山摩麗子さんプロフィール>
静岡県熱海市在住。化学物質過敏症になった自らの経験を生かしつつ、宅建免許をとってシックハウス対策リフォームの仕事をしていたが、今年から湯河原の児童養護施設で英語学習ボランティアを始めたのをきっかけに、子どもの教育関係に進むことを模索中。2011年に半年間ドイツのフライブルクに在住し、そこで出会った映画「シェーナウの想い」日本語版制作を発案し、実現に尽力した。

 

<映画「Das Schönauer Gefühl(シェーナウの想い 〜自然エネルギー社会を子どもたちに〜)」(2007年制作、60分)を見る方法>

・ドイツ語版(ドイツ語音声、字幕なし)
EWS(シェーナウ電力会社)のウェブサイトの右側「Dokumentarfilm」をクリックすると、紹介ページが現れ、Eメールで無料でDVDを取り寄せることができる。

・日本語版(ドイツ語音声、日本語字幕)
「自然エネルギー社会をめざすネットワーク」のページの左側「上映情報」を見て近くの上映会に行くか、「貸出の流れ」を見て、自分で上映会を主催する。

 

関連ウェブサイト
佐山摩麗子さん主宰の「いのちシリーズ」ウェブサイト
「シェーナウの想い」日本語版字幕を制作した及川斉志さんのウェブサイト

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2 Responses to 映画「シェーナウの想い」日本語版制作者インタビュー

  1. ご無沙汰しております。
    「さよなら原発デュッセルドルフ」 の高岡です。

    2013年8月9日、長崎原爆忌68年目のこの日、「自然エネルギー社会をめざすネットワーク(http://www.geocities.jp/naturalenergysociety/)」さまからのDVDが届き、私たちはドイツにおける、この映画の貸し出し窓口団体となりました。

    ドイツとヨーロッパで貸し出し窓口のない国の団体の環境保護や自然エネルギーに関心のある団体に貸し出しをさせていただきます。

    団体名:Atomkraftfreie Welt-SAYONARA Genpatsu Düsseldorf e.V.
         ドイツ『登録公益社団法人』 さよなら原発デュッセルドルフ
    責任者:藤井隼人・フックス真理子・高岡大伸
    E-mail:sayonaragenpatsu@hotmail.com
    電話番号:02150/911650

    宜しくお願い致します。

  2. みーこ says:

    高岡さま

    お知らせありがとうございます。
    貸出窓口として活動なさるとのこと、敬服しました。
    日本語版は「ドイツ語音声+日本語字幕」という組み合わせなので、
    ドイツ在住の日本人は、ドイツ人の友だちと見てもいいかもしれませんね。
    みんなが、シェーナウのような試みを知ることで、少しずついい方向に
    進んでいけるといいなあと思います。