市民運動の熱気を伝える映画「シェーナウの想い」

みーこ / 2013年7月14日
映画「シェーナウの想い」DVD。日本語版(左下)とドイツ語版(右上)

映画「シェーナウの想い」DVD。日本語版(左下)とドイツ語版(右上)

これまで3回に分けて、反原発の市民運動から生まれた、ドイツのエコ電力供給会社EWS(シェーナウ電力会社)について、ご紹介した(第1回第2回第3回)。このEWSの成り立ちや企業理念を紹介した映画「Das Schönauer Gefühl」(2007年制作、60分)のDVDは、EWSのウェブサイトから無料で取り寄せることができる。また、映画の上映運動が日本で広まっているという。今回は、この映画について、私の感想を交えながらご紹介したい。

この映画は「Das Schönauer Gefühl(シェーナウの想い)」というドキュメンタリー作品で、EWSの歴史や企業理念をまとめたものだ。チェルノブイリの衝撃、電力会社設立の苦労、電力供給権を獲得するための住民投票、市民グループをつぶそうと立ちはだかる大手電力会社との戦い……といったことが、当時の映像と共に紹介されている。

企業の宣伝映画とも言えるものなので、見る前は、映画としての面白さは正直あまり期待していなかった。ところが、実際に見てみると、この映画、エンターテインメントとしても十分面白いのだ。映画自体は2007年に作られたもので、市民グループの中心となったウルズラ・スラーデックさんやミヒャエル・スラーデックさんらが、昔のことを振り返りながら語る方式になっている。チェルノブイリ事故の起こった1986年からついにEWS設立に至った1997年まで、市民運動に奔走していた若い頃の姿と、少し年をとった現在の姿。それらが交互に出てくる映像から、人としての歴史や人間的厚みを感じることができた。

クライマックスは、EWSが電力供給権を獲得できるかどうかを問う2回目の住民投票のシーンだ。ある投票所で、開票係を務めていたミヒャエルさんが疲れ切った顔でつぶやき、首を振る。「足りない……。6票足りない。ダメだ……」。別のメンバーが励ます。「もう一つの投票所がある。そっちはどうだ?」「こっちは……EWS側の勝ちだ!」そして、抱き合って喜ぶメンバーたち。この投票でEWS側が勝ったという事実をあらかじめ知っていたにも関わらず、映画のこのシーンでは、見ているこっちまで何だかドキドキしてしまった。

そして、市民グループの前に立ちはだかる大手電力会社のKWRが、やることなすこと憎らしいのも、何だかハリウッド映画の悪玉のようだ。まずは、カネにモノを言わせて市との電力供給権の前倒し契約を取り付けようとする。やっとのことで電力供給権を引き継げることになったはずのEWSに異議を申し立て、住民投票をしかけてくる。2度目の住民投票対策で、市民グループ側(EWS側)はもうヘトヘトだ。そして、極めつけは、2億円程度のはずの送電網の値段を一気に4.5億円程度へと引き上げてきたくだりだ(その後、約3億円に値下げ)。何ともドラマチックな展開だが、これはハリウッド娯楽映画ではなく、実話なのだ。

資金不足に悩むEWSに、救世主のように手を差し伸べたGLS銀行(世界で初めて環境保護と社会貢献を目的に1974年に設立されたドイツの銀行)の役員が語るシーンも良かった。銀行役員と言えば、お堅い灰色のスーツに地味なネクタイが相場だが、この役員の格好はノーネクタイによれよれのジャケット。これもまた、意外性のあるアンチヒーロー登場といった感じで面白かった。

また、最後のほうに出てくる地元の牧師の言葉には希望を感じた。住民がEWS側とKWR側に分かれて争ったあと、EWSが勝ったものの感情的なしこりが残った。しかし、町の教会にソーラーパネルを取り付ける過程で、双方の住民が溝を埋めていったのだという。「私はこの教会が、住民の和解の場となったことを誇りに思っています」と牧師は胸を張っていた。

資金集めのため、講演会にテレビ出演にと、全国をかけずり回る住民グループの中心メンバーたちの前に、多くの支援者が現れ、多額の寄付が集まる様子も感動的だ。環境問題や脱原発のみならず、民主主義とは何かということも考えさせてくれる映画だと感じた。

さて、最近この映画の日本語字幕版「シェーナウの想い 〜自然エネルギー社会を子どもたちに〜」ができ、日本で上映運動が広がっているという。「シェーナウの想い 上映会」「シェーナウの想い 感想」といったキーワードで、インターネットで検索すると、上映会に行った人の熱のこもった感想がたくさんヒットする。この映画は、下記の方法で、ドイツでも日本でも鑑賞することができる。興味を持った人は、ぜひいずれかの方法で、この映画を実際に見てほしい。次回は、日本でこの映画の上映運動をしている団体「自然エネルギー社会をめざすネットワーク」の共同代表、佐山摩麗子さんのインタビューをお伝えする。

 

映画「Das Schönauer Gefühl(シェーナウの想い 〜自然エネルギー社会を子どもたちに〜)」
(2007年制作、60分)を見る方法

<ドイツ語版(ドイツ語音声、字幕なし)>
EWS(シェーナウ電力会社)のウェブサイトの左側「Dokumentarfilm」をクリックすると、紹介ページが現れ、Eメールで無料でDVDを取り寄せることができる。

<日本語版(ドイツ語音声、日本語字幕)>
「自然エネルギー社会をめざすネットワーク」のページの右側「上映情報」を見て近くの上映会に行くか、「貸出の流れ」を見て、自分で上映会を主催する。

One Response to 市民運動の熱気を伝える映画「シェーナウの想い」

  1. Pingback: 映画「シェーナウの想い」日本語版制作者インタビュー | みどりの1kWh