ドイツの脱原発、どうなってるの? 〜友人との会話より〜 (2)

みーこ / 2012年12月9日

日本の友人との会話を再現しつつ、ドイツの脱原発についての、日本人のよくある疑問に答えるこのシリーズ。今回は「脱原発を決めた政治家が批判された?」「ドイツはフランスの『原発電気』を買ってる?」「日本はドイツ人にはどう見える?」にお答えしたいと思います。

脱原発を決めた政治家が批判された?

友「このあいだの話では、ドイツでは政治家も一般国民も経済界も、みんな脱原発を支持してるってことだったよね。でも前に、日本のメディアで『脱原発を決めたメルケル首相が批判を浴びた』っていう記事を読んだんだよね。それに『ドイツでは国会でも脱原発について大もめしてる』っていうのも聞いた気がする。これはどういうこと?」

私「ああ、それは、ちょっと古い話かな。まず、『脱原発を決めた直後にメルケル首相が批判を浴びた』っていう事実は確かにあったよ。でも、その理由は、福島の事故までは原発を推進していたメルケルが、急に脱原発へと方針を転換したから、もともと脱原発を唱えていたほかの党が『そら見たことか!』って言い出したってこと。ほかの党としては『脱原発を長年やってきたのは、うちらの党。手柄を横取りするなよ』って言いたいわけ。まあ、ドイツ政界の政局というか、勢力争いというか、ね。あと今年の初め頃は、脱原発派に転じたはずのメルケルが、なかなか具体策に手をつけないので批判されてた

友「はあー、日本でもドイツでも、政局はいろいろあるんだね〜。ねえ、脱原発政策は、ドイツでは『手柄』って感じなの?」

私「そうだね。だって、ドイツの議会では、採決に参加した議員600人のうち、脱原発法案に賛成だったのが513人だったんだよ」

友「圧倒的だね。でも、賛成しなかった議員も90人くらいはいるんだ?」

私「いやいや、反対票のうちのほとんどは、『脱原発の程度が甘い。もっと早く進めろ! 憲法に明記せよ!』っていうような立場の人からのものだったんだよ」

友「へえ〜。すごいな、それ。じゃあ、原発推進派の政治家は本当にまったくいないの?」

私「いなくはない。反対票のうち7人は『脱原発法案は過激すぎる。もっとゆっくり脱原発していこうよ』っていう立場。でも彼らも、『推進派』というよりは『現状維持派』もしくは『ゆっくり脱原発派』くらいかなー」

友「へえ。日本との違いにビックリするなあ。じゃあさ、『ドイツでは脱原発について大もめ』っていうのは、どういうことなんだろう?」

私「それなんだけどさ。そういう報道を読んだり見たりする際は、日本人とドイツ人のメンタリティーの差を考慮しないといけないんじゃないかな。日本では『批判』とか『論争』とか聞くと、『ケンカしてる! うまくいってないんだ。もうダメだ〜』ってなっちゃうじゃない?」

友「まあ、日本は『和をもって尊しとなす』国だからね〜。批判とか論争っていう言葉にはマイナスイメージがあるよね」

私「でも、ドイツでは議論することは決して悪いことじゃないし、話し合って物事が前進し改善されていくんだから、むしろ議論は歓迎すべきことだってみんな思ってる。エネルギー問題は、どこの国でも大きな課題なんだし、最初はいろんな意見が出て侃々諤々の議論になるのは当然のことじゃない? ドイツで脱原発に対する議論が盛んになっているのを日本のメディアが報道するのはいいんだけど、『非難の応酬で、政策がうまく行ってない』って報じてるのを見ると、何か違うなあと思っちゃうよ」

フランスの「原発電気」を買ってる?

友「もう一つ聞きたいことがあってさ。ドイツの隣のフランスは原子力大国で、ドイツはそこから電気を買ってるんでしょう? 自分の国だけ脱原発しても、隣の国に汚いものを押し付けてるんじゃ、身勝手すぎない?」

私「う〜ん、それは、そう単純な話でもなくてね。まず、ヨーロッパの送電網は、だいたいどこも隣の国とつながってるわけ。で、各国で融通し合ってるの。ドイツはフランスから電気を買ってもいるけど、売ってもいる。ほかの国とも売り買いしてる。で、全体として見ると、売ってるほうが多い

友「えっ、売ってるほうが多いんだ!?」

私「そう。それに、フランスからの電気も、ドイツを通って、オーストリアとかチェコに流れて行くぶんもあるし、どの電気がどこで消費されるかというのは、単純には言えないんだよ」

友「フランスからは原発電気を買ってるんでしょ?」

私「原発電気(笑)。う〜ん、電気には色がついてるわけじゃないから、原発なのか火力なのか太陽光なのかは、見てわかるわけじゃないよね。原発由来の電気も当然あるだろうけど、どういう電気を輸入するかは選べるわけじゃないから、それは仕方ないと思うよ」

友「フランスからは電気を買わなければいいんじゃない?」

私「いやいや、それは無理。たとえドイツ国民が『フランスの電気いらない』って思ったとしても、電力網がつながってる以上、簡単に流れを止めることはできないし、ドイツを通ってほかの国に流れて行くぶんもあるし。ヨーロッパの国が周辺諸国と電力を融通し合うこと自体は、責められる筋合いはないと思う。大陸でつながってるわけだし、それが、エネルギー供給を安定させるためのヨーロッパの知恵なんだから」

友「ふ〜ん。いいね、ヨーロッパは、ほかの国とエネルギーを融通できて。日本は島国だし、中国や韓国とは領土問題とか戦争責任とかでもめてて、エネルギーの融通なんて無理そう」

私「いや〜、でもドイツとフランスも、歴史上、戦争を繰り返して来た仲なわけで。今こうやって仲良くできてるのは、国民と政治家の努力だと思うよ。そこは日本も、うらやましがってるだけじゃなくて、努力しないとね」

友「まあねー」

私「それに、隣の国が原子力大国だというのは、危険と隣り合わせということでもあるんだよ。フランスの原発が事故を起こしたら、ドイツも汚染されるからね。ドイツ国境近くのフランス領に、フェッセンハイム原発っていう、古い原発があって、事故を起こしたこともあるんだけど、両国国民が長年廃炉を求めるデモを続けて、最近やっと廃炉が決まったっていう経緯もあるんだよ。こういう動きを初めとして、ドイツ以外のヨーロッパのエネルギー政策が、福島の事故を受けて変わり始めた部分もあるよ」

日本はドイツ人にはどう見える?

友「いろいろ聞いて、ドイツ人の脱原発に賭ける思いは伝わってきたよ。じゃあさ、そういうドイツ人から見たら、日本の原発問題の現状ってどう見えるのかな?」

私「すごく不可解に見えてると思うよー。あれだけ過酷な事故を体験したのに、まだはっきりと、脱原発の方向へ舵を切ってないわけだから。このあいだ、『国民の生活が第一』党の小沢一郎代表が、ドイツの脱原発視察に来たんだけど、小沢さんも『ドイツの環境相に、日本では脱原発をはっきり言っている政党は少ないって言ったら、怪訝な顔をされた』って言ってたよ」

友「う〜ん、脱原発を支持する日本人は多いけど、政党がばらけちゃって、どれを支持していいかわからない状態なんだよねー」

私「確かにね。今度の選挙では、自民党が政権を奪還するかもしれないって言われてるけど、今まで原発を推進してきて今も推進を公言している自民党が勝ったら、ドイツ人にとってはますます不可解だろうな。ドイツの新聞にまた辛辣な記事が載るかもしれないなあ。日本の政治についての辛口コメント、前も載ってたしね……」

友「耳が痛いね」

私「あと、日本とドイツの両方の暮らしを知っている私にとっても、不思議に思えることがあってね。それは、太陽光発電が、日本よりドイツのほうが進んでるってこと。だって、日本のほうが明らかに日照時間が長くて、太陽光発電に向いてるもん! 寒がりの私の体感だと、ドイツは1年のうち半分くらいが冬で、寒くて暗いよ!」

友「ドイツの緯度って北海道と同じくらいだっけ?」

私「違うよ。ドイツ南部にあるミュンヘンでも、札幌より800キロくらい北にあるんだよ。それに、日本は地震が多いでしょう? 私も震災以来、日本で地震があったって聞くたびに『原発大丈夫か!?』ってヒヤヒヤするようになっちゃった。ドイツでは地震はほとんどないのに脱原発が進んでるから、比べると、う〜んと思っちゃう」

友「そうかー。今日いろいろ話を聞いて、私もう〜んって思ったよ……。日本の現状を変えるためには、まずは選挙に行くことから始めないといけないのかな」

私「私も日本大使館で投票するよ〜。外国に住んでても、国政選挙なら投票できるからね!」

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