ドイツも連日猛暑、日照り続きで穀物の収穫に大きな被害
東京で最高気温が40度を越したなどと日本の記録的な猛暑が話題になっているなか、ドイツでも連日の猛暑と干ばつがさまざまな問題を投げかけている。
私たちの住むベルリンでも7月から30度を越す猛暑が続き、夜になっても気温が20度以下に下がらないことが多くなった。これをドイツでは熱帯夜と呼ぶという説明が新聞に載るようになった。猛暑もさることながら、ベルリン周辺では日照り続きで、春以降雨がほとんど降らなかったため、街中の至る所で、プラタナスの大きな木の幹の表皮がボロボロに剥がれ、中の白っぽい木肌がむき出しになっているのが目につく。ドイツでこのような暑さが続くことは非常に珍しい。デパートやオフィスビルには冷房が入っているものの、一般家庭には冷房はなく、扇風機もないところも多いので、この暑さに耐えるのは、大変だ。人々はプールやベルリン周辺の湖で泳いだり、サマータイムで夜10時過ぎまで明るいので、遅くまでビアガーデンでビールを飲んだりして、暑さをしのいでいる。
当初はわざわざイタリアやスペインなどまで出かけなくても、ドイツでヴァカンス気分を味わえると暑さを歓迎する人たちも少なくなかった。しかし、7月31日にドイツ気象庁(DWD)が、ドイツ東部、ザクセン・アンハルト州のベルンベルクで日陰での最高気温が39.5度に達したと発表し、「今年の暑さは尋常ではない」と人々に感じさせた。同じ日、この猛暑はこれからまだ何週間も続くという長期予報が出たこともあって、そのマイナス面が一層注目されるようになった。気象関係者の中には、特に日照りが、9月なかばまで続くと見る人もいて、議論を呼んでいる。なお、これまでの最高気温は、2003年に南ドイツで記録された40.2度である。
ドイツ医療保険会社DAK が7月27日から29日までの間に世論調査会社、フォルサと行ったアンケート調査によると、ほぼ二人に一人、正確には45%の人が今年の暑さで健康上の問題を抱えていると答えている。男性に比べ女性の方が暑さに悩んでいることもわかった。女性の54%が暑さのために健康を害していると答えているが、男性の場合、その割合は36%にすぎない。暑さの影響は、夜よく眠れない、昼間めまいがしたり頭痛がしたりする、無気力で何もする気がしないなどと色々あるが、日本語の熱中症にぴったり相当する言葉は見当たらない。DAKでは8月2日から医療特別ホットライン(0800 1111 841)を設け、毎日8時から20時まで無料で健康アドヴァイスを行なっている。たくさん水を飲むことのほか、特に年配の人は要注意、高血圧の人、利尿剤を服用している人は、薬の飲み過ぎに注意する必要があるなどとアドヴァイスしている。
日照りが農業に与える影響が憂慮されている。特にドイツ北部、東部では5月以降雨が一滴も降らないところもあり、土がカラカラに乾いているところへ高温がさらに追い討ちをかけ、穀物が立ち枯れしたところも少なくない。こうした地域での収穫量の減少は50〜70%にのぼると見込まれている。事態は深刻で、なかには存亡の危機に瀕している穀物農家もいるとみられ、そのためドイツ農民連盟は連邦政府や各州政府に対し、直ちに多額の補償を要求している。同連盟のルークヴィート会長は「ドイツでの年間穀物収穫量は、例年は4600万から4800万トンだが、今年はこの分だと3600万トン程度にしかならない」と、悲観的な予想を発表して、公的機関による緊急の支援を訴えている。しかし、クレックナー連邦農相は、雨がかなり降った南ドイツでは干ばつの影響が少ないなど地域差があるため、被害の正確な実態が判明してから対応するという態度を取っている。ドイツの食事に欠かせないジャガイモも水不足で大きく育たず、収穫量の減少が見込まれている。一方、同じ農家でもサクランボやプラムその他の果物は好天のおかげで豊作で、ワイン用のぶどうも、上質で収穫量も多いと見込まれている。
酪農家も、雨が降らないため、家畜に与える牧草が育たず、高価な飼料の購入が必要になるため、政府の支援を必要としている。また、猛暑と干ばつのため、今年森や山に植えた若い苗木がほとんど枯れるといった状況も生まれており、林業に与える影響も無視できない。乾燥した森の火事も憂慮されており、実際にベルリン近郊のポツダムでは森林火災が発生した。
今後も水不足が続くと、その影響はますます深刻になる。ライン川や東部のエルベ川などでは川の水量が異常に減っているため、すでに河川を走る船の航行が制限されている。各地の湖や川では水が少なくなって酸素が欠乏するため、大量の魚が死に、ハンブルクでは何トンもの死んだ魚が引き上げられた。
水不足のため、各地の原発にも影響が出ている。2022年に完全に脱原発を実現する予定のドイツだが、現在はまだ7基の原発が稼働している。原発は多量の冷却水を必要とするため、たいてい川のすぐそばに作られている。しかし、その川の水量が減っているため、冷却水として使える水が減り、そのために稼働率を下げざるを得ない状況が生まれている。例えば、バーデン・ヴュルテンベルク州のライン河畔にあるフィリップスブルクの原発では、目下稼働率を10%下げている。川の水温が一定の温度以上に高くなった場合には、原発が川の水を冷却水としてとして使うことが禁止されている。冷却水が使えなければ原発は稼働率を下げるか、最悪の場合には一時停止しなければならなくなる。これはまた川の生態系を守るための措置でもある。もし水量が減るなかで、原発が大量の水を冷却水として使い、代わりに熱くなった水を川に流すことになれば、魚類その他の生物の大量の死を招くことになるからだ。稼働率を下げる原発はフィリップスブルクだけではなく、他の原発でも同様の措置が講じられると予想されている。本来、夏の間は電力の消費量が少ないドイツだが、こうした猛暑と水不足がさらに長期間続き、各地の原発が稼働率を下げることになれば、たとえ好天で太陽光による発電が増えたとしても、電力供給に影響をあたえる事態にもなりかねない。
気象学者たちはこうした猛暑と水不足という現象は、今後しばしば起こりうると予測し、警告している。ドイツの気象学者で海洋学者のモジブ・ラティフ氏はベルリンで発行されている日刊紙、ベルリーナー・ツァイトゥングとのインタビューで、次のように語っている。
10年単位で見ると、最近は摂氏30度以上の猛暑日や夜になっても気温が20度以下に下がらない熱帯夜が増えてきている。さまざまなデーターによると、ドイツでは将来四季を通じて現在より暖かくなることが明白に予想される。ヨーロッパの他の地域でも同様に気温が上がっており、それに夏期の乾燥が加わって、北国のスウェーデンやラトヴィアでも森で火災が起こる条件が生まれた。30度以上の気温が北極圏近くまで達している。気候温暖化が、現在の広範囲にわたるドラマチックな状況を生み出していることは確かである。
モジブ・ラティフ氏は、気候変動によるドラマチックな現象が、世界的な難民増加の一因にもなっているとして、気候温暖化防止に対して、より強力な政治の関与が必要だと強調する。
現在緊急の課題となっている難民問題解決のためにも、気候温暖化防止に勇敢に取り組むべきである。気候保護こそ難民問題解決のもっとも重要な対策の一つなのである。ドイツが事実上気候保護を軽視するようになってしまったのは、悲劇的だと言える。気候変動に対する対策は、前回の選挙戦でも、もはや大きな役割を果たさなかった。現政権のキリスト教民主・社会両同盟と社会民主党が連立を組むにあたって結んだ連立協定でも、気候温暖化防止、気候保護に関する具体策は示されていない。気候変動を認めないアメリカのトランプ政権に対抗するには、気候変動と積極的に闘う国々を世界は必要としている。今こそ政府に対する市民の下からの強力な圧力が必要なのだ。そうしてこそ原発からの完全な撤退も実現できる。
ラティフ氏は、現在のドイツの政治状況を批判し、気候温暖化防止のため市民が政治に圧力を強めるよう呼びかけて、この、ほぼ1ページにわたるインタビューを終わった。