ネットで注文できるオレンジの香り
スペイン、バレンシア北部にあるエル・カルメン農園。ここで収穫されたオレンジの香りは「部屋全体を一度に濃厚な甘い香りで満たす。まだ、ごくわずかな人しか知らない魅惑的な芳香」と今回、南ドイツ新聞の経済面に紹介されていました。このオレンジを栽培しているのは、若い3人兄弟。本来、故郷へ戻り、オレンジ作りで人生を送ろうとは、誰も考えてはいなかったそうです。
長男のガブリエル・ウルクロさん、32歳はマドリッドで建築と工業デザインを、2歳下のゴンサロさんは経営学を専攻（その間ベルリンで一学期を過ごす）、27歳のフェルナンドさんは法学部卒業後、研修でフランクフルトの銀行に勤めていたそうです。
父親の死がきっかけとなり、兄弟は祖父が始めたオレンジ農園を継ぐことに決めたそうです。しかし、いままでの生産方法ではなく、徹底的にビオ・オーガニックなオレンジの栽培方法を取り入れることにしました。普通、ドイツのスーパーで販売されているオレンジの大半は、未熟な状態のまま収穫されたもので、農薬やワックス（防腐剤）がかかっています。エル・カルメン産のオレンジ栽培には殺虫剤、除草剤などの農薬は一切使われていません。実は完全に熟すまで待ち、それから収穫します。もちろん防カビ剤や防腐剤、そしてフレーバーなども使っていません。
ウルクロ兄弟、ガブリエルさんとゴンサロさん
もちろん、有機栽培には手間ひまがかかります。害虫は手で取り除いたり、“ビオ兵器”で攻めます。それはファイアーバグと呼ばれるカメムシ亜目の一類で、オレンジの木に被害を与える害虫の卵退治に有効です。エル・カルメン農園ではオレンジの木の下に生える雑草は取らないことにしています。例えばセイヨウヒルガオ。この雑草にはファイアーバグが好んで生息しています。そのほかミツバチも大切な“スタッフ”の一員です。ミツバチは公害負荷を調べる重要な指標だけではなく、香りよい蜜を作ります。オレンジの収穫期間は1月～5月です。所得や作業時間の変動を調整する意味で、ウルクロ兄弟はレモンや夏みかん、そして多種多様の野菜も栽培しています。
エル・カルメン農園のあるバレンシア地方はオレンジの栽培で有名です。ここでは数万所帯の零細農家がおよそ600の協同組合に組織されています。数多い組合の間にあるライバル意識をうまく利用して、卸売業者や大手スーパーは卸売り価格を常に下げています。スペインの農民連合会の発表によると、化学肥料や農薬を使い栽培されたオレンジ1キロの生産価格は20ユーロセント（23円）だそうです。しかし、市場卸売り価格は今、12ユーロセント（14円）にしかなりません。
大切な“スタッフ”の一員
オレンジの価格が下落していくなか、ウルクロさんたちは業者に頼らないマーケティングに成功しました。それはネット通販です。オレンジ及び他の有機農産物がアルプスを越え、ヨーロッパ各国へ配達されます。木からもぎ取られたオレンジは、三日以内で中部ヨーロッパの消費者の食卓に届くそうです。今では生産量の半分はネットで販売され、そのうちの70％はドイツ、オーストリア、スイスのドイツ語圏へ、残りの20％はスペイン、10％はフランスへ配達されます。ウルクロさんたちのオレンジの年間生産高は800トンで、400トンはまだ生産価格以下で大手業者に卸さなければなりません。
スペインの去年のオレンジ収穫高は340万トンで、生産量はヨーロッパ一ですが、世界ランキングではブラジル、米国、中国、インド、メキシコに次ぐ6番目。地球温暖化の影響もあり、寒い日々が少なくなってきています。多量のオレンジを食べて、ビタミンCを補う習慣がなくなり、ドイツでの消費量は減っているようです（15～16年前の1人当たりの年間消費量は5.7キロで、今は4.85キロ）。
他のビオ・ファームと違った、デジタル環境でも親しみの持てる農園でありたいと考え、思いついたのは「オレンジの木を植えて名づけの親になる」というサービスです。このサービスが受けて、今ではおよそ1300本のオレンジの木には“名づけの親”がいるそうです。その5分の１はドイツ人で、多くの“名づけの親”はバカンスの帰りに木の様子を見に、エル・カルメン農園を訪れ、収穫を楽しんでいくそうです。
記事を読んだ後、エル・カルメン農園のウェブサイトを訪ねてみました。楽しい明るいウェブサイトで、ウルクロ兄弟の妹、パトリシアさんが制作したことを知りました。参考になる情報がたくさんあり、早速、私も「オレンジの木」を植え「マックス」という名前をつけました。近いうちに名札の付いたオレンジの木の写真が送られてくるそうです。ちなみに料金は1年目が80ユーロ（約9300円）、2年目から36ユーロ（約4200円）です。「マックス」が一人前の木になるには5年ほどかかるそうですが、「名づけの親」はそれまで待つ必要はありません。「名付けの親」には毎年80キロのオレンジが送られてきます。配達料金は別です。
エル・カルメン農園のウェブサイト（スペイン語、英語、ドイツ語、フランス語バージョンがあります）
https://www.naranjasdelcarmen.com/de
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南ドイツ新聞、Thomas Urban記者、『Radikal freundlich』
http://www.sueddeutsche.de/wirtschaft/orangen-anbau-in-spanien-radikal-freundlich-1.3096955
写真はエル・カルメン農園に提供していただきました。