連続テロ事件後のメルケル首相記者会見

まる / 2016年7月31日

ニース、ヴュルツブルク、ミュンヘン、アンスバッハ……最近、毎日のように嫌なニュースが飛び込んできます。そんな中、7月28日にドイツのアンゲラ・メルケル首相が夏の休暇を中断して記者会見を行いました。

メルケル首相は毎年、夏休みを終えた後に記者会見を開くのが恒例となっていますが、今年はテロ事件や無差別殺人が続いたため、1ヶ月早めたようです。11ヶ月前の会見では、大量の移民がドイツへやってくることを受けて国内に不安が高まる中で、「Wir schaffen das(私たちにはできる)」と発言して、それが時の言葉になりました。ヴュルツブルクとアンスバッハでの事件の犯人が難民の若者だったことがわかり、ドイツ国内での雰囲気が「難民受け入れ反対」に変わる怖れもある今日、それまで沈黙を守っていたメルケル首相がどんな発言をするのかが注目されました。

ヴュルツブルク近郊を走行中の列車内で斧を振り回し、香港からの観光客4人に重傷を負わせた容疑者は、付き添いがいない17歳のアフガニスタン人で、難民申請中でした。アンスバッハで自爆して12人にけがをさせた容疑者は、27歳のシリア人で、2年前に難民申請を行い、断られていました。

メルケル首相は、事件の犯人たちについて「自分たちを受け入れた国を辱めた」と批判しましたが、「迫害や戦争を逃れようとする人たちは保護される権利がある」「ドイツは保護されるべき人を受け入れるという理念を堅持する」と、結局これまでの基本的な態度を変えないことを表明しました。

「私は今も当時と同様、確信しています。私たちがこのグローバル化時代の歴史的な課題をこなせることを。私たちにはできます。すでにこの11ヶ月間で、私たちはかなりのことを成し遂げてきました」とも言いました。しかし多くのメディアは、「メルケルにはプランがない……『私たちにはできる』ーどうやって?」(ベルリンのターゲスシュピーゲル紙)、「メルケルは自分の無力さを認めた」(ハレのミッテルドイチェ・ツァイトゥング)など厳しい論調でした。

ちなみに、ミュンヘンのショッピングセンターで18歳の高校生が乱射した時には、おそらく誰もが最初は「ISだ」と思ったことでしょう。米国のオバマ大統領やフランスのオランド大統領もそれを前提にした声明を、事件当日に出していました。一方で当事国のメルケル首相が発言を控えていたのが目立ちましたが、今から考えれば、それが賢明だったようです。なぜなら、犯人はISとは関係なく、ドイツのヴィネンデン(2009年)やノルウェーのウトヤ島(2011年)で起きた無差別殺人事件に共感を得て、入念に犯行を計画してきたこと、学校でいじめにあって孤立していたことなどが取り調べでわかってきたからです。

それでも、この事件で最愛の妹を失った若い男性が、テレビのインタビューで「ISだろうが無差別殺人だろうが、関係ない」と気丈に言っていたのにはうなずけます。各事件の犯行者たちはいずれも、社会に溶け込めなかったり、なんらかの恨みを持っている人たちだったこと、多くの場合は鬱病や精神的な問題を抱えていたことがわかっています。

One Response to 連続テロ事件後のメルケル首相記者会見

  1. 折原(埼玉県) says:

     私も、メルケル首相がどう発言するのか気になっていました。
    「迫害や戦争を逃れようとする人たちは保護される権利がある」「ドイツは保護されるべき人を受け入れるという理念を堅持する」と、結局これまでの基本的な態度を変えないことを表明」とは、メディアの厳しい論調があったとしても、さすが、腰がすわっていますね。まだまだドイツ国民を信頼しているということでしょうか。支持率がなんとか持ちこたえられるといいと願っています。
     〈各事件の犯行者たちはいずれも、社会に溶け込めなかったり、なんらかの恨みを持っている人たちだったこと、多くの場合は鬱病や精神的な問題を抱えていたことがわかっています。〉
     世界中でのテロ事件でも、やはり、そのような事実を見据えての対応が不可欠なのですね。