アーモンドでマスカラを作る人

やま / 2016年3月27日

Auge_1ナディーネ・シューベルトさんはごく平凡なドイツ人女性です。仕事を持ち、夫と子ども2人の4人家族で南ドイツのある小さな町で暮らしています。彼女が子どものことを考えて、真剣に石油製品なしの生活を始めようと決心したのは、数年ほど前に見たドキュメンタリーがきっかけでした。

歯磨き剤だけではなく、朝に飲むコーヒーの水や、パンに塗るハチミツまでがマイクロプラスチックで汚染されています。飲料水用のボトルに添加剤として使われているビスフェノールA、海中に永久に残るプラスチックのゴミなど、私たちの身の回りはプラスチックでいっぱいです。ドイツ国内で排出されるプラスチックのゴミは、1994年から2013年の間に、年間280万トンから570万トンと約2倍となっています。その年間のゴミの重量は、ギザのピラミッド2基に相当するそうです。しかも使用されている化学物質の子どもに与える影響は、大人以上だと言われています。幼い子どものお母さんであるシューベルトさんは、ドキュメンタリーを見た後、早速、牛乳と飲料水はガラスの瓶入りを買うことにしました。

「親は自分の子に承知で害を及ぼすようなことは絶対にしない。しかし、プラスチック製品を過度に買い与えたり、プラスチック製の食器で食べさせたり、石油を原料とした化学繊維の服を着せたりすることによって、結局は害を与えているのではないだろうか」と彼女は気がつきました。家族の健康を守るために始めたのがプラスチック製のゴミを出さないことでした。プラスチック製のゴミは環境及び、人間にも害を及ぼすからです。

結婚前の12年間ラジオ番組の司会を務めた経験のあるシューベルトさんは、ウェブサイトを作って、反プラスチック体験をブログにまとめて掲載することにしました。「読者を“改宗させる”意図はない。だれにでも出来る、ゴミ削減の手引きとして読んでいただきたい」。ブログは数々の項目に分けられ、そして体験日記形式で書かれていて、家庭を持つ女性に人気があるようです。以下抜粋

項目「一歩ずつ始める」から

プラスチックの容器に入ったシャワー・ジェルはやめて、紙箱に入った石鹸を買った。

牛乳はガラスの瓶入りを買うことにした。テトラパックは使用後ゴミになるが、ガラスのビンは40回も再利用できる。

項目「赤ちゃんと子ども」から

ベビーケアー:ウェットティッシュとスキンケアは普通プラスチックの容器に入っていて使用後ゴミになる。その代わり紙箱入りのティッシューと料理用のオリーブ油を使うことにした。オリーブ油は手元にあった使い古しのスプレーボトルを洗って入れた。このボトルはプラスチック製だが、2つの点で納得がいった。第一には、プラスチック製品は、捨ててしまえば環境に害を及ぼす。第二に、今回のアイデアは持続可能性に配慮した使用方法だと思う。

項目「ゴミおことわり」から

今日は気持ちが良い。プラスチック製品はもちろん購入しなかったうえ、ゼロパッキングの買い物ができた。行きつけのパン屋はパンとプチパンを持参の布袋に喜んで入れてくれた。そして町の肉屋でも、ばら肉を持参のガラス容器に入れてもらった。

あらかじめ容器を持っていけば包装なしの買い物はどこでも可能だ。食料品店はEUの衛生条例を守らないといけない。その条例によると、客が持参した容器はカウンターの後ろ側、つまり食料品があるほうには置いてはいけない。しかし“逃げ口”がある。容器をカウンターの上に置き、肉やハムそしてチーズなどをその中に入れてもらうことに問題は無いそうだ。このごろ、このようにゼロパッキングの買い物をしている。

シューベルトさんのブログが今回、全国紙「南ドイツ新聞」で紹介されました。彼女は取材に来た記者にプラスチック・ゼロのマスカラを作って見せます。

シューベルトさんのマスカラはアーモンドの香りがする。不思議ではない。このマスカラの主な素材はアーモンドだからだ。彼女はアーモンドを黒くなるまでフライパンで炒り、すり鉢ですって、ワセリンと片栗粉を混ぜてマスカラにする。自家製のマスカラは小瓶に入っていて、浴室に置かれている。マスカラをまつ毛に塗るブラシはまだプラスチックを買っていたころの残り物だ。

Frau Schubert

どうしても出たゴミはこのビンへ

今では、彼女のブログはプラスチックゼロを試みるネットワークとなっています。例えば項目「代用品があるだろうか?」の「ビニール袋vsフェアトレードの話」。息子が好むココアのメーカーはフェアトレードであり且つビオ製品ですが、ビニール袋入りで販売されています。「普段は、普通の子よりもプラスチック製品をあきらめている息子に対して、かわいそうと思い、目をつぶりこのビニール袋入りの商品を買っている」というブログに対して、意見や代用品についてのコメントが多数投書されていました。

シューベルトさんは何も買わない、何も捨てないミニマリストではありません。環境を汚染するプラスチックは普通の家庭では必要ないと言いたいだけです。“昔”彼女の台所や浴室はプラスチックの容器に入った商品で溢れていたそうです。容器に入っていたあらゆるメーカーの洗剤、石鹸、シャンプー、クリームなど、これらをまず使い果たしていったそうです。新しい製品が出れば次々と買っていたころを振り返り「私たちはなんという”消費ジャンキー”なんだろう」とつくづくと思うそうです。しかし彼女にも限界に達することが、たまたまあります。息子が学校で使う三角定規、そして学校の先生が薦めたファイルはプラスチック製です。「現実的に考えることを忘れては家庭と仕事を楽しむ生活は出来ない」と娘に長靴をはかせながら彼女は語ります。小さなゴム長靴は石油製品ですが、外で遊ぶには最適です。

シューベルトさんの手引きが本になりました。
『Besser leben ohne Plastik』著者Annelise Bunk &Nadine Schubert

関連リンク
http://www.sueddeutsche.de/bayern/plastikmuell-kommt-nicht-in-die-tuete-1.2840143

http://www.besser-leben-ohne-plastik.de/about/

写真はシューベルトさんのブログから

 

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