Nord Stream、South Stream、Nabucco、 Desertec − 欧州をめぐる新エネルギー網
11月8日、ロシアの天然ガスをバルト海海底に通したパイプラインを使って直接ドイツ、そしてEU圏に運ぶ、ノルド・ストリーム・パイプラインが稼動を開始。ロシアの、フィンランドとの国境にある町、ヴィボルグとドイツの北東の町ルブミンをつなぐパイプラインの長さは1224km。総工費は74億ユーロかかった。
ルブミンでの稼動記念式典に集まったドイツのメルケル首相、ロシアのメドヴェージェフ大統領、オランダのルッテ首相、フランスのフィヨン首相などが、笑いながら一緒にガス・バルブを回す映像を見ながら、毎年寒くなるとロシアがウクライナを通るパイプラインへのガス供給を停めて、テレビで震える人々の様子を見せるのは戦略だったのかな?と思ってしまった。
それは余談として、欧州、いや地球の地政学を変えるであろう、国境を越えたこのような大エネルギープロジェクトは他にもある。同じくロシアの天然ガスを、黒海からブルガリアの海岸へ運ぶサウス・ストリーム・ガスパイプライン計画。ロシアだけに頼らないエネルギー資源調達を目指し、トルコ、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー、オーストリアを通すナブッコ・パイプライン計画。 再生可能エネルギーの分野では、中東や北アフリカの砂漠で太陽光、風力による発電をし、中東、北アフリカ、欧州のエネルギー需要に応えようというデザーテック(Desertec)というプロジェクトがある。
このプロジェクトには現在15カ国、50以上のパートナー(企業や研究所など)が関わっており、ドイツからはドイチェ・バンク、シーメンス、ミュンヘン再保険会社(Munich Re)、大手エネルギー会社のエーオン(E.ON)などが参加。プロジェクト実現のために2009年に創立されたDii社(Desertec Industrial Initiative)の本社はミュンヘンにある。
このDii社が10月末に発表したところによれば、最初の太陽光発電所が早くも来年、モロッコで建設開始になるという。計画通りに進めば、2014年には、初の”アフリカ製”電気が欧州に届くことになる。この発電所のキャパシティーは500メガワットで、原子力発電所の約半分に匹敵する。どうして一番早くモロッコで実現するかというと、モロッコとスペインには両国を繋ぐ送電線が既に存在し、デザーテックを推進する政治的意思が特に強いから。そしてモロッコに続き、2020年までにはチュニジアとアルジェリアでもパイロット的な発電所が稼動する予定で、その後はエジプトなど他の国にも拡大。2050年までに欧州のエネルギー需要の15%をカバーできるようになるとDii社は計算している。
ドイツの日照時間は年間で1550時間、エジプトだけでもその3倍の日照時間があるから、効率はいい。アフリカと欧州を結ぶ送電網の整備という課題はあるが、技術的な問題はない。あとは各国の政治的な意志が整えばいい。2011年初頭に起きた“アラブの春”で、デザーテック実現は困難になるかと思われたが、かえって進行が早まったらしい。各国の新政権の多くは再生可能エネルギーに対してオープンであり、エジプトなどは、自国の再生可能エネルギーへの依存率を2020年までに20%にまで高め、新しいエネルギー拠点になることを目指しているという。
日本でも、ソフトバンク社長の孫正義さんが自然エネルギー財団を立ち上げ、アジア各国を送電線でつなぐ「アジアスーパーグリッド構想」を考えているそう。日本のアジア諸国との関係を考えると、実現は相当難しいと思われるが、こういうスケールの夢のある話をできる人が日本にもいるということに、希望を持つ。