ベルリンの“自転車映画館”

あきこ / 2015年7月19日
Tmpelhof Flughafen

「自転車映画館」会場付近にはためく反原発の旗

6月になってもずっと低い気温が続いていたベルリンも、ようやく夏らしくなってきた。とくに6月下旬から7月初めにかけては、気温が38度まで上がる日もあり、雲一つない快晴の日が続いた。残念ながら私自身はベルリンにいなかったのだが、7月1日、ベルリンのテンペルホーフ空港跡の一角で野外上映会が行われたというニュースを読んだ。

野外上映会というのは、夏のベルリンではよく行われており、それ自体は特段珍しいものではない。しかし、ベルリンの日刊新聞「ターゲスシュピーゲル」が報じた上映会は、「自転車映画館」と呼ばれるもので、上映に必要な電力はすべて自転車を漕いで得られるエネルギーで賄われるという。これはベルリンでもユニークな催しと言えるだろう。

この上映会を企画したのは、ベルリンに住む移民の背景を持つ若者たち、とくに教育を受ける機会を逸した青少年の支援活動を行なっているNPO法人で、その名も「お小遣い会社」という団体である。団体の代表者で、この「自転車映画館」を発案したタル・テュンタシュ氏はベルリン生れ、小学校はトルコで終え、ベルリンでアビトゥア(大学入学資格)を得て、ベルリン自由大学で古代学を学んだという経歴の持ち主である。卒業後、演劇や映画のプロジェクトへの関わりを強め、同時に社会的プロジェクトにも参加するようになり、2012年からNPO法人「お小遣い会社」の代表となっている。

「ターゲスシュピーゲル」によると、この「自転車映画館」プロジェクトは、ベルリン工科大学のエネルギー教室の技術協力によって実現可能になったという。自転車発電自体は、新しい発明ではないが、「お小遣い会社」では発電のための様々な部品や組み立てに工夫を重ねた。トレーニング用自転車の後輪に装着された点灯装置が、後輪の回転に対する抵抗となることで発電される。つまり点灯装置(新品ではなくリサイクルされたもの)が発電機となり、直流の電気を生み出す。この電気が、自動車のバッテリー(これもリサイクル)に蓄電され、交流に変換される。サイクリング好き、映画好きな人が集まり、ペダルを漕いで、700ワット時の電力を生み出せばよい。ペダルを漕ぐ人は、頑張らなくても良い。ゆったりと、しかし均一に漕ぐことが求められる。上映と音響設備のために必要な電力は400ワット時だという。

この夜上映された映画は、セネガル、フランス、ドイツ合作で2011年に制作された「小舟 (La Pirogue)」という作品で、2012年カンヌ映画祭「ある視点」部門の出品作である。危険を承知でダカールからスペインのカナリア諸島を小舟で目指す30人の男たちを描いた映画である。今まさに問題となっている「地中海難民」を先取りしたかのような作品である。当日は、上映に先立って、「ドイツにおける難民と難民庇護」をテーマとした討論が行われた。前述のテュンタシュ氏は、「単なる楽しい上映会で終わらないことが大事」と「ターゲスシュピーゲル」に述べているが、実際、ドイツでは現在増え続ける難民の対応をめぐって、ベルリンをはじめ各地で激しい論争が起きているため、このような映画の上映は難民をめぐる問題を考えるきっかけにもなるだろう。

上映会が終わった数日後、テュンタシュ氏に上映会の成果について電話で尋ねたところ、討論会には約100名、上映会には約350名の参加があったという。「ベルリン工科大学のエネルギー教室の技術的協力や、『ヴェディング自転車の家(Radhaus Wedding)』からの12台のトレーニング用自転車の寄付など、多くの人々の支援によって作られた発電設備が、一回きりではなく、多くのイベントに利用されたら素晴らしい」とテュンタシュ氏は語る。具体的には今年の9月か10月、同じくテンペルホーフ空港跡地の一角で、上映会が予定されている。先進国のファストファッションを支える開発途上国の縫製産業をテーマとした映画が上映されるそうだ。また、テュンタシュ氏は、自転車発電の装置をベースにして、映画上映だけではなく、ミニコンサートなども開きたいと考えている。自分たちが見る映画の電力は、自分たちで作り出すという自給自足の映画鑑賞。日本でも自転車発電でいろいろな催しが行われていることを思い出した

 

 

 

 

 

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