ゴミになった窓が新しいEUビルに生きる
春のせいでしょうか。お隣の夫婦が大掛かりなガレージの整理、掃除を始めました。ガレージの荷物を減らし、ゆったりと庭へ通り抜けられるようにするのが彼らの目的でした。荷物の山から出てきたのは以前、改修工事の際、取り外された木製の窓でした。この家は1936年に建てられたものですから、窓のフレームもその当時のものです。処分に悩んでいる彼らの間に入り、思わず「捨てないで!」と言ってしまいました。というのは、つい最近次のような記事を読んだからです。
欧州連合(EU)の首都ブリュッセルに欧州連合理事会の建物が完成した。ベルギーの建築家、フィリッペ・サミン氏(Philippe Samyn & Partner)はEU加盟国28カ国から集めた約3000枚の中古の木製窓を改装して、面積約4000㎡のファサードに利用した。1)
このキューブがヨーロッパの象徴になることを望む。“ホワイトハウス”、或いは“クレムリン”に匹敵するようなアイデンティティーを与える建物が、EUには今までなかった。ブリュッセルの欧州連合理事会の新築はこの空白(ブランク)を埋めるだろう。2)
2005年の建築コンペに優勝したフィリッペ・サミン氏のアイデアが生まれたのは、自宅近辺にあった既存住宅の改修工事現場でした。住民は「古い、すばらしいオーク材の窓」をゴミに捨てていたそうです。理由は、断熱性能の高い新しい窓を設置したために古い窓がいらなくなったからでした。
1995年から欧州連合理事会本部として使用されている建物、ユステウス・リプシウスの横に新しくこの理事会の建物が増築されました。このキューブの中には花瓶を思わす楕円形の建物があり、ここには会議場や会議室が配置されています。それを囲むのはごみになっていた古い木製窓でできたファサードです。サミン氏はある中古建材取り引き会社に窓を集めさせました。取り壊された建物、或いはリノベーション後に不要となった窓だけが集められました。そして建物がEU加盟国にあることも選択の条件でした。その中のいくつかは250年以上も前に作られたフレームだったそうです。木製窓のフレームのペンキをはがし、傷んでいたところは目止めします。改修された窓は大きさ3.5mx5.4mの鉄枠にはめ込まれます。大きさや格子の入り方がさまざまな窓が、統一されたフレームにはめ込まれて出来上がるパッチ・ワーク・ファサードは、フィリッペ・サミン氏の建築コンペのアイデアでした。
「ヴィンテージ・デザインが限りある資源を守る」という題名の記事には次のようなコメントが書かれていました。
これらの窓を見ると、いろいろな解釈ができる。窓はEU各国から集められた資源だ。そして“EU共同の建物”を築く建材となった。通常冷ややかなデザインのEU機関のビルに対して、この職人技術を要する窓は(職人が愛情を込めて作る)伝統技法を思い出させてくれる。一軒家と普段のスケールを持つ木製窓が巨大なEU機関建築を築く。まさに資源節約の象徴で、これはEUの政治目標とも一致する。1)
この記事を読んだお隣の夫婦はやっぱり窓をすてるのはやめました。そして「今度、これで温室をつくる時につかおうかしら」などと言っています。
関連記事1)デタイル・グリーン
関連記事2)ディ・ヴェルト(窓の写真を見たい方は下記のリンクへ)
設計事務所のHP、http://samynandpartners.be/last-news