賛否分かれる褐炭負担金
4月最後の土曜日、ドイツで褐炭の将来に関わる二つの相反する大きなデモがあった。連邦経済・エネルギー省が先ごろ、ドイツが排出する二酸化炭素の量を減らすために、「古い褐炭火力発電装置で発電された電力に気候保護のための分担金を課す」という方針を発表したからだ。その方針に反対する労働者や労働組合のデモと、その方針に賛同する市民や環境保護団体のデモだった。
ドイツ政府は、地球温暖化の大きな原因である二酸化炭素の排出量を、2020年までに1990年比で40%削減することを目標としており、その目的達成のために既に昨年12月、種々の方策を 閣議決定した。https://midori1kwh.de/2014/12/28/6336 発電分野は、ドイツの二酸化炭素の全排出量の40%を占めている。再生可能電力の増加や老朽化した火力発電装置の停止などで、現在2020年までに3700万トンの削減が見込まれているが、政府はそれに加えて更に2200万トンの削減を求めている。政府が3月末にその内容として発表したのが、発電開始から20年以上経っている褐炭火力発電に分担金を課すというアイディアだ。ドイツに沢山ある褐炭は、炭化が不完全なために褐色をした石炭の一種で、効率が悪く、燃やすと大量の二酸化炭素を排出する。 政府はこの分担金で、褐炭火力発電が減るだろうと見込んでいるのだ。
この連邦政府の方針には、褐炭が豊富にあり、そこで採掘をし、発電もしているノルドライン・ヴェストファーレン州やブランデンブルグ州、ザクセン州の地元政治家や電力会社、炭鉱労働者が真っ先に反対した。ただでさえ再生可能電力の増加で窮地に追い込まれている電力会社にとり、現在唯一十分に採算が取れるのは褐炭火力発電だからだ。また、褐炭の採掘地域では、採掘が地域の基幹産業となっている。
ベルリンでの反対デモ行進は連邦経済・エネルギー省からスタートし、1 万5000人が参加した。首相官邸の近くで行われた締めくくりの集会で「負担金導入後には70〜95%の発電所で採算が合わなくなる。直接と間接的に10万人の職場がなくなる」と 訴えたのは鉱業・化学・エネルギー労組のヴァジリアーディス会長。「褐炭採掘地域で、いきなり生活の基盤が崩されることは許せない」と語ったのは金属労組のヴェッツェル会長だった。
一方、褐炭の採掘地域であるライン地方のガーツヴァイラーで行われた環境保護団体主催のデモには6000人が集まり、参加者が褐炭露天掘りの堀の縁に立って手をつなぎ、7.5キロメートルの人の鎖を作った。 デモを主催した組織、カムパクトのバウツ代表は、「この場所を目にしただけで自分は狼狽えてしまう。村は置き去りにされ人影はなく、ここはまるで内戦の跡地のようだ。これは我々の自然、地球上の気候、そして将来の世代への罪だ」と 訴えた。緑の党のベアボック連邦議会議員は露天掘りの現場を「なんとも見るに絶えない風景」と形容し、ガブリエル経済・エネルギー相が反対運動に押されて「方針を変更しないことを期待する」と述べた。他の環境運動関係者らも「2050年までに褐炭を使わない発電という構造変化を達成するためには、今から始めなくてはならない」と連邦経済・エネルギー省の提案を褒めた。
ガブリエル連邦経済・エネルギー相は同省の方針に対する反応の大きさにいささか驚いたようで、「従来型の発電装置の90%には関係のない話だ。石炭火力発電はこれからもまだ長い間、ドイツにおける安定した、支払い可能な電力供給の大切な担い手である」とデモの翌日のラジオインタビューで 語った。それでも同氏は、負担金の額を事前に決めることは避けて、電力の卸売価格に連結させるようにすると発表している。
ドイツ連邦環境庁によると、労働組合が「10万人の職場が失われる」と主張するのは少々大げさで、直接に失われるのは4700人程度の職場だろうという。また、ドイツのエネルギー転換のためのシンクタンクであるアゴラのグライヒェン所長が、電力大手 のRWE社 とファッテンファル社の事業報告に目を通した結果によると、両社は既に、ドイツ政府が要求している以上の二酸化炭素削減を目標として掲げていることが判明したという。RWE社の事業報告には「我々の目標は(2014年には0.745トン だった)発電1MWh当たりの二酸化炭素の排出量を2020年までには 0.62トンに下げることである」と書かれている。将来発電量が変更しないとすると、RWE社はこの目標値を達成するだけで既に3000万トンの二酸化炭素を削減することになる。つまり同社だけで政府の要求している2200万トンの削減が可能になるそうだ。
ドイツ労働総同盟のホフマン会長が次の日のインタビューで、「 労働組合も二酸化炭素の排出量を2020年までに1990年比で40%削減することには賛成だ」と述べているように、政府の二酸化炭素削減目標は多くの方面から支持されており、目標達成も可能性の範疇にあるようだ。ただ、エネルギー転換で一定地域と電力会社にこれ以上の負担がかかることには反対が多く、褐炭負担金に反対する労働者や労働組合は「交通分野や建物の熱遮断など、削減可能な分野は他にもある。今すぐ 原子力と褐炭から同時に手を引くことは不可能だ」と考えているようだ。