ベルリンの野菜ゲリラ

やま / 2011年10月1日

ベルリン、クロイツベルグ地区、プリンツェン通りにだれにでも楽しめる約1800坪(6000平米)の野菜畑があります。その名はプリンツェシネン· ガーデン。「ベルリンは無職者のメッカだ、しかしまた創造力を持つ者のメッカとも言える。職がない者は見つけ出す、まだ実在しない職業を作りだす。」そのような見出しで紹介されたのは二人の青年、ロバート·ショウさんとマルコ·クラウセンさんです。戦後60年間ずっと放っておかれた都心の空き地。2009年の夏から、そこは緑のオアシスとして生まれ変わりました。ただの菜園ではなく、だれにでも気軽に来られるコミュニケーションの場を作りたいと考えた彼等はこのアーバン·ファーミングを始めました。

ショウさんは映画を専攻、そしてクラウセンは歴史を学んだ後、レストランを経営していたそうです。そんな二人がなぜ農園を?きっかけは、キューバでの思い出です。ショウさんの訪ねたキューバでは野菜栽培をして生活している都会人がよく見かけられました。特にソ連の崩壊後、集団農場(コルホーズ)に必要な化学肥料の供給が途絶えてしまいました。しかも農産物輸送に大量のエネルギーを必要とします。外貨、エネルギーをできるだけ節約しなければならないキューバーにとって、近郊農業は政府の政策要綱になりました。
かつて東西ベルリンを分断していた壁のすぐそばにあるモーリッツ広場。そこにヴェルトハイム百貨店が建っていた空き地がありました。「そうだ、あそこに畑を作ろう!」有言実行。王子(プリンツェン)通りに王女(プリンツェシネン)ガーデンが誕生しました。彼等のウェブサイトには当時の行動がこのように記録されています。

  • 2009年の6月、6000平米の空き地にあったゴミはなんと2トン。100人のボランティアが協力して取り除いた。
  • 7月、NPOを設立、その名は「Nomadisch Gruen (遊牧的みどり)」
  • 8月、100あまりの苗床を作り、初めて収穫できた野菜でガーデンディナーを楽しむ。
  • 9月、もう蜜蜂族が「王女の庭」にやってきた。

 

このオアシスに一歩入ると、車が頻繁に通る広場にいることをまったく忘れてしまいます。気持ちの良い夏の夕べ、取り立ての野菜で作ったお惣菜でいっぱいのガーデンテーブル。それを囲んで、人々が語り合う。まるで南国の夏のバカンスを思わせる雰囲気が楽しめます。なぜここはこんなに青々としているのでしょう。ベルリンはほとんどが砂地です。洪水にはなりませんが、水分、肥料がすぐに流れてしまいます。園芸には苦労します。しかしここはあらゆるところに雑草のごとく野菜が育っています。よく見ると苗がボックス、 テトラパック、又は米袋などに植えられています。このポータブルな畑が「遊牧的みどり」。
この空き地はベルリン市の所有地。まだその用途がはっきり決まっていないので、毎年賃貸契約を更新しなければなりません。万が一建物が建つようになれば、すぐにこの畑は移動できます。しかも引越し先の土質の心配はいりません。コンポストで作られた自然の肥料でいっぱいの土もいっしょに移動するからです。この「植木鉢」は元々食品包装用だったので、安心して再利用できます。このプロジェクトを始めるにあたって、あるパン工場が古くなったキャリーボックスを提供してくれました。特にこれを2つ重ねると、苗を育てるのに調度良い高さになります。慣れていないお年寄りも腰を曲げずに楽に畑仕事ができます。ここで作られている野菜はすべてビオ。もちろん化学肥料はいっさい使われていません。
このような野菜栽培は確かに環境保護活動になります。しかし彼等の第一の目的は共同近郊農業によって、冷たい、孤独、恐いと言われる都会生活に人情味あふれる下町、井戸端会議のできるような場所を提供することでした。
ここクロイツベルグ地区は東西ベルリンが統一されるまで区の三辺が壁に囲まれていたため、家賃が安かったこともあり、芸術家、若者、移民、外国労働者などが住み、独特の生活空間が生まれました。そこでは多様な社会文化活動が育っています。現在でも住民の3割以上が外国人。誤解や不信感が募ることがあります。相手を理解するには食べ物から始めるのが一番と彼らの言葉。食べるという事は生きるために重大だからこそ、音楽と同様、どんな壁でも乗り越えて人間関係を結ぶことが可能です。
トルコ出身の年金生活者が古里の野菜を植え、育て方、料理のしかたを都心育ちの若者に伝えます。人参が実は、土の中で育つということを初めて知った子供たち。だれでも「王女の庭」のスポンサーになれます。だれでも畑仕事ができます。近くに住むトルコ出身の女性たち、その横に隣の州からやってきた農学教授、シベリア出身の主婦も、みんなといっしょにに畑を耕しながら、意見や知恵を交換し合います。畑仕事の後、ガーデンレストランで取り立て野菜がたっぷり入ったリゾットはいかがでしょうか。このカフェ レストランは毎日11時から夜遅くまで開いています。
彼等のウェブサイトを見ると、テレビ、雑誌、新聞はもちろん世界中の注目を浴びていることがわかります。全体にこの農園はどちらかというと実験場 という感じがします。農芸だけではなく、環境保護、都市の共同生活について実験しながら新しい研究方法を探しています。見学者もいれば研修生もいます。今年はいくつかの「支店」もできました。
みなさんの近くの空き地、団地やビルの屋上にもこのような「遊牧的 みどり」はいかがでしょうか。  都心に自然が戻ります。  輸送、貯蔵に費やすエネルギーは零。  それでも新鮮な季節の野菜が味わえます。ビオ食品にも手が届きます。近所づきあいが楽しくなり、古きよき下町が都会に戻るかもしれません。
百聞は一見にしかず、彼等のフォトギャラリーをご覧下さい。

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