「ジャパン・シンドローム」など演劇祭で活気づく5月のベルリン

あきこ / 2014年4月27日

Mai in Berlin「なべてのつぼみ、花とひらく いと麗しき五月の頃」(片山敏彦訳)とハイネの詩に謳われた5月。しかし今年は、天候不順でドイツ人には不人気の4月が5月に取って代わったようにつぼみが花開き、木々は緑になってしまった。ベルリンの街では、どこからも緑の息吹が聞こえてきそうだ。美しい5月を控えて、演劇の話題をお届けしよう。国際演劇祭はベルリンで、「世界の演劇」祭はマンハイムで開かれ、美しいドイツの5月は演劇ファンの垂涎の的となる。

毎年5月のベルリン国際演劇祭では、前年のシーズンにドイツ、オーストリア、スイスのドイツ語圏で上演された舞台作品の中から、審査委員会が選んだ注目すべき10の演出作品が取り上げられ、ベルリン市内の劇場で上演される。ベルリン国際演劇祭は1964年に開催が始まり、去年50周年を迎えた。ベルリン国際映画祭のいわば演劇版である。オーストリアやスイス、あるいはドイツ各地の舞台作品がベルリンで一時に見られるとあって、ドイツ語圏だけではなく、世界の演劇批評家、舞台制作、監督など演劇関係者が注目している。今年は5月2日から18日の日程で開催される。この演劇祭は年を重ねるごとに発展し、今では作品の上演だけではなく、若手劇作家の劇作のリーディング、世界中の若手演劇関係者(作家、俳優、制作者、音楽家、舞台技術者など)のためのフォーラムなどフリンジプログラムも充実している。日本からも数多くの演劇関係者がこの演劇祭を訪問している。この演劇祭を詳しく説明したリンクを紹介しておく。

マンハイムの「世界の演劇 (Theater der Welt)」祭は“演劇のドクメンタ”とも称され、3年に1回開催される。ドイツ語圏だけではなく世界の演劇あるいは舞台芸術の最前線を切り取って見せるものだ。開催地は固定されておらず、年によって異なり、今年はマンハイムで5月22日から6月8日まで開かれる。日本からは劇団ペニノの「大きなトランクの中の箱」、岡田利規率いるチェルフィッチュの「スーパープレミアムソフトWバニラリッチ」が上演される。チェルフィッチュの上演はマンハイムが世界初演となる。このフェスティバルに触れたサイトも紹介しておく。

JV Ren Saibara

深谷市のゆるキャラ「ふっかちゃん」に扮する西原さん Photo: Lea Nagano

これらの大きな演劇祭が注目されるのは当然だが、ベルリンで昨年から舞台活動を始めた西原れんさんの新作にも注目したい。4月24日~26日、5月3日~4日の5日間、彼女の新作「日本の民衆の敵」と題するレクチャー・パフォーマンスが行われる。福島原発事故3年を迎えた日本では事故の原因とその影響についてオープンな社会的論争がなされず、あからさまな検閲、批判的なメディアの欠落、反対意見を持つ人々の社会からの排除で、社会的論争が妨げられていると西原さんは指摘する。イプセンの戯曲「民衆の敵」では、ノルウェーのある町で見つかった温泉が製靴工場の廃液で汚染されていることを知った医師ストックマンが、温泉の利用中止を求めるが却下される。源泉を引き直すという案も経費がかかりすぎるために却下され、ストックマンは町で孤立していく。西原さんの疑問は、ここに描かれたストックマンのように、反原発運動は「民衆の敵」とされてしまったのではないかというところから出発する。「朗読、資料のプレゼンテーション、パフォーマンス、個人的な語りが混じりあった形で、民主主義社会における責任、公共性、多数派と少数派の正当性というテーマについての主観的なコラージュ作品に仕上げた」と西原さんはいう。

また、5月20日から29日まで、ベルリンの劇場ヘッベル・アムーウーファー(HAU)では、「ジャパン・シンドローム-福島以後の芸術と政治」というタイトルのもとに、高嶺格の「ジャパン・シンドローム-ベルリンバージョン#3」、藤井光のドキュメンタリー映画「プロジェクトFUKUSHIMA」、女優原サチコ作・出演の「ヒロシマ-サロン」、黒澤明監督の「生きものの記録」に刺激を受けて「生きものの記録/3月11日以後」を制作したニナ・フィッシャーとマロアン・エル・サニと岡田利規の対話、作曲家・歌手・ギタリストの工藤冬里とマヘル・ハラル・ハシュ・バズによるコンサート、さらに写真アーティスト都築響一によるレクチャー・パフォーマンスなどが行われる。ちなみに「生きものの記録」は、ビキニ環礁でのアメリカの水爆実験に巻き込まれた第五福竜丸の乗組員の被害に衝撃を受けた黒澤明が原水爆の恐怖と取り組んだ1955年の映画である。詳しい情報は同劇場のサイトで見ることができる。

「いと麗しき5月」のベルリンで、芸術を通して福島に思いを馳せたい。

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