首都ベルリンのロビイストたち

まる / 2011年9月19日

ベルリンに統一ドイツの政府と議会が移転してから12年。この街で、さまざまな利益団体を代表し、連邦政府とその政策に影響を与えるべく活動をしているロビイストたちの数は5000人と言われています。世界のどこでもそうだと思いますが、このロビイストたちが実際にどんな活動をしているかは、普通ドイツでもなかなか見えてきません。

このロビイストたちの動きを調査、監視し、市民に情報公開することにより、ドイツ政治の透明化と、より良い民主主義を目指す団体があります。その名はロビー・コントロール(Lobby Control)

2006年にケルンで設立された公益団体で、現在ケルンに4人、ベルリンに1人メンバーを置き、活動をしています。

この団体がベルリンのロビイスト拠点を巡るガイドツアーを行っているので、参加してみました。

廻ったのは以下のアドレス(廻った順)。

ドイツ・ビール醸造業者協会(Deutscher Brauer-Bund, Neustädtische Kirchstrasse 8)

社会市場経済イニシアチブ(Initiative Soziale Marktwirtschaft, Georgenstrasse 22)

電力会社REW  (Friedrichstrasse 5)

ドイツ・証券取引所(Deutsche Börse AG, Unter den Linden 36)

ZDF (ドイツ公共第2放送  Unter den Linden 38)

電気会社E.on  (Unter den Linden 38)

EUTOP  (Unter den Linden 38)

ドイツ・煙草協会(Deutsche Zigarettenverband, Unter den Linden 42 )

China Club  (Behrenstraße 72)

Diehl  (Pariser Platz 6a)

少しベルリンに詳しい方なら、これらのアドレスが全て、ブランデンブルク門や連邦議事堂から近い、徒歩で10−15分以内のエリアにあることにお気づきでしょう。観光客で賑わう場所でもあります。ウンターデンリンデン通りにあるカフェ・アインシュタインが、政治家やメディア関係者、ロビイストたちが接触する場所として有名ですが、有力メディアや利益団体の多くは、このカフェから徒歩数分から15分以内くらいのところに事務所をかまえています。

以下、ツアーで興味深かったポイントをご紹介します。

ドイツ・ビール醸造業者連盟

ご存知の通り、ドイツといえばソーセージとビール。こういう団体があるのは当然といえば当然ですが、考えたことはありませんでした。どんなことをしているかというと…実はドイツでは1990年代からビールの消費量が減っているのだそうです。ワインに押されてとか、健康志向が大きくなってとか、いろいろと理由はあるようですが、市場拡大を狙うビール業界は、女性と若者を新ターゲットとし、ラズベリー・ビールとか、レモン・ビールとか、新しい種類のビールを市場に送り込みました。それで売り上げが伸びたのは良かったのですが、それ以来、急性アルコール中毒で倒れる若者が多くなりました。そこで政治家たちは、ビールのテレビコマーシャルを禁止しようとしたのだそうです。そこで動いたのが、このビール醸造業者連盟。例えばドイツサッカー協会(ビール会社が代表チームのスポンサー)に、「ビールの広告がなくなれば、ドイツサッカーの将来も危うくなる」と言わせるなど、様々な団体に反対意見を言ってもらい、法案を阻止したそうです。

ZDF(ドイツ公共第2放送)

どうしてテレビ局かというと、ドイツで人気のトークショーやディスカッション番組に、ロビイストたちが自分達を代弁してくれる政治家や専門家を送り込むことがよくあるから。実際に番組を作るのは下請けの制作会社が多いため、広告代理店を通して「こんなテーマはどうか?」とゲストリストまで付けて話を持っていくのだそうです。また、送り込まれるゲストは十分なメディアトレーニングを積んでいる場合が多いので、そういうことをしていない相手と討論すれば、有利になります。そして、メディアトレーニング講師は、有名なアナウンサーやテレビ局の人間だそうで、1時間あたり最低300ユーロ(3万5千円)は取れるため、ちょっとした良いバイトになっているのだそうです。

E.on

ZDFと入り口が一緒。というのは、E.onの前身Viag社がZDFと共同でこの建物を修復改築したからです。現在環境省原子炉安全委員会のトップにゲラルト・ヘネンへーファー(Gerald Hennenhöfer)という人がいますが、この人は、元Viag幹部。1990年代のコール政権時代にも同じ役職についていたのですが、当時の上司、環境・自然保護・原子力安全相はアンゲラ・メルケル、現ドイツ連邦首相でした。1998年、コール政権が終わり、ドイツ社会民主党(SPD)と緑の党の連立であるシュレーダー政権へと変わると、ヘネンへーファー氏はViag社へ転職。同社の幹部として、政府と脱原発についての交渉に当たりました。そして2009年、第2次メルケル政権がドイツ社会民主党なし(連立を組んだのは自由民主党)でスタートすると、再び原子炉安全委員会トップに戻り、今度は政府側としてエネルギー業界との交渉に当たり、10年前にシュレーダー政権が決めた脱原発路線は見直されることになりました。こういう風に政治と民間の両サイドを行き来することを、「サイドチェンジ」とか、「飛び替え」と言うそうです。日本の「天下り」に「天上がり」が加わったようなものですね。どうりで原子力ロビーと政府の距離が(地理的にだけではなく)近いわけです。それでは、福島での原発事故後に決まった2022年までの脱原発で、ヘンネンホーファー氏の仕事が無くなるかというと、勿論そうではありません。核燃料最終処理場探しや、廃炉の計画と実行など、残された仕事はいくらでもあります。ロビープラネットでは、こういうサイドチェンジを防ぐため、政治家がキャリアを終えてから民間会社・団体に就職できるまでに最低でも3年という期間を置くルールを作るよう、政府に求めています。

Diehl

ブランデンブルク門の横にあるパリ広場離宮と呼ばれる建物の中にあります。実はドイツは、米国、ロシアに続き、世界で3番目に多く兵器を輸出しているらしい。この会社はクラスター爆弾も製造していますが、この爆弾の使用、製造、移動、備蓄禁止を議論した2007年のオスロ会議(2008年にはオスロ宣言が採択された)、自社のクラスター爆弾は高性能のため人間に危害を与えないとして、禁止の対象から外してもらうようドイツ政府に交渉してもらい、成功したという。入り口の表札を見ると、戦車を製造するクラウス・マフェイ・ウェグマン(Kraus-Maffei-Wegmann)も隣にあります。この広場にはボーイング(Boeing)とロッキード・マーティン(Lockheed-Martin)のロビー事務所もあるので、それを含めれば、パリ広場は別名軍事産業広場といったところです。

China Club

チャイナクラブ入り口

ブランデンブルク門前、高級ホテル・アドロンの横にある芸術アカデミーへ入り、ロビーとカフェを通り抜けます。急に人気が少なくなった空間に、突如赤いカーペッットが前に敷かれたエレベーターが現れます。よく見ると、エレベーター入り口の上に、金のメッシングで作られた立派な看板があり、”チャイナ・クラブ”と書かれてあります。これは、ロビイストの中でも究極のロビイストたちが使う秘密クラブみたいなもので、観光客も混ざってざわめくカフェ・アインシュタインとは違い、裏通りからひっそりと入れて、屋上のテラスから首都の夜景が眺められたり、中国現代作家のアート作品を見ながら高級中華料理を楽しめたりと、超VIP的な雰囲気の中で内密な話ができるそうです。勿論会員制で、入会料は1万ユーロ、年会費数千ユーロ(いずれも推定)、会員の推薦が要ります。政治家に特別なおもてなしをしたい時に最高のロケーションなのだそうです。

このツアーに参加した後、普段何げなく歩いていたベルリンという街の見方が少し変わりました。ロビー・コントロールは自分たちもロビイストであるという位置づけをし、政府に対し、上記の「サイドチェンジ」の条件改善やロビイストの義務登録制度導入を求めたりしています。ロビー活動について知識がある市民が誰でも書き込めるwww.lobbypedia.deというウェブサイトも運営しており、ベルリンのロビイスト拠点を見て歩くガイドブック「ロビー・プラネット(Lobby Planet)」も出版しています。今回のツアーでは、エネルギー産業のロビー活動についてがテーマではなかったので、あまり詳しい話は出てきませんでしたが、もちろん自然エネルギー供給会社も、ベルリンで活発なロビー活動を展開しているはずです。今度は是非それをテーマにしたツアーに参加したいと思いました。

 

 

 

 

 

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