ドイツ・緑の党連邦議会議員が見た福島

あきこ / 2014年1月12日

緑の党の連邦議会議員で、脱原発の分野で活躍しているシルヴィア・コッティング=ウール氏は、ドイツ連邦議会の議員としては初めて福島第一原子力発電所を訪れた。同議員の旅行記を読むと、日本の状況が浮かんでくる。

 

コッティング=ウール議員は2005年から2013年までの任期中、脱原発、核廃棄物、最終処理場問題、核燃料物質の輸送、ドイツおよび外国の原子力発電所、ウラン、エネルギー研究、放射線防護などをテーマに活動した。同氏は2010年、ドイツの核廃棄物のロシアのマヤーク核処理施設場への輸送をストップさせ、ゴアレーベン調査委員会でも最終処理場としての適性を厳しく追及している。福島の事故後、日本を訪問し、事故の現状を視察するとともに、政治、科学、経済、医学の各界と、市民の代表たちと交流を重ねている。今回は4回目の訪日である。2013年12月6日から12月13日にわたる日本訪問の最大の目的は、福島第一原子力発電所を自身の目で見ることだった。なかなか東京電力からの許可が下りなかったが、最終的にはドイツの政治家として初めて福島第一に足を踏み入れることができた。8日間の滞在期間の出来事が詳しく書かれた日記が同議員のサイトに載せられている。サイトでは、ドイツのラジオ局が日本滞在中の彼女に対して行ったインタビューも聞けるようになっており、日本のメディアには載らない多くの情報を読み取ることができて、実に興味深い。「目からうろこが落ちる」のだ。

以下、8日間の出来事を彼女の日記からまとめてみよう(以下敬称略)。

1日目:日本到着

日本の緑の党の漢人明子とすぐろ奈緒と話し合い。東北新幹線で郡山へ移動。

2日目:郡山から富岡町へ

法政大学で行われるシンポジウム「エネルギー政策の転換と公共圏の創造 - ドイツの経験から学ぶ」を主催する研究者グループと東京の新聞社が同行。放射線防護服を着用しての訪問。富岡町の職員だった男性が案内してくれた。

3日目:法政大学

シンポジウム「エネルギー政策の転換と公共圏の創造 - ドイツの経験から学ぶ」に参加。ヴッパータール気候環境エネルギー研究所前所長ペーター・ヘニッケ教授も同席。脱原発がなぜドイツで可能だったのか、日本とドイツの違いはどこにあるのかが焦点になった。ドイツでは脱原発に至るまで30年を要したが、日本ではもっと速く進むのではないか。今、その具体的な一歩が始まったところだ。

4日目:さまざまなNGO関係者との出会い。

ピースボート(吉岡達也、メリー・ジョイス)、グリーン・アクション(アイリーン・美緒子・スミス)、MOX燃料反対伊方の会(阿部純子)、アイフォーム(村山勝茂)。これらのNGOが組織として全く違った構造を持っている。お互いにその存在を知りながら、つながっていない。自分たちのプロジェクトを追うのが精いっぱい。

環境政策研究所(飯田哲也)

市川房枝記念女性と政治センター(久保公子)

5日目:

国会事故調査委員会(黒川清委員長と2名の委員):国会事故調の最終報告は政府、とくに安倍政権になってからは完全に無視された。

自然エネルギー財団(トーマス・コーベリエル、大林ミカ):原子炉の冷却は今後10年も続く。今ではアメリカ、イギリス、フランスの専門家も協力しているが、脱原発を決めたドイツの専門家は外されている。原発で働く作業員の状況について聞く。日本の再生可能エネルギー法には、再生可能エネルギーの優先的買取りが書かれてはいるが、実際的効力はない。発電会社が送電網を経営しているからである。

原子力市民委員会(舩橋晴俊他8名の委員):核廃棄物の処理について多くの時間を割いて話し合う。核廃棄物の処理、廃炉、賠償責任、どれをとってもコンセプトがない。

しかし、脱原発とエネルギー転換に向けて、日本の知恵が集まっていることを認識した。安倍政権誕生によって失った日本への希望を取り戻した。

6日目:国会

超党派の国会議員が集まった「原発ゼロの会」(河野太郎、阿部知子ほか):国会の中では人数が少なく(63名の議員が参加)無力感に襲われると言う。ドイツでも緑の党は10%に満たなかったが、目的を到達したと勇気づける。国会事故調査委員会の報告書は、結局国会では審議されなかったことを確認。福島第一の現状と作業員の健康管理の問題が指摘された。

山本太郎との出会い:山本議員が驚いたのは、ドイツでは会派に属さない議員でも連邦議会で質問できること。同議員は国会で質疑に立てず、本来の政治活動ができないという。

7日目:福島第一原発訪問

作業員の送迎拠点となっているJヴィレッジからバスで原発構内へ。1号機から4号機をバスの中から見る。ドイツ連邦放射線防護局から借りた検定済みのガイガーカウンターと線量計の携帯は許可されず、同行の東電社員のデータを信頼せざるを得なかった。ガイガーカウンターと線量計の持参に執着すれば、今後、ドイツからの福島への訪問のチャンスが潰されかねないと判断したからだ。作業員に話かける機会もあった。4号機では冷却プールから燃料棒を取出す作業が始まっている。しかし、3号機では溶融した炉心がどこにあるか特定できていないため、その結果冷却ができていない。そのため付近は最も放射線量が高く(数百ミリシーベルト)、最大の問題となっている。

「汚染水からすべての核種を取り除くことができる新しい除去技術を試験中だ」と東電は説明するが、それでもトリチウムだけは残る。DNAに取り込まれる可能性のあるトリチウムを含んだ汚染水が毎日400トン出ている。これを容量1000トン(2.5日で満杯)のタンクに入れる。福島第一では40万トンのタンクが収容可能で、2年後にはさらに2倍の収容を可能にするというが、トリチウムに汚染された80万トンの水がどうなるかは誰もわからない。太平洋が最終貯蔵施設になるのか?

8日目:

原子力規制委員会、原子力規制庁(池田克彦):独立した委員会として、原発の再稼働申請に対して、今までより厳しい基準を設けて審査しようとしている。電力会社からの圧力にも左右されないという印象を受けた。

菅直人元首相:原子力ムラの手口を政治家として初めて明らかにした。最も活動的な原発反対者の一人であるが、影響力を失っている。

今回の日本訪問は、同議員にとっても今までの訪問以上にインパクトがあったようだ。福島第一や富岡町といった原発事故の実際の場所を訪問し、事故収束に向けて現場で働いている作業員たちと出会った。そのことで脱原発を進めてきたドイツの緑の党の今までの活動が間違っていなかったことを確認できた。同時に、今後ドイツのエネルギー転換の成功が日本にとって大きなカギとなることの確信を強めたようだ。コッティング=ウール議員は富岡町や福島第一とその近辺の立入り禁止区域の状況に触れ、東電や政府があたかも日常生活が戻って来たかのような印象を与えようとしていることを見抜く。そして原発作業員たちが自らの健康を犠牲にして収束事業に当たっているのではないかと心配する。

第3次メルケル政権はキリスト教民主同盟・キリスト教社会同盟と社会民主党が連立を組んだ。日本の安倍政権とは比較にならないほどの多数派による強力な大連立政権である。日本の超党派議員による「原発ゼロの会」が国会内でほぼ10%の少数派だという嘆きを聞いたコッティング=ウール議員が属する緑の党は、連邦議会631議席のうち63議席、まさに10%を占めている。日本滞在中、同議員はドイツのエネルギー転換が電力料金の値上げだけに焦点が当たっている危険を察知した。戦う相手は目に見えない放射能であるという原点に戻り、誕生したばかりの大連立政権に対して緑の党の議員としてどのように活動するのか、今後の彼女の活躍に大いに注目したい。数日後には同議員とのインタビューが実現するので、それは次回にお伝えしたい。

なお、コッティング=ウール議員の日記の日本語訳は、今後同議員のサイトで読めるようになる予定である。

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