日本の脱原発デモの動きを追った映画「Radioactivists」

みーこ / 2013年3月8日

「Radioactivists」(2011年作品)

福島で原発事故が起こったのは、2年前の2011年3月。日本では、その1か月後にようやく脱原発デモの動きが出始めた。最初に動き出したのが、東京・高円寺のリサイクルショップ「素人の乱」を中心としたグループだ。デモに至るまでの動きやその背景を若いドイツ人監督が撮ったドキュメンタリー映画「Radioactivists」(2011年作品。72分)の上映会がベルリンであったので、行って来た。

映画のタイトル「Radioactivists」は、radioactive(放射能の)とactivist(活動家)という2つの言葉を合わせたもの。「Protest in Japan since Fukushima(フクシマ後の日本での抗議運動)」という副題がついている。

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映画は、東京・高円寺のリサイクルショップ「素人の乱」の店長、松本哉(はじめ)さんとその仲間たちが、デモを計画し、実行する様子を追う。若者たちが狭い店内で、あれこれ話し合ったりデモグッズを作ったりし、悩みながらも楽しんでデモを企画していく姿が描かれる。デモに行ったことのない同世代の若者をいかに巻き込みインパクトのあるデモを実行するか、知恵を絞る姿が面白い。

合間に、毛利嘉孝、木下ちがや、池上嘉彦といった社会学者、思想家らの解説が入り、「抗議運動が起こりにくい日本という土壌で、イデオロギーを伴わない、このような草の根の動きが起こったのは快挙」「震災前から、チュニジアやエジプトで抗議運動や革命が起こっていたが、高円寺発のデモもそれにつながる動きだ」といったことが語られる。

映画の最後には、音楽ありダンスありの若者中心のデモの様子が映し出される。ピエロのような格好のデモ参加者が、警備の警官の周りをぐるぐる回って煙に巻く様子は、とりわけユーモラスだった。最後は、人気ラップミュージシャンECDが、サウンドカーの上で、反原発ソングを歌う映像で終わる。(余談だが、この日本語反原発ソングは、数ヵ月前ベルリンのラジオ局「radio eins」で流れたことがある。「溶けたらしいぞ漏れてたらしいぞ / あっちもこっちも / にっちもさっちも」という、リズミカルながらも不気味な日本語の歌詞が、突然ラジオから流れ出したときは驚いた。)

映画の共同監督の一人クラリッサさん。「非常用持出袋」は日本からのお土産だとか。

映画が終わったあと、その場にいた監督の一人クラリッサ・ザイデル(Clarissa Seidel)さんと話ができた。この映画を作ったのは、1985年生まれのクラリッサさんと1987年生まれのユリア・レーザー(Julia Leser)さんという二人の若いドイツ人女性だ。クラリッサさんはドイツとスペインでメディアや映像について学び、震災当時は日本を旅行中だった。ユリアさんはドイツで日本学を学び、震災当時は早稲田大学の留学生だった。原発が爆発し危険を感じた二人はいったんドイツに戻る。だが数週間後、日本で脱原発デモの動きが出てきたと知り、それについてのドキュメンタリーを撮るために日本に戻った。「当時、日本のメディアは脱原発デモの動きをほぼ無視していました。外国のメディアが描く日本人像も『震災時でも冷静で忍耐強い』といったステレオタイプなものばかり。だから、自分たちがデモについて取材する必要を感じたんです」とクラリッサさんは語った。

クラリッサさんは、まだ20代半ばのかわいらしい女性で、このような人が異国で長編ドキュメンタリーを撮り完成させたということに、私は驚き感心した。「日本で短期間に適切な取材相手を見つけ、取材するのは大変だったのでは?」と問うと、「みんな、自分たちの抗議活動に既存メディアが見向きもしないことに不満を感じていたらしく、取材を申し込むと歓迎してくれました。ほかの取材先にもうまくつないでくれて、予想していたよりもずっと簡単に事が運びました」と答えてくれた。

この映画が取り上げているのは2011年4〜5月の出来事だが、2012年には日本の脱原発抗議行動はずっと大きくなっている。一方で、その年暮れの総選挙で政権交代し、日本が本当に脱原発できるのか不透明な状況になっている。「その後の動きについては、今続編を作っていて、もうすぐオフィシャルページに情報を掲載する予定です」とのことだった。この映画は、日本やドイツのあちこちでしばしば上映会が開かれている。ベルリンでは、3月12日(火)にヴェディング地区でまた上映される予定だ。(詳細はこちら。)

WerkStadtには小さなギャラリーが付設され、奥にはアトリエや暗室がある。

なお、この上映会がおこなわれたベルリン・ノイケルン地区のカフェ・バー「ヴェルクシュタット(WerkStadt)」にも、私は強い印象を受けた。ヴェルクシュタットは、いかにも新しいアートの街ベルリンらしいオルタナティブ・スペースで、アーティスト自身によって運営され、しばしばこのような上映会や音楽ライブや演劇を催しているとのことだ。運営に関わるアーティストの一人は日本人の三浦公道さんで、彼は3月9日(土)にベルリンで予定されている「さようなら原発集会ベルリン」の主催者も務めている。この日の上映会前には、ヴェルクシュタットで集会の準備や話し合いがおこなわれたという。

「さようなら原発集会ベルリン」は、3月9日(土)12:00にブランデンブルク門前でスタートする。スピーチ、パフォーマンス、コンサートなどが予定されており、デモに行ったことのない若者やベビーカーを押したお母さんたちも気軽に来られるような楽しいデモを目指したいとのことだ。

東京の高円寺で若者たちがデモをし、それをドイツの若者が取材し、ベルリンらしいオルタナティブ・スペースでみんなで観る。そして、ベルリンでもまた、脱原発デモがおこなわれる……。そのような連鎖に、私は、国をまたいだ若者の連帯と未来への希望を感じた。

 

関連リンク:
「さようなら原発集会ベルリン」ウェブサイト
映画「Radioactivists」ウェブサイト
「素人の乱」店長・松本哉さんによる連載
映画に出てきたカウンターカルチャーの書籍グッズショップ「Irregular Rhythm Asylum」
映画で使われた曲、ECD「Recording Report 反原発REMIX」(本人によるアップロード。本人コメントもあり)
映画で使われた社会学者・毛利嘉孝さんのインタビュー
WerkStadtのウェブサイト
三浦公道さんのウェブサイト

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