ついに始まる、ワクチン未接種者などへのロックダウン

池永 記代美 / 2021年12月5日

ワクチン接種を行なった人かコロナ感染から回復した人しか店内に入れないことを示す2Gの目印 。

「この冬が終わる頃には、ワクチン接種をした人か、コロナにかかったが回復した人か、コロナのせいで死亡した人しかいなくなるだろう」。コロナで亡くなった人を侮辱しかねないドイツ連邦保健相イェンス•シュパーン氏 (新政権樹立までの暫定保健相/キリスト教民主同盟=CDU)のこの発言は、物議を醸した。しかしこの発言のあった11月23日以降、ドイツではコロナの新規感染者が1日に7万人を超える日が続き、シュパーン氏の言葉が現実味を持ってきた。ドイツは今、大きなコロナ•ウイルスの波に飲み込まれている。

ワクチン接種が順調に進み、1日のコロナの新規感染者の数も数千人台で落ち着いていた今年の夏、コロナ禍はもうすぐ克服できるという楽観的な見方をしていた人がドイツでは多かったのではないだろうか。ビアガーデンはコロナ禍以前の賑わいを取り戻し、昨年は控えていた国外への旅行を楽しんだ人もいた。少しずつ感染者の数が増えてきた時も、感染しているのは重症化する可能性の低い若者や子供たちだから、それほど心配する必要はないという声が聞かれた。もしくは、今回はワクチン未接種の人の間でのパンデミックであって、ワクチンを打っていれば安心だと、ほとんどの人が思っていた。

ところが11月に入ると、1日の新規感染者数が指数関数的に増えて7万人を超えただけでなく(11月26日にコロナ禍最多感染者数7万6414人を記録)、1日に300人から400人もの人がコロナで亡くなるようになった。デルタ株の蔓延によるコロナ第4波が到来したのだ。ドイツの感染症研究機関であるロベルト•コッホ研究所 (RKI) によると、現在コロナ•ウイルスに感染している人はドイツに95万500人もいて (12月4日現在)、これは人口の1%以上に当たる。また、現在使用可能な集中治療病床2万1966床のうち、4805床がコロナ患者の治療のために使われていることもあり、空いている集中治療病床はドイツ全国で2354床しかない(12月4日現在) 。感染者の多いドイツ東部のザクセン州や南部のバイエルン州では、急がない手術は延期することになっており、事実上、治療する患者の優先順位を決めるトリアージが行われているという。

直近7日間の10万人あたりの感染者数を色で表す地図。紫色は1000人以上、ピンクは500人以上1000人未満、濃いワインレッドは200人以上500人未満、濃い赤は100人以上200人未満、赤は50人以上100人未満、薄緑は数字未把握。ドイツ東部と南部の感染状況が悪いことが一眼でわかる(RKI、11月18日の地図) 。

こうした事態を受けて、ザクセン州やバイエルン州は、飲食店の屋内席や文化•余暇施設の利用をワクチン未接種者には認めないなどの州独自の規制をすでに導入していたが、感染の波がドイツ北部や西部に押し寄せる前に、ドイツ全国でコロナ対策を強化すべきだという声が、医学会や社会の中から強くなってきた。そこで次期首相になることがほぼ確実なオーラフ•ショルツ氏 (暫定財務相/社会民主党=SPD) が暫定政権を率いるメルケル首相 (CDU) と話し合った上で、コロナ対策を協議する連邦•州首相会議が11月18日に開かれることになった。9月26日に連邦議会選挙が行われたこともあり、連邦•州首相のコロナ対策会議が開かれたのは8月10日以来、ほぼ3ヶ月ぶりとなった。

そこで決まったことを紹介する前に、これから多用することになる略語の説明をしておこう。コロナ対策ではコロナ•ウイルスに対する免疫があるかどうかで、行動範囲が制限される様になる。そこで、人々をコロナ•ワクチン接種を完了した人 (Geimpfte)、コロナに感染したが回復した人 (Genesene)、前述の2グループに属さなないがコロナ検査の陰性証明を持っている人 (Getestete) と3つのグループに区分し、3つのグループ全体を指す場合を3G (Gはそれぞれの単語の頭文字) 、前者2つのグループ、つまりコロナ•ワクチン接種を完了した人とコロナに感染したが回復した人を指す場合は2Gという。さらには、2Gの人も新たに検査を受け陰性証明を取得しなければならない場合は、2Gプラスという。

3Gの人しか公共交通機関を利用できないことを説明するベルリンの公共交通機関の表示。

さて、11月18日の会議で決まった画期的なことは、11月24日から長距離列車だけでなく、通勤や買い物のために日常的に利用する地下鉄やバスなどの公共交通機関や職場で3Gが導入されたことだ。つまり、ワクチン未接種でコロナにかかったことのない人は、コロナ抗原検査を受けて陰性証明を取得しなければ、電車に乗ってはいけないことになったのだ。陰性証明の有効時間は24時間なので、毎日電車を利用する人は、毎日検査を受ける必要がある。これはかなり厳しい措置だが、調査機関YouGovがドイツの通信社dpaの委託で行った世論調査では、このルールに賛成する人は68% (49%が非常に賛成、19%がどちらかというと賛成) 、反対は26% (全く反対が17%、どちらかというと反対9%) だった。このコロナ対策会議では、ワクチン接種が重症化を防ぐ効果があることを鑑みて、今後は新規感染者数ではなく、直近7日間で10万人につき何人のコロナ患者が入院したかを示す入院率を、コロナ措置の強化や緩和の指標とすることも決まった。具体的には、入院率が3を超えると、イベントの参加や飲食店利用は2Gのみに限る、6以上になれば、密になりやすいディスコやバーでは2Gプラスを導入、9以上になれば各州の州議会の承認を条件に、接触制限や催し物の制限や禁止を行って良いことになった (12月3日現在の入院率は5.52) 。

毎週土曜日、メルケル首相はポッドキャスで市民に様々なテーマについて直接語りかけてきた。最終回となった12月4日、コロナを克服するためにワクチンを打つようメルケル首相は改めて市民に呼びかけた。©️Bundesregierung

しかし、職場や交通機関に3Gのルールを導入するだけで、本当に感染状況は改善するのだろうか。そもそも、改札もないドイツの地下鉄や電車で、どれだけ3Gのルールが守られるのかを疑問視する人も多かった。コロナ禍が始まって以来、常により厳しい措置が必要だと訴えてきたメルケル首相は、実は今回の決定には不満足で、新しい政権を作ることになるSPD、緑の党、自由民主党 (FDP) の代表を首相府に呼び出し、改善を求めた。メルケル首相の援護射撃を行ったのは、学術的見地から社会に重要な意味を持つテーマについて勧告を行う国立の科学アカデミー•レオポルディーナだった。今の爆発的な感染者数の増加を抑えるためには、接触制限の導入が必要であり、ブースター接種 (追加接種) を急ぐだけでなく、一般的なワクチン接種義務も導入すべきだと訴えたのだ。そして、ワクチン接種義務は倫理的にも法的にも正当化できるという考えを明らかにした。

こうした動きを受けて、前回の会合から2週間後の12月2日、再び連邦•州首相によるコロナ対策会議が開かれた。実はこの会議に先立つ11月30日、連邦憲法裁判所はコロナ対策に関する重大な判断を下した。今年の4月下旬から6月下旬まで、感染者の多い地域では「非常ブレーキ」として、外出制限、接触制限、学校の閉鎖といった措置が取られたのだが、これに対して、一般市民や連邦議会のFDP議員団の議員全員 80名や右翼ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢 (AfD)」議員団の複数の議員らが、連邦憲法裁判所に憲法異議の訴えを起こした。その理由は、効果も計りかねるこれらの措置は行き過ぎで、ドイツの憲法である連邦基本法で保障されている基本権を侵害するというものだった。連邦憲法裁判所は5月にすでに「非常ブレーキ」は違憲だとする処分差し止めの仮処分申請を却下していたが、これからのコロナ対策の根幹に関わる問題でもあり、今回の正式な判断は注目を集めていた。そして下された判断は、「これらの措置は確かに様々な形で基本権を侵害するものだが、疫病による非常に危険な状況下では連邦基本法違反にならない」というものだった。これは市民の健康と生命を守るためであれば政策決定者には多くの裁量が与えられることを認めると同時に、何かにつけて基本権侵害だと政府のコロナ対策を批判してきたFDPやAfDに対する明快な回答でもあった。

さて、憲法裁判所に背中を押されたような形で行われた12月2日の会議では、ワクチン未接種者でコロナ回復者でもない人、すなわち2G以外の人に対して、実質的にロックダウンが行われることが決まった。つまり、食料品や薬などの生活必需品以外の商品を扱う小売店には入れなくなったのだ。このルールは地域の感染状況とは無関係にドイツ全国に導入されるもので、映画館、劇場などの文化施設やプールなどのスポーツ施設の利用も、2G以外の人には不可能となった。さらに2G以外の人は、同じ世帯の人以外に、もう一世帯の2人までとしか集まってはいけないという接触制限も決まった (ただし14歳以下の子供は数に入れない) 。

小売店入り口での2Gのチェック。売り上げが落ち込むと小売業界は2Gを批判しているが、閉店させられるよりは良いのではないだろうか。客もチェックを受け入れている様に見えた。

さらにこの会議では、感染状況の悪い地域では、独自により厳しい規制を設けてよいことや、ワクチン接種証明に有効期限を設けること、ワクチン接種を義務化する法律の制定に取り組んで行くことも決まった。ワクチン接種義務化については、新年早々連邦議会で審議を始め、党議拘束なく一人一人の議員が自分の良心に従って投票することになりそうだ。ここでいう義務化とは、ワクチン接種を拒む人に接種を強要するものではなく、過料が課されることが予想されるが、ワクチン接種に反対する人が多いドイツのこと、大きな議論や抗議行動が起こることは間違いない。ちなみにこの決定が下される直前に行われた世論調査では、ワクチン接種義務化に賛成する人は71%、反対する人は26%という結果が出ている (調査機関インフラテスト•ディマップが調査、ドイツ第一公共テレビARDが12月2日「DeutschlandTrend」で発表) 。賛成する人の割合は今のドイツのワクチン接種率に近く、未接種の人はワクチン接種の義務化にも反対していることが伺える。

思い起こせば、昨年の冬もコロナ感染者数が急増し、病院の集中治療病床はほぼ満杯になり、1日に千人を越すほどのコロナ死者がでた。しかし今はワクチンもあり、コロナ•ウイルスとの付き合い方もわかってきたはずだ。それなのに、なぜ昨年と同じような状態を招いてしまったのだろうか。ドイツはどこで、どんな間違いを犯してしまったのだろうか。まずはっきりしていることは、ワクチンは十分あるのに、接種率が伸び悩んでいることだ。昨年12月末に欧州連合 (EU) で一斉にワクチン接種がスタートし、ドイツは8月末に接種率が60%に達したが、その頃から接種率は頭打ちとなった。政治家や専門家が機会あるごとに「自分や愛する人を守るためにワクチンを打とう」と呼びかけてきたが、現在、ワクチン接種を完了した人は人口の68.9%だ (RKI,12月3日のデータ)。同じくEU加盟国であるポルトガルの87.8%、スペインの80.6%に大きく水を開けられている (Our Waorldの12月3日のデータ) 。また、 ブースター接種が遅れていることも、感染状況を悪化させた原因の一つだ。ドイツで最も多く使用されているバイオンテック社のワクチンは、6ヶ月から9ヶ月後にブースター接種が必要と言われていたが、ワクチンの効果は4ヶ月を過ぎた頃から急速に落ちることがわかった。にもかかわらず、ワクチンについての勧告を出すRKI内の常設予防接種委員会は、10月になってやっと、70歳以上の人にブースターを行うよう勧告を出すという有様だった。その頃には、ワクチンを打っているのに感染する、いわゆるブレークスルーの現象は、私の身の周りでも起きていた。

もう一つの要因は、政治的空白だ。昨年の経験から、寒くなれば感染者が増えることは予想できたが、連邦議会選挙前はどの党も選挙戦で忙しく、選挙が終わってからは、新しい政権を担う予定の党は連立協議に注力し、コロナ対策は後回しになってしまった。とりわけ、自由の擁護を楯にコロナ措置の緩和を求め続けてきたFDPを連立政権に抱き込むために、次期首相を目指すショルツ氏を始めSPDがFDPに配慮しすぎたという印象を持たずにはいられない。国民の生命を守ることを何よりも重視してきたメルケル首相が去ってからの新政権のコロナ対策に、一抹の不安を覚えずにはいられない。

ベルリンのクリスマスマーケットでは12月8日から2Gが導入される。屋外だが、飲食する時以外はマスクの着用が義務付けられる。

感染状況が比較的落ち着いているベルリンでは、クリスマスマーケットは2Gを条件に開かれている。しかし、観光客がほとんどいないこともあって、いつものような賑わいは見られない。それに、ワクチンは全能ではないと認識して、今はできるだけ外に出たくないという人も多い。昨年の今頃は、待望のコロナワクチンが異例のスピードで開発され、コロナの暗くて長いトンネルの先に一条の光が見えてきたと感じた。ワクチンさえ完成すれば、コロナ禍は克服できると思っていたのだ。しかし、ワクチンの効果は意外に早く弱まることが分かった上に、新しい変異株が出現するなど予期しないことも起こり、それは甘い考えだったことを知った。今年は希望を持てないまま、クリスマスや新年を迎えることになるのだろうか。

 

 

 

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