緑の党初の首相候補はアナレーナ・ベアボック氏!?  

ツェルディック 野尻紘子 / 2021年4月18日

アナレーナ・ベアボック氏©️Urban Zintel

ドイツではこの秋、4年ぶりの連邦議会選挙が行われる。過去16年間連邦首相を務めたアンゲラ・メルケル氏は以前から、「今期が最後で次回は立候補しない」と表明しているので、この選挙で新しい連邦政権と新連邦首相が誕生する事は確実だ。もちろん、選挙でどの政党が 最大多数の票を得るかは、今回もいつもと同じように最も重要な事柄だ。しかし、現時点での国民の最大関心事はもっぱら、誰が各党の首相候補になるかということだ。

現在連邦議会に議員を送っているのは6政党で、次期議会でも多分、現在の6政党の議員が国民を代表することになると予測される。その中で、新しい政権を構成する可能性があると見られるのは、キリスト教民主同盟と姉妹党のキリスト教社会同盟(CDU・CSU)、社会民主党(SPD)、緑の党、そして自由民主党(FDP)の4党だ。

世論調査機関「インフラテスト・ディマップ」がこの16日に発表した最新の調査では、「次の日曜日に連邦議会選挙があったら、あなたはどの党に票を入れますか」というお決まりの設問に対して、CDU・CSU と答えた人が28%、SPD は15%、緑の党が21%で、FDP は11%だった。この結果だと、どの政党も単独では政権が取れないことになる。現在CDU・CSU とSPD で構成されている連立政権も成り立たない。最も可能性が高いのはCDU・CSU と緑の党の連立だ。緑の党とSPD、それにFDP が加わって連立を組むという可能性もゼロではないが、実現は難しそうだ。

SPD がこのところずっと勢力を弱めてきているのに反して、緑の党は支持率を伸ばしている。そして今年の秋に成立することになる次期政権に緑の党が属することは、ほぼ間違いない。それどころかここにきてCDU・CSU も急に支持率を落としており、CDU・CSU と緑の党の支持率も差を縮めている。このままだと、緑の党がCDU・CSU を抜き、緑の党の首相候補者が実際に首相になることも完全に不可能ではない。そこで、同党の首相候補者に対する関心は高まる一方だ。

次期政権ではCDU・CSU との連立を避けたいとしているSPD は、このところ常時、党内の意見が一致しないことで目立っているのだが、既に昨年秋に早々と、現連邦副首相兼財務相のオーラフ・ショルツ氏(62歳)を首相候補に挙げて注目を浴びた。緑の党は以前から、復活祭と聖霊降臨祭(復活祭後の第7の日曜日)の間に首相候補を発表すると言ってきており、復活祭前に、「4月19日に首相候補を発表する」と発表の日付を明らかにした。

これに対して、問題を抱えているのはCDU・CSU だ。従来だと、バイエルン州1州にしか存在しない小さなCSU ではなく、残り15州で活動しているずっと大きな姉妹党であるCDU の党首が当然首相候補になるのだが、今回はアンゲラ・メルケル氏が党首を辞め、再度立候補もしないので、誰を首相候補に立てるかで、すっかり揉めているのだ。既に今年1月、新しいCDU の党首を決定するのも大難産だった。党首に選ばれたアルミン・ラシェット氏(60歳)は、ドイツの最大州であるノルトライン・ヴェストファーレン州の州首相ではあるが、まだCDU 党首として手腕を十分に発揮する機会には恵まれていない。一方、CSU 党首のマルクス・セーダー氏(54歳)はバイエルン州の州首相であると同時に、連邦連立政権に加わっているCSU の党首として、全国レベルでもより目立つ存在にある。実は、CDU・CSU もつい先頃までは、両党の首相候補を復活祭と聖霊降臨祭の間に発表すると言っていたのだが、現在は、緑の党に先を越された感じで、慌てている。ラシェット氏を首相候補に立てるか、あるいはセーダー氏が候補になるか、まだ揉めている最中なのだ。

ところが、緑の党の場合は非常にすっきりしていてスマートだ。揉め事のような話は一切伝わってこない。同党には以前から党首が二人ずついた。初めの頃は党の二つの路線 ー 現実派と原理派 ー を代表する人たちがそれぞれ党首になっていたが、数年前からは、党首は女性が一人、男性が一人となっている。現在の共同党首はアナレーナ・ベアボック氏(40歳)とローベルト・ハーベック氏(51歳)で、2018年に選出されている。その時の支持率はハーベック氏が81.3% で、ベアボック氏は 64.5%だった。

ローベルト・ハーベック氏©️Nadine Stegemann

 

ハーベック氏はシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州出身の哲学博士で著作家でもある。過去に州副首相及び州エネルギー転換・農業・環境・自然・デジタル相を経験しているが、連邦議会には属していない。アナレーナ・ベアボック氏は生まれは西側のニーダーザクセン州だが、以前から東側のブランデンブルク州に住み、2009年から2013年までは同州の緑の党党首を務めていた。2013年以降は連邦議会議員で、過去に党評議会メンバーや院内会派の外交・安全保障政策担当を経験している。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で国際法の修士号を取得している。2児の母親だ。

緑の党の支持層が増え、SPDを抜いてドイツ第二の党になった2、3年前から、「緑の党の連邦首相」という言葉がちらほら聞かれるようになった。最初の頃はいつもハーベック氏の名前だけが挙がっていたが、段々ベアボック氏の名前も聞かれるようになった。ハーベック氏とベアボック氏は2019年に共同党首として再選されたのだが、その時の支持率は、ハーベック氏が90.4%で、ベアボック氏は 97.1% だった。それでも、彼の名前はいつも最初に語られ、それに彼女の名前が続いていた。

この状況が変わったのはごく最近だ。3月14日に、ドイツで最も信頼の置けるトークショーの一つである日曜の晩のドイツ公共第一テレビの番組「アネ・ヴィル」に出演していたハーベック氏が、アネ・ヴィル氏の緑の連邦首相候補に関しての質問に対して、次のように答えたのだ。「もしアナレーナ・ベアボックが、『私は首相候補になる』と言ったら - 女性には優先権があると思うので - 彼女は首相候補者になります。勿論です」と答えたのだ。それ以後、メディアで緑の党が話題になると、いつもまず、ハーベックの名前の前にベアボックの名前があがるようになった。メディアは「要は、彼女が望むか望まないかだ」としている。彼女が望まない理由を探すのは難しい。

最近、ツァイト・オンラインのインタヴューで「首相の役割を担う自信がありますか」と質問されたベアボック氏は、 「首相府の仕事もできると思います」と答えている。そして、「今までに天から降りてきた首相はいません。誰でもその役目に就いたなら、成長しなければなりません。政府の要職に就いた経験はありませんが、他の候補者がこれから学ばなくてはならない、欧州に定着した国際感覚や経験を私は持っています」と付け加えている。また、首相にとり重要な 要素は何かという質問に関しては、地に足がついていること、広い視野を持つこと、深い知識を持つこと、 そして、頭で考えるだけではなく心のこもった政治を進めること、いつも自重する準備があると同時に、勇気を持って大きな挑戦に立ち向かうことなどを数え上げている。

2019年に行われた地球温暖化対策を求める生徒たちのデモ『Fridays for Future』に参加したアナレーナ・ベアボック氏(中央)

「CDUとCSU が首相候補をめぐって争っている間に漁夫の利を得るのは誰?アナレーナ・ベアボック」と、ある新聞が先日書いていた。保守党の二人の男性が首相候補をめぐって争っている間に、CDUとCSU 両党の支持率が下がり、その間に緑の党の支持率が上がり、アナレーナ・ベアボック氏が秋の選挙に緑の党の首相候補として臨むだけではなく、選挙後に本当に連邦首相になることを私は期待している。ベルリンで発行されている日刊紙「ターゲスシュピーゲル」は、緑の党の首相候補に関して「彼女でなくて誰?」という社説で、「ベアボックは何よりも一つのことを目指している。全てにおいて優秀であることだ」と書いている。優秀であることを望む彼女が、コロナ禍後には、今までとは変わらなくてはならないとされる社会を、正し方向に誘導してくれることを望んでいる。

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