ロックダウンからロックアップへ
ドイツの現行コロナ制限措置は、日本の緊急事態宣言よりずっと厳しく、学校や幼稚園、商店やレストラン、映画館や劇場などの閉鎖が義務づけられていて、通常ロックダウンと呼ばれる。このロックダウンに含まれる美容院と理髪店が、2月10日のコロナ対策会議で、3月1日から開店を許されることに決まって、国中がホッとして喜んでいる。
ロックダウン(Lock down)は鍵をおろす、閉めてしまうという英語から来ているのだが、ロック(lock) にはカールした髪という意味もある。 それを面白おかしく表現したのは、ベルリンで発行されている日刊紙「ターゲスシュピーゲル」だろう。頭にカーラーを巻いて美容院の椅子に座っている女性の写真を一面の中心に大きく据え、見出しを「Lockup! 」と付けている。そんな言い回しはないのだが、コロナですっかりお馴染みになったロックダウンにかけた言葉遊びだ。英語のup and down (行きつ戻りつ、浮きつ沈みつ)を思い浮かべさせるし、up (上の方へ)という言葉を持ってきて、何となく読者の暗い気持ちを少し吹き飛ばしてくれる。ついでに書くと、2月4日の日刊紙「フランクフルター・アルゲマイネ」のある記事の見出しは「Lockdown-Look」だった。こちらは、美容院や理髪店に行けずに、髪が長くなったり乱れたりした政治家や有名人の写真を紹介していた。
ドイツで美容室などが閉鎖したのは昨年12月16日だ。少なくとも月に一度は美容院を訪れるという人たちがドイツには約240万人いるという。それほど頻繁に美容院に行かない人たちも、美容院が2ヶ月も閉まってしまうと困りだす。髪がボサボサになってくるし、女性にも男性の中にも髪を染めている人たちが少なくないというから、日が経つに従って、問題はだんだん大きくなる。そこで、「美容院で働く人たちもエッセンシャルワーカーだ」という言葉が度々聞かれるようになっていた。美容院で髪を整えてもらうと、誰でも確かに、少し生まれ変わったような新鮮な気分になる。
2019年の数字だが、ドイツには8万軒以上の美容院や理髪店があり、そこで働いている人たちは約24万人だという。大半は小規模の店で、国の援助がなかなか届かないので、閉鎖がこれ以上続くと潰れてしまうという悲鳴が聞こえてきていた。また、サロンをいくつか構えているような企業が一団となって、コロナ制限措置を不当として行政裁判を起こしたという話もある。さらに驚いたことに、「家庭訪問して、ヤミで髪を切っている美容師も少なくない」という噂もこの頃耳に入ってきた。
前回1月19日 に続き2月10日に再度行われたメルケル首相と16州の州首相のコロナ対策会議では、厳しいロックダウが2月14日からさらに3月7 日まで延長されることが決まった。最大の問題は学校と幼稚園の再開だったが、そのことに関しては意見が一致せず、最終的には管轄を持つ各州の判断に委ねられることになった。それに反し、美容院の再開には、全州が賛成したようだった。
ちなみに、2月8日から美容院を再開した隣国オーストリアでは、直後に、美容院の前に長い行列ができ、クルツ首相もすぐさま理髪店を訪れたと報道された。