ドイツの難民、半数が正規雇用
2015年をピークに、大勢の難民がドイツに流入して以来、今年の夏で5年が経つ。内戦や身の危険を逃れてドイツに来たシリア人やアフガニスタン人、エリトリア人やイラン人。当初、彼らの運命に同情し、彼らを心から歓迎するドイツ人が大勢いた。しばらく前から労働力が不足気味のドイツにやって来た彼らを、将来の労働力として歓迎する経済人たちも少なくなかった。しかし、彼らを迎い入れるための経費は莫大だし、彼らを受け入れ、ドイツ社会に統合することは並大抵の作業ではない。彼らの中に初めからドイツ語を話した人はほとんどおらず、彼らの生活様式もドイツ人とは異なっているからだ。 しかも、彼らの多くはトラウマを背負っている。だが、ドイツ人が難民を受け入れる努力は、確実に実っていると思われる。
そのことを顕著に表す調査を、このほど連邦雇用庁直属の機関である 労働市場職業調査研究所(IAB、Institut für Arbeitsmarkt- und Berufsforschung ) が発表した。この調査は、IAB が連邦移民難民庁及びドイツ経済学研究所(DIW、Deutsches Institut für Wirtschaftsforschung)と共同で2018年後半に、2013年にドイツに来た難民8000人を対象に行った。それによると、2013年からドイツに5年以上滞在している難民の半数が、正規の職業に就いていることが判明した。
当時も難民の大半を占めたシリア人やアフガニスタン人の半分が既に正規の職業に就いているということは、彼らがドイツ社会に溶け込むプロセスが、従来の難民の場合より迅速に進んでいることを意味する。 例えば、生活様式や言語が彼らほどドイツ人と異ならない旧ユーゴースラヴィアからドイツに来た難民の場合には、もっと長い時間がかかった。そのことを調査に当たった IAB のヘルベルト・ブリュッカー教授は、「現在ドイツでは失業率が非常に低く、適切な人材を得ることが困難なので、企業が条件を満たさない人たちにも就職のチャンスを与えたことが大きい」と述べている。就職は、難民たちが直接ドイツ人に接する機会を増やし、ドイツ社会に対する理解を深めることに役立つので、以前からドイツに馴染む最も効果的な手段だと言われている。
調査では、就業者の68%がフルタイム、あるいはパートタイムで働いていることが分かった。そして17%は報酬付きの職業教育を受けており、3%も報酬を受けながらインターシップに参加している。残り12%は、収入が月450ユーロ(約5万4000円)以下に制限されているミニジョブに就いている。但し仕事に就いている人の男女間の差は大きい。男性の57%が就職しているのに対し、女性の場合は3人に1人しか仕事に就いていない。その割合は子供のいる場合はさらに低い。
就業者の半分以上は技能職者とされているが、その中に大学卒業者や専門の職業教育を受けて資格を持っている人たちは極少ない。ただ、彼らの大半には職業経験があり、職に就くための何らかの能力を持っていると推測される。反面、母国で就いていた職業より資格が低い職に就いている人たちも多い。収入面では、フルタイムの場合税込で月1863ユーロ(約22万3560円)と、彼らの給料はドイツで生まれ育った人たちに比べてかなり低い。ブリュッカー教授は、収入がドイツ人並みになるためには、彼らが資格を取る必要があると言う。しかし、例えば学校の卒業資格を取ったり職業教育を受けたりする難民は、全体の約4分の1に過ぎない。難民にとり義務のドイツ語教育を受けた後でも、ドイツ語が十分でなかったり、すぐにお金を稼ぎたがったりする人たちが多いからだという。
ブリュッカー教授は、100万人以上と言われた2015年と2016年にドイツに来た難民たちにも、2013年にドイツに来た難民たちと同じようにドイツ社会への溶け込みがうまくいくだろうと予測している。
これらのことは、ドイツ社会が、窮地を逃れてドイツにやって来た人たちを本腰でドイツ社会に受け入れようと努力をしている結果だと思う。世間には、難民が多すぎて就職難になるとか、社会が変化してしまうと心配する人たちもいる。彼らの中からは、右翼ポピュリスト政党である「ドイツのための選択肢(AfD)」の過激な発言に惑わされ、テロ行為に走ってしまう人も出てきた。ドイツ社会が、そしてドイツの政治が、正しい判断を下し、難民たちと共存する平和な社会をこれからも守ってくれることを信じている。