ドイツ人の一番の不安要素はトランプ
2018年のドイツ人の不安に関する世論調査で、「政治、経済、個人、環境問題の中で、現在何に対して一番不安を感じているか」という質問に対して、調査対象者の69%が「米国のトランプ大統領の政治のために、世界情勢が不安定になること」という文章に同意すると答えた。69%というのは、毎年行われている同様の調査の結果と較べても、非常に高い。ドイツ国内で政治的にも社会的にも大問題となっている「難民問題の荷が重すぎる」や「大勢の外国人がドイツに来ることで、住民間の緊張感が高まっている」の各63%を、6ポイントも上回っている。
この調査は、ドイツの保険大手のR+V保険が1992年以来毎年夏に実施している世論調査で、今年も6月8日〜7月18日の間に14歳以上のドイツ人男女2400人を対象に行われた。ドイツ人の不安はその年々の政治や社会情勢を反映しているのだが、「今年は国際政治と国内政治の比重が重かった」と、調査を担当したR+V保険のブリギッテ・レムシュテットさんは語っている。「トランプのアメリカ・ファーストという乱暴な政策、同氏の国際合意に対する攻撃的な態度、同盟国に対しても決して友好的とは言えない通商政策と安全保障政策が国民の大多数を驚愕させている」と説明するのは、ハイデルベルグ大学のマンフレド・シュミット政治学教授だ。「米国が、防衛費負担の少ないと憶測する国に対して、軍事援助を拒否するということにでもなれば、現在自国だけでは防衛不可能なドイツは、困難な状況に陥る。そのために、トランプのドイツに対するアタックを、ドイツ人は不安に感じているのだ」とも付け加える。
ドイツは2015年〜2016年にかけて約100万人の難民を受け入れたのだが、「難民問題の荷が重すぎる」というセンテンスを支持した人は63%で、前年の6番目(57%)から今年は2番目になっている。3番目は同じく63%の「大勢の外国人がドイツに来ることで、住民間の緊張感が高まっている」で、昨年の61%から2ポイント増えた。これ以上外国人が増えると、問題が大きくなるだろうという住民の不安感を反映している。しかしドイツでは他方、現在の好景気に伴って労働力が不足している。経済界からは必要な労働力を移民として受け入れるべきだとの要請が出ており、政府もドイツへの移民を法制化しなければならないという難しい問題に直面している。
世論調査で不安要素の4番目になったのは、種々問題が多すぎて、政治家たちが課題をマスターできないのではないかという心配で、昨年は同様の質問に「そう思う」と答えた人はまだ55%だったが、今年は61%になった。調査対象者の48%が与野党の政治家に下す成績は「不可」で、これは落第点だ。政治家に「大変良い」と「良い」という成績を与えた人はわずか6%に過ぎなかった。
昨年と一昨年にはトップだったテロに対する不安(今年は59%)や、2011〜2015年には上位を占めていたユーロ圏内の他国の負債をドイツが背負わされるのではないという不安(同58%)は相変わらずまだ存在するが、もはや5番目と6番目でしかない。また、自然災害の増加を心配したり(同56%)、気候変動を不安に思ったりする人達(同48%)など、環境問題も最上位グループには属さない。好景気を反映して、自身の失業を心配したり(同25%)失業者の増加を心配したりする人達(同29%)、更には経済の低迷を不安に思う人達(同39%)は非常に少ない。
ドイツはこの10月3日、28年目の東西両ドイツの統一記念日を迎えたが、東西の差が未だに克服されていないことが大きな話題となった。しかし、こと住民の不安感に関しては、地域間の差の減ってきていることがこの継続的な世論調査で明らかになる。それでもあえて言うならば、難民問題や政治家の不能さを不安に思う人達は、東部ドイツの方が西部ドイツより多いのに対し、トランプの政治や環境問題を気にしている人たちは、西部ドイツの方が東部ドイツより多い。
なお、「ジャーマン・アングスト」という英語の言い回しがある。アングストとは不安、心配の意味のドイツ語で、ドイツ人が怖がりだという言い回しだ。このほど『喜ばしい知らせ(福音)』という本を出版して、今話題になっているドイツ人ジャーナリストのワルター・ヴュレンヴェーバー氏は、その本の中で、人間が今ほど良い生活をしていた時代は、人類の歴史30万年来なかったと記している。そしてドイツ人は不安に「寛容」で、だからドイツには世界一大きな保険会社アリアンツと、世界一大きな再保険会社ミュンヘン再保険があると書いている。ドイツ人の心配性は国民性でもあるようだ。