新年初の世論調査、テロの”危険人物”に対する厳しい措置にドイツ人の多くが賛成

永井 潤子 / 2017年1月15日

昨年12月19日、ベルリンのクリスマス市に盗んだトラックで突っ込んだテロ事件の犯人が、難民を装って入国したチュニジア出身者だということが判明して以来、ドイツではそうした“危険人物“に対する対応を厳しくするべきだという声が国民の間で巻き起こり、基本的人権の尊重という観点から、それに反対する人たちや、それを行動に移すことに躊躇する政治家の間で賛否両論、激しい議論が行なわれてきた。公共放送、ドイツ第二テレビ(ZDF)がこのほど行った「ポリットバロメーター」の新年最初の世論調査によると、これまで寛容な措置に賛成してきた一般のドイツ人も、厳しい措置に賛成する人が増えたことが判明した。

今回の世論調査によると、ベルリンのテロ事件後「ドイツでのテロに対する防御体制は十分ではない」と考える人が51%にのぼった。これに対して「これまでの防御体制で十分だ」と考える人は44%だった(残り5%はわからない、あるいは無回答)。昨年10月に行なわれた同世論調査の同じ設問に対して、62%の人が「ドイツのテロ防御体制は十分だ」と答え、「十分ではない」と答えた人が31%にすぎなかったことを考えると、ベルリンでのテロ事件後、当局のテロ対策への信頼が大きく損なわれたことがうかがえる。

事件後の調査によると、ベルリンのテロ事件の犯人、アニス・アムリは、2011年4月5日ランペドゥーサ島からイタリアに入国し、そこで犯罪を犯して4年の刑に服した後、2015年6月にドイツにやって来たことがわかっている。ドイツ各地で様々な偽名を使って、ときにはエジプト人だと言って難民申請したが、結局申請は拒否され、チュニジアへ強制送還されることになった。しかし、彼はチュニジア国民であることを証明する書類を持たず、チュニジア政府が受け入れを拒否したため、強制送還されずにドイツに留まっていた。ドイツの治安当局はアムリを、テロ活動を起こす可能性がある “危険人物“として監視しながら、当面直接の危険はないと判断して、拘束するなどの措置は取らなかった。その結果アムリはドイツ国内を自由に動き回っただけでなく、犯行後もフランス経由でイタリアまで逃れ、ミラノ近郊で偶然現地の警官に発見され、撃ち合いとなって射殺されている。彼はドイツの移民に対する人道的な措置及びEUの移動の自由を悪用したわけで、治安当局のミスばかりでなく、これまでの法体制への批判も高まった。「もし、テロ容疑者に対して厳しい措置が取られていたとしたら、ベルリンのテロは防げたはずだ」と考える人が、増えたのも当然だろう。

ベルリンでのテロ事件を受けてデメジエール連邦内相とマース連邦法相はこのほど、“危険人物“とみなされ、国外退去を命じられた外国人に対する様々な法改正について、合意した。その合意のなかには、難民申請者のうち、危険なテロ組織とコンタクトがあることが判明した人物に対して、長期の拘束を可能にする法改正も含まれている。これによって、たとえ彼らの本国送還の実現までに長い期間がかかろうとも、その間の長期の拘束が可能になる。こうした法改正について今回の世論調査では88%もの多数が賛成し、反対は9%にすぎなかった。さらに実際に犯罪を犯した難民申請者の本国送還に関する法律を厳しくすることについても、67%が賛成だと答え、これまでの法律で十分だと考える人は31%にすぎなかった。厳しい措置や法改正を望む人を政党支持別に見ると、もっとも多いのは難民排斥の右翼ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持者で、80%もの人が厳しくするよう望んでいる。次に多いのが与党の保守政党、キリスト教民主・社会両同盟(CDU/CSU)」の支持者で、72%、ついで自由民主党(FDP)の支持者が66%となっている。連立与党の社会民主党(SPD)の支持者では64%が同様に、難民申請者の取り扱いを厳しくする立法措置に賛成している。一方、野党では、左翼党の支持者は51%が、また、緑の党の支持者では56%が、「現行の法律で十分」と答えている。つまり厳しい法改正に反対で、現行法の適用に問題があるとの考えを示している。

「ドイツは押し寄せる大勢の難民に対応できるか?」という質問に対しては、今回の世論調査の回答者の57%が「対応できる」と答え、41%が「対応できない」と答えた。1年前の世論調査では「対応できる」と答えた人は37%にすぎず、「対応できない」という人が60%もいたのに比べると、楽観的に見る人が増えているという意外な結果になっている。これは、その後ドイツに来る難民の数が大きく減っていることが影響している。

今年秋に行なわれる予定の連邦議会選挙の結果は、ドイツ及びヨーロッパの未来に大きな影響をもたらすと思われるが、「もし、今度の日曜日に連邦議会選挙が行なわれるとしたら、どの政党に投票するか?」という問いに対する答えは、次のようになっている。CDU/CSU 36%、SPD 21%、緑の党 10%、左翼党9%、FDP6%、そして右翼ポピュリズム政党AfDが前回より1%増えて13%となっている。イギリスのEUからの離脱、アメリカのトランプ政権の誕生などの影響で、ヨーロッパ各国のポピュリズム政党の勢力拡大が予想される中、ドイツのAfDの13%という数字は、同党の連邦議会への進出が確実視される根拠となるだろう。この数字を基にすると、CDU/CSUとSPDの大連立は一番可能性が高く、もしFDPが5%以上得票して連邦議会に復帰した場合には、CDU/CSU、緑の党、FDPの連立も考えられる。今回の調査で、緑の党の支持者はSPD、左翼党、緑の党のいわゆる赤・赤・緑政権の成立を望む人が一番多く、50%にのぼったが、3党を合わせても多数に達せず、この数字を基にすると、実現の可能性がないことがわかる。なお、既成政党は、すべて、AfDとの連立を拒否している。

毎回行なわれる政治家の人気トップ・テンの調査では、SPDのシュタインマイヤー連邦外相(ガウク現連邦大統領の後任として次期大統領になることがほぼ決まっている)がトップで、2位は緑の党のバーデン・ヴュルテンベルク州のクレッチマン州首相、3位にようやくメルケル連邦首相(CDU党首)が顔を出している。以下ショイブレ連邦財務相(CDU)、デメジエール連邦内相(CDU)、緑の党のエズデミール代表、SPDのガブリエル党首(連邦経済相、現メルケル政権の副首相)、フォン・デア・ライエン連邦国防相(CDU、女性)、ゼーホーファー・バイエルン州首相(CSU党首)、左翼党のヴァーゲンクネヒト連邦議会議員団代表(女性)の順序となっている。

なお、この1月20日、トランプ氏がアメリカ大統領に就任するが、トランプ新大統領の下で、アメリカ・ドイツ関係は悪化すると憂慮する人は55%にのぼり、2%が改善すると見、39%はあまり大きな変化はないだろうと答えている。トランプ候補の勝利が明らかになった直後の去年11月の調査では、トランプ氏が実際に大統領に就任すれば選挙中の過激な態度は温厚なものに変わるだろうと見る人が78%にのぼっていたが、今回の調査ではそのように考える人は59%に減っている。大統領に就任してもトランプ氏の過激な態度は変わらないと見る人は去年11月には20%にすぎなかったが、今回は33%に増えている。

以上、1月13日に発表された今年最初のZDFの「ポリットバロメーター」の世論調査の結果をお伝えした。この世論調査は、マンハイムの選挙世論調査グループがZDFの依頼で今年1月10日から12日にかけて無作為抽出による1292人を対象に電話でインタビューしたものである。

 

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