フェアフォンの開発者にドイツ環境賞

あきこ / 2016年11月20日

 

deutscher-umweltpreis

ドイツ環境賞授賞式 © DBU/Peter Himsel

先日、ドイツ環境賞が3人に授与されたというニュースが耳に入ってきた。受賞者の一人がフェアフォンの発明者だというニュースを聞いて、このサイトに書かれた記事を思い出した。

それは、2013年12月15日に掲載した「スマートフォンは過去、これからはフェアフォン」という記事だ。この記事は、アフリカの内戦地域で採掘される“血で汚れた”鉱石や、中国での過酷な労働条件のもとで生産されるスマートフォンに対して、「粋な、賢いスマートフォンを望むユーザーの大半は不正な生産環境について関心がない。キャンペーンによって消費者の興味を引くことができるかもしれない。彼らはひどい状況について一時は憤慨するだろう。しかしこの怒りは間もなく消えてしまう。自分たちでフェアな携帯を作ってみたらどうか。今までの製品よりも人間らしい環境で携帯電話を生産する方法はある。このような製品が購入できると知れば、消費者は考え直すのではないか。そして大手メーカーも改善を試みるのではないか」と考えたオランダの工業デザイナー、バス・ファン・アーベル氏が開発したフェアフォンについて書いている。

この記事が出てからほぼ3年が経った今年10月中旬、フェアフォンの開発者ファン・アーベル氏、ブランデンブルグ工科大学のアンゲリカ・メットゥケ教授、建材の再利用を進める企業の経営者であるヴァルター・フェース氏の合わせて3人に、「ドイツ環境賞(Deutscher Umweltpreis)」が授与されるという発表があった。ドイツ環境賞はドイツ連邦環境財団(DBU、Deutsche Bundesstiftung Umwelt)が1993年に創設した賞で、環境問題を早く察知し、それに対する予防策や対抗策の提言、解決のための実践可能なモデルを提起する個人や団体に贈られるもので、賞金は50万ユーロ(約5800万円)とヨーロッパでは最高の額となっている。ちなみにこのサイトにも何度か登場しているハンス・ヨアヒム・シェルンフーバー教授が2007年、シェーナウ電力会社のウーズラ・スラデック氏が2013年に受賞している。

ドイツ連邦環境財団は、「フェアフォンの創設者で経営責任者でもあるファン・アーベル氏はインフォメーションとコミュニケーションの業界において、携帯やスマートフォンの行き過ぎた買い替えに対抗するための新しい道を見つけた。またメットゥケ教授とフェース氏は再利用可能なコンクリートの生産や、再生コンクリートの利用を促進した。限りある資源の採掘が至るところで貴重な生活空間を脅かしていることに対し、製品の寿命を持続させることで、資源の効果的な利用の可能性を示した」と授賞の理由を説明した。

2013年12月、初めて市場に売り出されたフェアフォンは、ごく普通の中級のスマートフォンに見えた。しかし「決定的な違いは、使われた鉱石がどのような経緯で採掘されたかを追跡したことだ。コンゴの鉱石が紛争地域で採掘されたものではないことを我々は確認した。また製品に使われる金に関しても、あくまでフェアトレードにこだわった」とファン・アーベル氏は当時を振り返る。材料だけではなく、生産に関わる労働条件についても注意し、少ない発注数にも対応してくれる生産拠点を中国に見つけたという。フェアフォンの生産に至るまでの過程については、「スマートフォンは過去、これからはフェアフォン」に詳しく書かれているのでここでは省くが、ファン・アーベル氏にとって重要なことは、フェアフォン自体が長持ちする製品となることで、そのために機器を構成する部品が交換可能であることが重要であった。たとえば、ディスプレイが壊れたとしても、道具を使わずに交換ができるように設計されている。このため、フェアフォンの寿命は他の携帯よりもはるかに長い。「携帯の利用期間を2倍にすることができれば、携帯の生産は半分で良い。生産を少なくすれば、環境への負荷が大きく減る」とファン・アーベル氏は述べている。

2013年の発売開始以来、すでに10万台以上のフェアフォンが売れ、今年の売上げは約4千万ユーロ(約46億4千万円)に上ると予想されている。以後、フェアフォン2が開発されたが、この機器はまるでレゴのように解体が可能で、部品が壊れてもその部分だけを取り換えることで機器全体を買い替える必要はない。「フェアな原料、フェアな生産、長い寿命と持続性。これらすべてを100%実現することはできない。しかしフェアフォンは他のどの携帯よりも持続可能な製品である」と語るファン・アーベル氏は、「より透明な生産、より良い労働条件、寿命の長い機器のための支出を惜しまない消費者がいることを生産者が理解すれば、我々に続く企業が出てくるだろう」という希望を持っている。

ヴュルツブルグで行われた授賞式でガウク大統領は、「行動を起こすことを要請されているのは政治だけではない。気候保護、つまり私たちの環境全体の保護は、私たち一人一人の消費行動の問題でもあるからだ。資源にこだわるフェアフォンの生産のためにどれだけの努力が必要であるのか、ドイツの約4400万人にのぼるスマートフォン利用者が携帯の購入を決めるときにどれほど自覚しているだろうか。これは私自身も含めてのことである。あらゆる局面で環境保護を考えることは、面倒なことであり、時には気持ちが重くなることもある」と述べた。大統領は最後に「いろいろな問題に立ち向かう用意があることが、環境保護に向けて成果を上げる決定的な原動力になる。私たちが将来を楽観的に見ても良いことを受賞者たちの業績が示している。地球の持つ豊かさを知ると同時に、それにも限界があることを知る行動を私たちが身に着けることができる希望が与えられた」と述べ、受賞者をたたえた。

 

Comments are closed.