英国人の目で見たドイツ

こちゃん / 2016年11月13日
12_Goethe.jpg Karl Bennert Goethe in der Campagna (Kopie nach J.H.W. Tisch-bein), um 1849 Öl auf Leinwand, 167,5 x 211,2 cm Freies Deutsches Hochstift / Frankfurter Goethe-Museum © David Hall - ARTOTHEK

カンパーニャのゲーテ

外国人にとり大変おもしろい展示がベルリンで行われている。ドイツについての展示で、構想を考え出したのは英国人、正確にはロンドンにある大英博物館の前館長ネイル・マックグレゴア氏だ。

この展示、実は2014年に大英博物館で催され、それまで英国人の知らなかったドイツを紹介したと大好評を博した。英国では、第二次世界大戦の直後から長い間ずっとナチの戦争映画などがテレビで延々と放映され続けてきたので、「ドイツ人は嫌なヤツだ」というイメージが国中に広まっていた。それが、この展示と、そしてこれと並行して放送され、約400万人もの人たちが聞いたというBBCのドイツ関連の連続番組で大きく変わったという。それを今回、ベルリンの文化的展示会を主催しているマルティン・グロピウス・バウがベルリンの中心部にある彼らの立派な会場に招待したのだ。

どうしてこの展示がおもしろいかというと、それは、ドイツ人ではなく、外国人である英国人が、英国人の目でドイツを見て、ドイツでは当たり前だと思われていることや、ドイツ人がほとんど疑問を投げかけないこと、あるいは外国人にとって理解しにくいことにも触れながら、ドイツを紹介しているからだ。従って、展示のタイトルも「英国人の見たドイツ: ある国の記憶 」となっており、日本人が見ても、ドイツで行われる普通の展示とは一味異なり、興味深いのだ。

会場には、ドイツの今日の文化、経済、政治に影響を及ぼしていると思われる約200点の歴史的展示品が集められている。また哲学者や詩人、芸術家や発明家の貢献も語られている。そして、これらを通して過去約600年のドイツの歴史が理解できるようになっている。

まず最初に入る部屋では、1989年のベルリンの壁崩壊と二つの異なる国であった旧東ドイツと旧西ドイツの統一がテーマだ。それは、東西ドイツは一時、別々に分かれた独立国家であったが、本当は共通の歴史を持っている国だったのだということの説明になっている。

ドイツという国は英国人にとって不思議なようだ。「ドイツとは一つの国というより、一つのアイディアだ」と壁に書かれた説明の文章にある。すでに神聖ローマ帝国(ドイツ)の時代から、国境線は度々移動しており、以前にはドイツだったのに途中でドイツから抜けた地域や街、または逆にドイツに加わった地域が多くある。古くは北イタリアの一部や現在はフランスの一部であるアルザス・ロレーン地域、スイスのバーゼルやチェコのプラハなどの街が以前はドイツの一部だった。1806年に神聖ローマ帝国が崩壊した後にはオーストリアが別の国になった。1871年にドイツ帝国が誕生し、近代的なドイツという国の国境が定まった後にも、ドイツは二度の世界大戦を通して、現在はポーランドやロシアの一部になっている地域を失っている。マックグレゴア氏は、この変化する国境線がドイツがより積極的に欧州共同体を受け入れる前提になっていると説く。

もう一つドイツが英国と大きく異なるのは、ドイツが英国のように中央集権的な国ではなく、長い間 、 大小沢山の侯国や侯爵領の集まりだったことだ。その事実が、現在ドイツの片田舎のようなところにも、今なお高い文化が残っていて驚かされる理由だ。それを展示で象徴しているのはドイツと英国を隣り合わせに並べた1700年頃の地図だ。英国には一つのコイン(貨幣)しか存在しないのだが、ドイツには200近くのコインが並んでいる。諸侯や自由都市がそれぞれ自身の貨幣を持っていた結果だ。

来年はマルティン・ルターの宗教改革が始まってからちょうど500年に当たるのだが、会場には1541年に印刷されたルター訳の聖書が展示されている。ルターの貢献は、宗教改革も勿論そうだが、聖書をギリシャ語(新約聖書)とヘブライ語(旧約聖書)からドイツ語に訳す時に、新しいドイツ語を創作したことだという。それまでは一般庶民と教養のある人たちや高い地位にある人たちの話していたドイツ語は異なっていたのだが、ルターはその両方から新しい言い回しや言葉を作り出し、誰が読んでも分かるドイツ語、つまり現代ドイツ語の基礎を作った。また、聖書は、1450年ごろにドイツ人のヨハネス・グーテンベルクの発明した活版印刷のおかげで、短期間に当時としては驚くべき50万部も印刷され、大ベストテラーとなった。

展示ではドイツ人と自然の関係、哲学者イマヌエル・カントや詩人ヴォルフガング・ゲーテ 、思想家カール・マルクスのドイツ文化への貢献、美術と建築に関する総合的な教育を行って、以後の合理的で機能主義的な工芸や建築に大きな影響を与えたバウハウスなどが扱われている。また、ナチ時代の蛮行を示すプラカードや強制収容所の入口の扉、以前にはドイツ領だった地域から戦後何百万人もの引揚者が避難して来た事実、その時に彼らがどうしても手放したくなかった僅かな品々を運ぶのに使ったであろうと思われる手押し車、旧東独地域から旧西独地域への逃亡者が着ていた潜水服なども見られる。

14_Benz.jpg Carl Friedrich Benz Benz-Patent-Motorwagen Nr. 2 (originalgetreuer Nachbau), 1885 Eisen, Messing, Kunststoff, Eiche, 148 x 146 x 248 cm © Reiss-Engelhorn-Museen Mannheim, Foto: Jean Christen

ベンツの発明した世界初の自動車

会場にはこの他、ドイツの有名な画家アルブレヒト・デューラーやカスパー・ダーヴィッド・フリードリヒの絵、ヨーロッパでは初めてドイツのマイセンで作られた磁器、カール・ベンツの発明した世界初の自動車(複製)なども陳列されている。英国人が見たドイツとは、こういう国のようである。開催期間は2017年1月9日まで。

なお、ネイル・マックグレゴア氏はこのテーマについての本も書いている。原書は Neil MacGregor: Memory of a Nation、ドイツ語版のタイトルはDeutschland – Erinnerung einer Nation (640ページ)。

 

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