桃井かおり主演「フクシマ・モナムール」 - 太陽光発電で撮影

あきこ / 2016年2月28日
Gruesse aus Fukushima

フクシマ、モナムール © Berlinale

2月11日から11日間にわたって開催されたベルリン国際映画祭、通称「ベルリナーレ」は今年も世界から多くの映画関係者、記者、観客を集めた。今年は「幸せの権利」がテーマであった。

ベルリナーレ直前の公式記者会見では総合ディレクターだけではなく、各部門のディレクターが担当部門の“目玉作品”を紹介するのだが、パノラマ部門ではドリス・デリエ監督の「フクシマ・モナムール」がその一つとして紹介された。「故郷を去って幸せを求める難民に焦点が当てられがちだが、故郷に戻って失われた幸せを求める人もいる」というパノラマ部門ディレクターの「フクシマ・モナムール」の紹介コメントであった。

2月13日にワールドプレミアとして上映された同作品は、批評家や観客から好意的な評価を受けた。旧東ドイツを代表する監督の一人であったハイナー・カーロウの名を冠したDEFA財団(旧東ドイツの国営映画会社が制作した映画の維持管理と上映を主な任務とする財団)の「ハイナー・カーロウ賞」、ベルリナーレの独立審査委員たちによる賞の一つであるCICAE(国際アートハウス連盟)賞を受賞、パノラマ部門の観客賞では1位を逃したものの2位を獲得し、“目玉作品”であることを実証した。

映画の内容を簡単に紹介しておこう。自分のせいで結婚直前に婚約者と別れたドイツ人女性マリー(ロザリー・トマス)が「国境なきクラウン団」の一員として日本を訪れ、住民たちを慰問するために南相馬の仮設住宅に滞在する。そこで元芸者のサトミ(桃井かおり)と出会う。サトミは危険を承知で、津波で破壊された自分の家に戻るため、マリーに車の運転を頼む。サトミを目的地に送り届け、仮設住宅に戻ろうとするマリーだが、サトミの姿を見ているうちに、留まることを決意する。文化的背景も年齢も違う二人だが、人には言えない罪悪感に苦しめられていることが明らかになるにつれ、徐々に心を開き合っていく。

Doris Doerrie Pressekonferenz

記者会見でのデリエ監督 (Foto あきこ)

記者会見で映画制作の契機について尋ねられたデリエ監督は、「2011年11月に福島を訪れ、立ち入り禁止地区にも行った。震災後、半年以上が経っても起きたことが理解できず、倒壊した家の前で呆然と立ち尽くす年老いた男性に会った。高い放射線量のために若者たちは故郷を離れ、ほぼ高齢者だけとなった仮設住宅で聞いた話に衝撃を受けた。これらの人々の思いを物語にしたいというのが制作のきっかけだ」と述べた。「この訪問での体験をもとにシナリオを書き始めた。ドイツ人の視点から福島とドイツをどのようにつなげるかを考えていたとき、マリーという人間を思いついた」というデリエ監督は、釜石市に住んでいた元芸者の伊藤さんの話を聞き、マリーの相手として元芸者を設定した。伊藤さんは「フクシマ・モナムール」のワールドプレミアを待たずに、6週間前に亡くなったという。

Rosalie Thomass

主演のロザリー・トマス (Foto あきこ)

「桃井かおりとは2年前に東京で会って話した。その当時、資金は全くなく、実現できるかどうかもわからなかったが、彼女は福島の惨事をテーマにすることに大きな関心を示した。彼女はまた、俳優として日本で定着している自分のイメージを取り払い、年齢相応あるいは年齢以上の老け役を演じたいと思ってきたと言った。この二つの理由で出演を快諾してくれた。この映画プロジェクトに一番初めから関わってきたのは彼女だ」とデリエ監督は語る。桃井は、彼女自身が監督・主演した映画「Hee 火」上映のため記者会見には参加できなかったが、その桃井について共演したロザリー・トマスは「圧倒的なエネルギーを持つ女優。二人が激しくぶつかるエネルギーから、脚本には書かれていないシーンが生まれてきた。彼女と共演できたことは大きなプレゼントになった」と桃井かおりに大きな敬意を表した。

日本での具体的な公開予定はまだ決まっていないというが、「日本人、中でも福島、そして撮影に参加してくれた仮設住宅の住人たちにはぜひ見てほしい」というデリエ監督は、ワールドプレミア上映の前日、ドイチュラント・ラジオの公開放送の場で福島での撮影について尋ねられ、「この風景は2020年の東京オリンピック前には消されてしまうだろう。この風景はなかったことにされてしまう。だからこそ、どうしても福島の風景を映像に残しておきたいと思った」と福島への思いを述べた。

6週間の撮影期間中、俳優とスタッフは除染作業員が寝泊まりする簡易ホテルに滞在し、撮影場所となった廃屋と仮設住宅の間を動くだけだったという。にもかかわらずデリエ監督もロザリー・トマスも、「仮設住宅に暮らす人々を見ていると、自分が恥ずかしくなった。彼らが私たちを支え、励ましてくれた」と感謝の気持ちを表した。

デリエ監督は映画の中で取り立てて原発を取り上げてはいない。しかし、映画の最初に出てくる放射性廃棄物を入れた黒い袋が延々と並ぶ風景、最後に出てくる東京での反原発のデモの場面を見れば、同監督の主張は明瞭だ。記者会見でも「安倍政権は福島の現地で困難を抱えている人々に支援の手を差し伸べようともせず、原発の惨事が与えている教訓に向き合おうとしない。見るに堪えない」と述べた。

映画祭総合ディレクターのコスリック氏も外国記者協会の会見で、「日本に対してこんなことを言うのが失礼なことは百も承知だが、日本人はチェルノブイリ事故から何も、そう全く何も学ばなかった。今、日本で起きていることは黙示録の状況だ。そんな中で唯一、ドリス・デリエ監督があの危険な地帯で映画を撮ったことは喜ばしい。チェルノブイリから30年、福島から5年過ぎ、あの事故を忘れたかのように原発が建設されようとしている。今の我々だけではなく、これから何千年も地球を危険にさらす原子力エネルギーについて、再考を促す映画だ」と語った。

デリエ監督は会見の最後に、撮影はドイツから持ち込んだ太陽光発電装置で作られた電力で行ったことを明かした。

3 Responses to 桃井かおり主演「フクシマ・モナムール」 - 太陽光発電で撮影

  1. 寿恵子 says:

    上映の情報がありましたら教えてください。
    よろしくお願いします。

    • あきこ says:

      コメントありがとうございます。日本での劇場公開の情報がわかり次第、お知らせいたします。

  2. Pingback: 映画『フクシマ、モナムールFukushima, mon amour』予告編