難民問題 − ぶれないメルケル首相

あや / 2015年12月20日

12月14日のキリスト教民主同盟(CDU)の党大会における演説でメルケル首相は、「私たちは成し遂げられる(Wir schaffen das)!」というあの言葉を再び用いて、難民政策に関する自身の考えを党員に訴えた。

9月初旬、「歓迎の文化(Willkommenskultur)」という言葉が国内外のメディアを賑わせたが、一向に静まる気配のない難民の波を前にして、そうした歓迎ムードは次第に下火になっていった。すでに難民の受け入れ数は、およそ100万人に達しており、幾何級数的に増える難民の数に不安を抱く人々も多い。難民の宿泊施設への放火や器物損壊は後を断たず、右派のポピュリスト政党であるドイツのための選択肢(AfD)が支持率を急速に伸ばしている。さらに、キリスト教民主同盟の姉妹政党であるキリスト教社会同盟(CSU)の党首でバイエルン州首相のホルスト・ゼーホーファー氏が11月下旬の同党の党大会で隣にいるメルケル首相を公然と批判。キリスト教民主同盟内にも難民政策の見直しを求める党員が少なからずおり、メルケル首相への向かい風は厳しくなるばかりだった。

今回のキリスト教民主同盟の党大会において特に注目されたのは、難民に関する決議文に、難民の受け入れ数の上限を設ける文言を含めるか否かだった。党首脳による決議案には、党内の反対派に対する配慮から、「実感として分かるほどに難民を減らしていく」という文言が含められたが、「難民の受け入れ数の上限」という言葉は一貫して用いられなかった。この決議案を携えて、メルケル首相は、大変熱のこもった演説をした。「ドイツは強い国です。私たちは成し遂げることができる。瓦礫の中から経済の奇跡をもたらし、分断されていた国を再び統一したように、偉業を成すということが私たちの国のアイデンティティーであるから、私はこのように言うことができるのです」。一時間強の演説を首相が終えると、会場は鳴り止まない拍手に包まれた。当初、党大会は紛糾することも予想されていたが、メルケル首相の力強い激励の演説が功を奏し、党は一転まとまりを見せ、上述の決議案は賛成多数で可決された。

メルケル首相が、演説の中で、難民支援に従事する市民たちについて言及したことも触れておきたい。「いまだかつて、これほどまでに市民が協力と実行の意思を示したことはなかった。こうした市民参加は、心の内にある深い憎しみをもって、自分たちと異なるものに敵対する空気を作り出そうとする全ての人たちに対する最善の、そしてもっとも説得力のある答えです。私たちの国に、憎しみを広めようとする人たちのチャンスはありません」。12月10日付けの週刊紙「Die Zeit」に掲載された難民を支援する人たちに対するオンラインアンケートの結果は、このメルケル首相の発言と矛盾しない。難民支援に関わってどのような経験をしたかという問いに対し、87%の回答者が肯定的な経験をしたと答えた。また、パリで起こった同時多発テロが自身の難民支援の姿勢に影響を与えたかという問いに対して、活動を控えようと思うようになったと答えた人は回答者の1.2%に過ぎず、71.2%は支援活動にテロの影響はないと答え、23.2%の回答者は以前よりもさらに意欲をもって支援活動に取り組むようになったと答えている。

One Response to 難民問題 − ぶれないメルケル首相

  1. 若大将 says:

    初めまして。素晴らしい記事をありがとうございます。メルケル首相の難民救済の人道主義、脱原発や歴史認識。素晴らしいリーダーですね。日本の現状との差は歴然としていて、もっと日本人は彼女やドイツに注目すべきと思っています。
    これからもメルケル首相に関する記事を期待しています!