楽観的で寛容 - ドイツ統一後25年、変化する若者の意識

あきこ / 2015年10月25日

ベルリンの日刊新聞「ターゲスシュピーゲル」の「楽天的で寛容」という見出しを見て、どこの国のことだろうと思いつつ読み始めた。ドイツの若者たちの意識調査の結果だということで驚いた。

オランダの石油会社シェルのドイツ法人であるドイツ・シェル社は1953年以降、3年から5年毎に12歳から25歳の若者を対象に、彼らの社会観や社会への期待について調査し続けている。同社は、独立した研究機関に調査を委嘱しており、2010年からはビーレフェルト大学のマティアス・アルバート教授が調査にあたっている。今回の調査は第17回目に当たり、2015年1月から3月中旬まで、2558名の若者を対象にインタビュー形式で行われた。ドイツ統一25周年を迎えた今、今回の調査対象となった全員がドイツ統一後に生まれた若者たちである。

全体として目立つのはポジティブで、将来にあまり不安のない若者たちが多いということである。調査対象の61%が「自分たちの将来を何とかうまくやっていける」、52%が将来の社会についても楽観的に見ているという結果だ。自分自身の将来について、2006年の調査では50%、2010年では59%が楽観視していて、肯定的に将来を見る若者の数がここ10年近くで増えている傾向に対して、マヌエラ・シュヴェーズィッヒ連邦家族・老人・女性・青年相は、「素晴らしい傾向だ」と評価している。

財政危機、ウクライナの危機、さらには直近の難民危機にもかかわらず、若者たちが自信をもって将来を見ていることについて、この調査を担当したアルバート教授は「若者は自分たちの物質的豊かさを意識している。彼らは、決して世界の出来事から目をそらしてはおらず、むしろ高い関心を持っている。同時に、大人たちの不安も共有している。ヨーロッパで戦争が起きることへの不安は、2010年には44%だったが、今回は62%に上がった。バルカン半島で戦争が起きていたとき以上の数値だ」と分析している。

移民についても若者たちは不安を抱いていない。ドイツは移民の数を抑えるべきだという若者たちが2006年には58%だったが、今回では37%となっている。それに対して反外国人感情が広まることへの不安のほうが若者の間では増えている。5年前に反外国人感情が広まることへの不安は40%だったが、今回は48%になっている。この調査は、夏以来大量の難民がドイツに流入してくる前、今年の年初の段階で行われたものであり、現時点における状況との間に開きがあるのではないかという疑問に対し、研究者たちは「出来事によって意見が揺れることは当然である。しかし、この調査は若者のメンタリティーの傾向を調査するもので、傾向自体は安定している。若者たちは、年齢が上の市民たちよりもずっと寛容だ」と見ている。82%の若者が「人間の多様性を認めることが重要だ」と考えている。

また政治的関心を持つ若者は増え続け、今回の調査では46%が政治に関心を持っていると答えた。彼らは現在の政治制度は肯定するものの、政党よりは人権や環境保護の活動グループに信頼を置き、政治参加としてはオンラインでの署名を好んでいるが、それでも4人に1人はデモに参加している。また10%が市民運動に参加している。

さて日本でも同じような調査があるのかと思って調べたところ、2013年3月に厚生労働省が実施した「若者の意識に関する調査」の結果が同省のサイトに載っていた。ドイツ・シェル社の調査とは、対象年齢(日本では15歳から39歳、個人的には30代後半を“若者”というのはどうかと思うが)や質問内容がかなり違うので一概に比較できないが、厚労省の報告書で、「日本の未来について、19.2%が日本の未来は明るいと回答(そう思う、どちらかといえば、そう思うと回答した者)した一方、45.1%が日本の未来について明るいとは考えていないと回答(どちらかといえば、そう思わない、そう思わないと回答した者)した」という項目に注目したい。

日本では、未来について明るいとは考えていないという回答が45.1%、ドイツでは、明るいと考えている人が52%。ほぼ真逆の数字というのには驚かされる。日本で将来を明るいと考えられない理由が「高齢化による財政悪化」(72.9%)、「少子高齢化や新興国台頭などによる経済停滞」(60.9%)、「景気低迷継続による高い失業率や就職難の恒常化」(60.9%)ということのようだ。確かに厚労省の調査が実施されたのは2013年3月下旬であり、安倍政権が打ち出したアベノミクスが成果を出していなかった時期だから、これほどまでに経済的な理由で将来を明るく考えられないということなのだろうか。それなら、アベノミクスの「三本の矢」が放たれて数年を経た今、若者の意識を調査すれば、今回のドイツの調査と同じような数値が得られたのだろうか。

明るい将来を描けるかどうか、日本とドイツの正反対の若者の意識を目にして大いに考えさせられた。

関連リンク:
2013年厚労省「若者の意識に関する調査」の結果

 

 

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