戦後70周年のドイツのデモ

永井 潤子 / 2015年8月30日
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Photo:Taichiro Kajimura

ベルリンでは、元日本軍「従軍慰安婦」メモリアルデーである8月14日、ブランデンブルク門前で「慰安婦問題の解決を求める」静かなスタンディングデモが行われた。このデモは同時に「アベ政治を許さない」デモともなった。翌8月15日の終戦記念日にデュッセルドルフで行われた同趣旨のデモとともに、先に作家の澤地久枝さんの提唱で行われた日本での「アベ政治を許さない」一斉行動に連携したのだ。

皆さんはこのメモリアルデーのことをご存知だろうか。1991年8月14日は、韓国の金学順(キムハクスン)さんが「日本軍慰安婦」被害者として初めて名乗りをあげた日で、その後各地の被害者たちが長年の沈黙を破って次々に名乗りをあげた。2012年12月、台北で第11回アジア連帯会議が開かれた際、金学順さんの勇気ある行為を記念して、8月14日を日本軍「慰安婦」メモリアルデーとすることが決められたのだ。その後はこのメモリアルデーを国連記念日とするよう求める運動が国際的に進められている。ベルリンでは2013年以来ベルリン在住の日本人女性、韓国人女性、ドイツの市民運動家、キリスト教関係者などを中心に8月14日にドイツの歴史を象徴するブランデンブルク門前で「慰安婦」問題の早期解決を求める運動への連帯を示すスタンディングデモが行われている(なお、ベルリンでは元「従軍慰安婦」の女性たちを支援する活動は1992年から続けられ、同趣旨のスタンディングは2005年から別の日に行われてきた)。

ベルリンも今年は猛暑が続いたが、8月14日は特に35度を超える記録的な暑さだった。それでも参加者たちはアジアの8カ国の元「従軍慰安婦」の女性たちの大きな写真と彼女たちの苦しみに満ちた人生を紹介する文章の書かれた大きなパネルやさまざまな言葉の書かれた横断幕などを持って、照りつける太陽のなか、2時間の間立ち続けた。デモ参加者たちはまた、「慰安婦問題とは何か」を詳しく書いた英語、ドイツ語のビラを通行人に配り、さまざまな国の人たちと話し合った。安倍談話が発表されたその日でもあり、参加者の多くは日独両語の「アベ政治を許さない」というプラカードも掲げていた。

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Photo:Taichiro Kajimura

夏期休暇の最中だったため、今年の参加者総数は例年より少なく50人ほどだったが、暑さのためか通りかかる観光客の数も少なかった。しかし、通りかかった日本からのグループは「ベルリンでこんなデモに出会うとは思いがけなかった」と驚きながら、連帯の気持ちを表明してくれた。また、中国や韓国の犠牲者の写真を発見した中国人や韓国人の観光客も「自分の国の犠牲者たちの写真にこんなところで出会うとは! 彼女たちに連帯を示すデモに感動した」と喜んでいた。ブランデンブルク門は世界中の観光客が集まる観光スポットではあるが、ドイツの歴史の光と影を象徴する場所でもあるためか、通りかかる観光客の中にも関心や意識の高い人が多かった。パネルの前で足を止めて、解説を読み、パネルの持ち手やチラシの配布者と熱心に話し合う人が少なくなかった。参加者の一人は「今年は例年以上に、デモ参加者とさまざまな国の人たちとの対話の輪が広がったように思います。ブランデンブルク門前の広場はこの2時間の間、古代ギリシャ時代、市民が議論したアゴラのような感じで、感動しました」と感想を述べていた。

ベルリンの日本軍「慰安婦」メモリアルデーのサイレント・デモの様子は、日本や中国のメディアのほか、独仏合同の公共テレビ局アルテ(Arte)が、報道番組で取り上げた。Arte の女性記者は特にベルリン在住の写真家、矢嶋宰氏へのインタビューに力を入れていたが、矢嶋氏は以前、元「慰安婦」の高齢の韓国人女性たちが共同生活を送るソウル郊外の「ナヌムの家」で働き、彼女たちの心に寄り添った写真を発表していることで知られている。

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Photo:Taichiro Kajimura

翌8月15日には日本人が多く住むため「ライン河畔のリトゥル・トウキョウ」などと呼ばれるデュッセルドルフの州立美術館前でも、日独の市民によるアベ政権に抗議する集会が開かれた。参加者たちはそれぞれ「アベ政治を許さない」とそのドイツ語版「Nein zu Abes Politik」のポスターを掲げていたが、日本語版は著名な俳人、金子兜太が書いたオリジナルをコピーしたもの、ドイツ語の方はデュッセルドルフ在住の書家によるもので、参加者それぞれがA3の紙に印刷して持ち寄ったものだ。

この集会は、7月18日、作家の澤地久枝さんたちの呼びかけにより日本全国約1000箇所で同時に一斉に行われた、みんなが同じ「アベ政治を許さない」のポスターを持って参加する抗議集会にヒントを得たものだという。この時に使われたのが金子兜太氏の書いたこのポスターで、ベルリンとデュッセルドルフのデモでも同じポスターを使うことに意義があった。この集会に参加した人はおよそ40人と多くはなかったが、都合が悪くて参加できなかった人たちも、それぞれ自宅や職場で日独のこのポスターを掲げたため、実際の参加者はもっと多いという。抗議集会では、憲法違反の安保法案を衆院で強行採決し、原発再稼働を進める安倍政権に抗議する声明が読み上げられたが、これと同じ声明は同日フランスやスイスなどヨーロッパ各地で行われた同様の抗議集会でもそれぞれの言葉で読み上げられたということである。デュッセルドルフのデモの様子は、岩上安身氏のIWJ(Independent Web Journal)の国際チャンネルでも取り上げられた。

 

 

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