ドイツの募金で福島の子どもたちが沖縄で保養

永井 潤子 / 2015年5月31日

P1180539先日、ベルリンの郊外、クラインマハノウの小学校を一人の日本人女性が訪れ、300人の子どもたちや父兄を前に福島の子どもたちの様子について話をした。この女性はルール地方、ドルトムントの独日協会の会長を務めるシュルターマン 容子さん。彼女とこのプロテスタント教会系の小学校の生徒たちは、数年前から同じ目的で強く結ばれている。

最初のきっかけは2012年のある日、同校の女性校長、レーギエン=クナプケ先生が、子どもたちが集めたお金をシュルターマンさんたちが始めたドルトムント独日協会の福島の子ども支援プロジェクトに寄付したいと申し出たことだった。シュルターマンさんは早速この学校に出かけて、2011年3月11日の福島原発事故直後に立ち上げた「日本のための救援活動(Hilfe für Japan)」について説明した。原発事故が起こって以来、外に出て思いっきり遊べない福島の子どもたちを約2000キロ南の沖縄で休暇を過ごさせるための募金活動だという話に、クラインマハノウのこどもたちは強い印象を受けたようだったという。福島の事故前の四季の映像を見せると、「きれい!」「素晴らしい!」などという声が盛んに上がった。その美しい福島が原発事故によって放射能に汚染されてしまったのだ。この時手渡された子どもたちの募金は3152、46ユーロ(約41万円)という高額だったが、子どもたちが集めた細かな硬貨も含まれていたため、ずっしりと重かったという。翌2013年は2400ユーロ(約31万円)、そして去年は更にたくさんの募金を集め、3680ユーロ(約47万8000円)も送金してくれた。シュルターマンさんは今年も学校の招待を受けて2度目に訪問し、保養キャンプの様子を紹介した。そして約300人の子供たちが「スポンサー・マラソン」で合計5693周して集めてくれた募金3700ユーロ(約48万円)を受け取った。P1180538

この学校の子どもたちの募金活動の中心となるのが、この「スポンサー・マラソン」と呼ばれる活動だ。ドイツでは学校などでさまざまな目的、例えば図書館の充実とか体育用品の購入とか、クラス旅行の費用のためなどにお金が必要になった時、あるいは社会的なプロジェクトや特定の組織のために募金をしたい時に「スポンサー・マラソン」を実施することが、1990年代から盛んになった。「スポンサー・マラソン」の参加者たちは、事前にできるだけ多くの「スポンサー」を集め、あらかじめ、一定の時間内に決められたコースを何周すればいくらというように、もらえる金額を決めておく。ランナーたちはできるだけ多くのお金を集めようと頑張って走るので、お金が集まるとともに自分たちの健康増進にもつながり、学校にとっては共同の達成感も味わえるという効果がある。小学生たちの「スポンサー」は、親たちや近所のおばさん、商店街のおじさんたちだったりするようだが……。普通は学校の「スポンサー・マラソン」で集めたお金の半分ほどは自分たちのために使うようだが、レーギエン=クナプケ校長先生によると、この学校の生徒たちは集めたお金のほとんどを福島の子どもたちに送ることを望んでいるという。

シュルターマン 容子さんらドルトムント独日協会の役員たちがすごいのは、この募金活動を早くも2011年3月15日、つまり東日本大震災の4日後に立ち上げていることだ。多くの人がテレビの前に釘付けになって大きな津波が家々を飲み込んでいく様子や被害を受けた原発の映像などを呆然と見ていたときに、彼女たちはすぐさま行動を開始し、「日本への救援活動」を立ち上げ、記者会見などを行なって募金を呼びかけた。シュルターマンさんたちは、チェルノブイリ事故の被害にあったこどもたちをドイツ各地で受け入れた経験にならって、集まったお金で福島の子どもたちを避難させたいと願ったのだ。ドルトムント独日協会が、ノルトライン・ヴェストファーレン州の外国協会(Ausland Gesellschaft) に属していることも有利だった。外国協会は、第二次大戦中主にユダヤ人を迫害した苦い経験を踏まえ、二度とこのような愚行を繰り返してはならないとの反省からドルトムントの市民たちが戦後、外国文化の理解、国際的対話、平和教育を目指して設立した組織で、ドルトムント市の補助金100%で運営され、現在は28もの2か国間の協会が所属している。その一つが独日協会である。事故直後のドイツ人の日本の人たちへの同情と連帯感は非常に大きく、外国協会の絶大な支援を背景に、独日協会や外国協会の催し物などを通じて多額の募金が集まった。

そのお金で2011年夏、第1回の行動計画が実現し、111人の福島の子どもたちが7月26日から4週間、沖縄で素晴らしい暑休みを過ごすことができた。受け入れてくれたのは那覇にある沖縄国際ユースホステルのマネージャー、福島誠司氏で、部屋を無料で提供してくれたほか、さまざまな便宜を測ってくれた。 福島氏とシュルターマンさんは30年以上前からの知己で、別の青少年交流計画で協力し合ってきた仲である。第1回の募集に対して700人もの子どもが応募してきたが、原発事故後、外で全然遊べなかった子どもなどを中心に100人余りに絞らなければならなかった。福島氏は沖縄滞在中のプログラムを作成、実行し、40キロウォークを実現させた。内部被曝をしている子どもたちはたくさん水を飲んで、たくさん汗をかき、たくさん食べて、たくさん排泄して、放射能を外に出すことが重要だという考えからだ。暑い沖縄で、放射能を気にしないで長距離を歩いたり、青い海で泳いだり、外で思いっきり遊んだり、サッカーをしたり、浜辺でカニと戯れたりすることができて、子どもたちは大喜びだった。最初食が細かった子どもたちも4週間の間には、もりもり食べ、ぐんぐんたくましくなっていったという。あるお母さんの感謝の手紙によると、子どもたちは体力と免疫力をつけただけでなく自信をつけたようで、精神的にも強くなって帰ってきたということである。子どもたちの間には、こういう素晴らしい夏休みをプレゼントしてくれたドイツの人たちへの感謝の気持ちも生まれ、「大きくなったらドイツに行って、子どもの時にこういうことがあったと話したい」とか、「ドイツと関係のある仕事をする」とか言う子どもたちも出てきた。

2011年12月までに16万ユーロ(約2000万円)もの募金が集まったものの、この規模でプロジェクトを遂行し、ましてや継続するのは財政的に困難であった。そこでシュルターマンさんたちは地元のカリタス(カトリック教会系の慈善団体)を通じ、福島の現状とプロジェクトの構想を書いたレポートを添付し、国際カリタスに補助金の申請をした。すると、翌日すぐに返事があって「素晴らしいプロジェクトだが、お金はいくら必要なのか」「当面40万ユーロ(約5000万円)必要だが、募金で集まったのは16万ユーロしかない」という会話が交わされた。その翌日には「それでは、足りない24万ユーロ(約3000万円)をあげましょう」という連絡があったという。こうしたドラマチックな展開で資金不足は解消され、沖縄県や県内の企業の協力も広がっていった。

ドイツ国内の募金活動もどんどん支持者の輪が広がり、これまでに春、夏の8回のキャンプを実施し、合計830人の福島の子どもたちを沖縄での保養に送り込むことができた。ドイツのカリタスの資金援助も普通は1プロジェクトにつき3年の期限が設けられているというが、このプロジェクトへの援助は3年過ぎた後も続けられている。カリタスがこれまでに提供してくれた資金を含め、このプロジェクトのためにドルトムント独日協会が日本に送金した額は、現在までに約1億円にのぼるという。ドイツ側の継続的な支援に反して、日本の公共機関や大企業の協力があまり得られないのを、関係者は残念に思っている。

福島の子どもたちへの休暇支援活動は長期にわたって続ける必要があるが、ここへ来てプロジェクトは大きな痛手を被ることになった。プロジェクト設立以来、献身的に協力してくれてきた福島氏が沖縄国際ユースホステルをやめることになったため、100人の子どもたちをまとめて受け入れてくれるところがなくなったのだ。幸い、今年の夏休みから、フォトジャーナリストの広河隆一氏がドルトムント独日協会の支援プロジェクトのスタートから約1年後沖縄の久米島で立ち上げたNPO法人「沖縄球美の里」と協力することになったが、球美の里では100人を1度に長期間宿泊させることはできない。そのため今後は各10日間の春休みと夏休みのキャンプを繰り返し支援することになるだろうという。

いずれにしてもこのプロジェクトを長期にわたって続けるためには、長期にわたる支援活動が必要だ。ベルリンに住む私たちも今年3月11日、ベルリン在住の指揮者、渡辺麻里さんが中心になって開いたチャリティー・コンサートでの「沖縄球美の里」への募金総額1690ユーロ(約22万円)を寄付した。渡辺さんは今後もできる限りこのプロジェクトに協力していく意向を明らかにしている。

なお、このプロジェクト、「日本への救援活動(Hilfe für Japan)」宛の募金は慈善団体のカリタスを通じて日本に送られるため、手数料がかかることなく、募金全額がプロジェクトのために使えるという利点もあるという。

口座番号などは以下のリンクで。

「日本への救援活動(Hilfe für Japan)」 www.hilfefuerjapan2011.de

NPO法人、沖縄・球美の里  http://kuminosato.net

広河隆一さんのウェブサイトhttp://www.hiropress.net

 

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ベルリンは福島を忘れない  https://midori1kwh.de/2015/03/15/6674

One Response to ドイツの募金で福島の子どもたちが沖縄で保養

  1. 三澤 洸 says:

    今日のニュースで、ウイーン少年合唱団が福島を訪問し、180万円を寄付したことが報じられました。
    昨日は例の「ソーラーヒコーキ」が台風を避けるために、予定外の日本に着陸しました。
    主翼が物凄く長いのに驚きました。