日独首脳記者会見で福島の状況には一言も触れなかった安倍首相

じゅん / 2014年5月4日

Abe_Merkel Empfang in dem Kanzleramt日本の安倍首相は10日間にわたるヨーロッパ歴訪の旅の最初にドイツを訪れ、メルケル首相と会談したが、会談の主要テーマはウクライナ危機と経済や安全保障問題での日独の協力関係強化だった。エネルギー転換問題でも両国首脳から何らかの話し合いの結果が聞かれることを願った私の期待はあっさり裏切られた。

メルケル首相と安倍総理との会談は、4月30日12時からベルリンの首相官邸で行われた。前日ドイツ入りした安倍首相は、この日午前10時からドイツ経済界の企業セミナー「中小企業の強力な立地国、ドイツと日本」というテーマのシンポジウムに参加した後、首相官邸正門前でメルケル首相とともにドイツ連邦軍の儀仗兵による閲兵式にのぞんだ。日独の首相は、その後約1時間半、昼食をとりながら会談した。 Abe_Merkel 1_Kajimura

首脳会談後の首相官邸での共同記者会見の冒頭でメルケル首相は、「安倍首相との今回の話し合いは実のあるものだったと思う」と述べ、話し合ったテーマを列挙した。まずあげたのがEUと日本との自由貿易協定に関してで、「輸出国ドイツにとって日本との間にこうした協定を結ぶことの重要性」を強調し、「2015年までに貿易自由協定を締結させるよう努力することで日独首脳は合意した」と述べた。これに続くメルケル首相の言葉は次のようなものだった。「もちろん私たちは日本のエネルギー状況についても話し合いました。日本は福島での恐ろしい事故の結果に今なお苦しんでいます。この事故の後ドイツと日本は再生可能エネルギーの分野で協力してきましたが、私たちは今後さらにその努力を続ける意向です」。この言葉に私は耳をそばだてたが、その協力の具体策については触れないまま、テーマは2国間の経済関係や高齢化社会を迎える日独の社会保障や介護分野での協力問題に移って行った。

安倍首相の会見は「私が首相としてドイツに初めて来たのは、2007年のことで同年の北ドイツ・ハイリゲンダムでのサミットに参加、2008年のハノーバー見本市にも特使として来ました。今回メルケル首相をはじめドイツ国民から暖かく迎えられたことを嬉しく思っております」という言葉で始まった。この言葉で私は2007年のメルケル首相と安倍首相の最初の首脳会談後の記者会見を思い出した。7年前もメルケル首相は初めから終わりまで、メモなしで自分の言葉で自由自在に語っていたのだが、この時安倍首相が自分の言葉で語ったのは「私はメルケル首相と同じ歳です」と言ったことぐらいだった。後は随行のお役人のメモに頼りっぱなしで、見ていて恥ずかしくなった。しかし、今回は安倍首相も場数を踏んだためか当時に比べると堂々としていた。それでも資料を見てしゃべることが多く、それをメルケル首相が心配そうに見つめる場面も見られた。メルケル首相が安倍首相の招きを受け入れ、来年日本を訪問する意向を示したのは、今回の会談の成果と言えるだろうか。

今回の共同記者会見でメルケル首相と安倍首相が特に強調したのは、グローバル化が進むなか、世界の平和維持に日独両国が国際組織のなかでより積極的な役割を果たすべきだという点だった。特にウクライナ情勢では両首脳の意見は完全に一致したという。日独両国首脳はG7(日米欧7カ国)の枠内でウクライナ紛争の外交的な解決に努力し、5月25日のウクライナ大統領選挙が予定通り実施されることを強く望んでいる。両首脳はロシアに対する追加制裁措置でもG7が一致団結して対処することも確認したが、その一方でロシアと対話することも重要という見解でも一致した。ドイツと日本はプーチン大統領の「力ずくの現状変更」には強く反対するが、ロシアとの関係をあまり悪化させたくないという立場では共通する。 安倍首相はこの会見で「これまでに日本はウクライナの経済援助に15億ドルを支出しているが、この他にウクライナの民主化促進と経済援助のための緊急支援金として欧州評議会に30万ユーロ(約4350万円)を、また、欧州安保協力機構の監視団に対して50万ユーロ(約7250万円)を支出する」と発表した。特に気になったのは安倍首相の次の言葉だった。「ドイツは積極的に世界の安全保障に貢献して行く方針で、これは我が国の『積極的平和主義』と同じ方向である」と発言したのだ。これはドイツを巻き込んで平和憲法の改定と集団的自衛権の行使容認を強行しようとする意志の表明かもしれない。

東部ウクライナで欧州安保協力機構のドイツ人4人を含む軍事監視団メンバーが親ロシア派勢力の人質になっていたこともあって、記者たちの質問もウクライナ情勢に集中した。日本人記者からは同行記者団のなかのNHKと産經新聞の記者が代表質問したが、産經新聞の記者の「アベノミクスはヨーロッパのデフレとの闘いに有効な処方箋になるとお考えですか?」という質問に対するメルケル首相の答えが印象に残った。「安倍首相が進める経済政策、アベノミクスの必要性はヨーロッパにはない」との考えを明らかにしたのだ。「ヨーロッパはデフレリスクに直面していないという見解をドイツ連邦中央銀行やヨーロッパ中央銀行は持っています。国家財政の健全化を目指すヨーロッパの経済政策は正しいと考えます。日本の状況は独特であり、ヨーロッパとは異なります。それぞれの国はそれぞれの道を探さなければなりません」。メルケル首相はこう答えていた。

その後、安倍首相の得意げなアベノミクスの説明が続いた。まだ完全にはデフレから脱却していないが、15年間のデフレの後の心理的効果はあらわれており、経済の成長、多くの企業での今春の賃上げ、失業率の低下が見られるなど。「今年半ばには長期的な成長戦略を発表することができるだろう」との安倍首相の言葉で共同記者会見は終わった。「再生可能エネルギー分野での協力関係を具体的に説明して欲しい」と私が思ったまさにその瞬間に記者会見の終わりが宣言されたのだった。

こういう首脳会談の後の共同記者会見の場合、日本人記者の質問とそれ以外の外国人記者の質問が交互に取り上げられるが、日本側では日本からの同行記者団のみに代表質問が許されるのが普通である。確かに限られた短い時間内に要領よく質疑応答をすますためには代表質問は仕方がない面がある。しかし、同行記者たちは政治家が答えやすいような質問を用意して記者会見が単なる通過儀礼のようになっていることが少なくない。今回は5年ぶりの日本の首相のドイツ訪問だったのだが、日独の首脳会談の主要テーマがウクライナ問題で、日本が抱えている最も深刻な放射能汚染の問題やエネルギー転換問題について日本の首相が一言も触れなかったことに強い失望を感じた。

さらにこの日、安倍昭恵夫人がベルリン近郊のエコ電力自給で有名な村フェルトハイムを訪れたことを当日、それも記者会見後になって偶然知った。フェルトハイム村は私も訪れたことがある。私が夫人の視察情報を知らなかったのは、私が日本のマスメディアに属していないフリージャーナリストであるためのようだ。ちなみに首相訪問にあたって日本大使館がベルリンの高級ホテルの中に設けたプレスセンターへの立ち入りを許されていたのは、日本のマスメディアに属している記者のみであった。フリージャーナリストはそこに張り出された情報などを見ることができない。こういう差別というか区別は日本独特のものではないかといつも感じる。

安倍首相のドイツ訪問の前日、ドイツの代表的な全国新聞「フランクフルター・アルゲマイネ」に安倍首相の書面によるインタビューが掲載された。そのなかで首相は「日本は電力を融通し合えるヨーロッパと違って島国であり、ドイツのように褐炭などの資源もない。そう簡単に『原発はもうやめた』と言うわけにはいかない」と述べて、原発再稼働の方針を弁護した。「その夫人がエコ村視察とは面白い」と思って後追い取材を2、3試みたが、夫人に同行したのは記者というよりテレビカメラマンたちで、撮影が中心、安倍夫人のバイオマスの熱供給施設の視察の現場にもどうやら立ち会っていないらしいことが分かった。同行した記者たちから夫人の視察現場での表情や感想などを聞き出そうとした私の厚かましい試みは、結局失敗に終わったのだった。

Demo vor dem Kanzleramt安倍首相は記者会見の初めにメルケル首相やドイツ国民に暖かく迎えられたことに感謝の言葉を述べたが、実は抗議デモにも「歓迎」された。首相官邸から少し離れた安倍首相の車が通過する道沿いで、ドイツの市民団体や原発反対の組織などのメンバー、それに在留邦人たち約50人が安倍首相の政策に抗議するデモを行ったのだ。ノルウエーの画家ムンクの「叫び」を彷彿とさせる反原発のプラカードや「即時脱原発!」の横断幕など原発反対の要求が多いなか、「被爆死ストップ」と書かれた大きな横断幕を持って静かにたたたずむ年配のドイツ人に目をひかれた。この男性は「福島の子供たちを内部被曝から守ろう」という運動を熱心に続けている物理学者で、ドイツ放射線防護協会会長のプフルークバイル博士だった。

Demo_PflugbeilDemo_MunckUnter Kontrolle_Luege

しかし、抗議デモは反原発だけのデモではない。デモ参加者たちは安倍政権の歴史認識や近隣諸国に対する挑発的な言動に抗議したり、元従軍慰安婦に対する日本政府の正式な補償を要求したりするなど、さまざまな目的で集まったのだ。「ストップ・アベノミックス」の印象的なプラカードや「特定秘密保護法、No!」という要求もある。ドイツで日本政府に対し元従軍慰安婦の権利を尊重するよう求める運動を20年続けてきたというベルリン在住の韓国人女性は「子や孫の世代まで日本と韓国が仲良くするためには、元従軍慰安婦の女性たちが生きている間に日本政府は彼女たちに対する正式補償をしなければならない」と私にしきりに訴えた。彼女は抗議デモの写真を撮っていたアジア人男性を日本人ジャーナリストだと思って近づいたが、その男性は中国の新華社通信の記者だった。しかし、彼女はその中国人記者に対しても盛んに自分の気持を伝えていた。この中国人記者が安倍首相のドイツ訪問についてどういう記事を書いたか知りたいものだと思った。

Stop Abenomics

 

Yasukuni Kaitai

人民網のオンラインの日本語版ではすぐに記事が掲載された。

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