エネルギー転換の促進を求める大規模デモ

永井 潤子 / 2013年12月8日
ベルリン中央駅はデモの出発点

ベルリン中央駅はデモの出発点©compact

「エネルギー転換を救え!」というスローガンのもと、11月30日、土曜日の午後、ベルリン中央駅前のワシントン広場で大規模な抗議集会と首相官邸を包囲するデモが行われた。9月22日の連邦議会選挙で勝利をおさめたメルケル首相の率いるキリスト教民主同盟・キリスト教社会同盟は、これまでの野党第1党の社会民主党との大連立政権樹立を目指して交渉を続け、2ヶ月あまり経った11月27日にようやく最終的な合意に漕ぎ着けた。しかし、反原発や環境保護運動グループは、3党首が署名した連立協定にうたわれたエネルギー政策は、エネルギー転換を後退させるものだと強く批判し、抗議集会とデモが計画されたのだ。

 

石炭をやめて気候を守れ!

石炭をやめて気候を守れ!

赤白の被り物で原発反対を訴える

赤白の被り物で原発反対を訴える

「フラッキング、石炭、原子力の代わりに太陽と風力でエネルギー転換を救え!」「石炭はエネルギー転換を破壊する!」「今すぐエネルギー転換を!」  集会開始の午後1時が近づくとワシントン広場は、さまざまなスローガンを掲げたプラカードや横断幕、あるいは色とりどりの風船や旗などを持った大勢の人で埋まった。「100%再生可能エネルギーに!」「フクシマは至る所にある。ただちに脱原発を!」といったプラカードも見かけた。なかには白熊のぬいぐるみを着た人やメルケル首相の仮面をかぶった人もいた。ある自然保護団体グループはお魚が沢山ついた山車のようなものを引っ張り、反原発団体のあるメンバーは、原発の冷却塔を象徴するような被り物の中にすっぽり入って参加した。

この抗議集会とデモを企画したのはドイツ自然保護連盟(NABU、Naturschutzbund Deutschland e.V. )、グリンピースなどの環境保護団体、緑の党、それに各地の反原発市民運動組織や自然エネルギー協同組合など約60の組織で、そのなかには市民運動から100%再生可能エネルギーによる電力を供給する電力会社に発展した「シェーナウ電力会社」も含まれていた。デモ参加者たちは全国70以上の地域から貸し切りバスや鉄道を利用して首都ベルリンにやって来た。ワシントン広場には仮設舞台がしつらえられ、参加団体の情報スタンドが軒並み並んだため、広場からはみ出た人は通りにあふれ、シュプレー河畔にかかる橋も参加者でいっぱいだった。連邦議会と議員会館を背景にした川向こうの岸辺には「ERNEUERBARE-JETZT-DE」(再生可能エネルギーを今すぐに)という大きな横断幕が張られていた。主催者の発表によると、この日の集会とデモに参加した人は約1万6000人にのぼったという。

シュプレー川にかかった横断幕

シュプレー川にかかった横断幕

仮設舞台での主催者の挨拶

仮設舞台での主催者の挨拶

ワシントン広場に設けられた舞台では参加団体の代表によるスピーチが次から次へと行われたが、口火を切ったのは主催者団体の一つ、反原発組織「アウスゲシュトラールト(Ausgestrahlt、放射能にさらされてしまったという意味)」 のスポークスマン、ヨッヘン・シュタイ氏。「短い準備期間と11月の寒くて陰鬱なお天気にもかかわらず、きょうは大勢の人が、次期大連立政権と古い電力会社から『エネルギー転換』を守るために集まった。次期政権の計画しているエネルギー政策に対する我々の怒りは大きい。すべてのアンケート調査は、市民が政府より早期の脱原発を望み、石炭発電を長く続けたくないと思っていることを示している。大連立政権が我々が望まない別の道を歩むならば、きょうの抗議デモは更なる大抗議行動の前哨戦となる」と挨拶した。今回の集会で「石炭発電をやめて気候温暖化を防ごう!」といった石炭発電を批判するプラカードが目立ったのは、保守政権と社会民主党の大連立交渉で、石炭発電を今後も続けることで合意が生まれたためである。しかも、電力価格の高騰を押さえるためとして再生可能エネルギーを制限する措置を取ることも決まった。次期大連立政権のエネルギー政策が批判される理由の一つである。

「石炭・クラフト首相ストップ」を掲げてデモ行進©compact

「石炭・クラフト首相ストップ」を掲げてデモ行進©compact

 

ドイツ全16州の中で人口が最も多く、産業が集中しているためエネルギー需要も最も多いノルトライン・ヴェストファーレン州で、地元の褐炭による発電が続けられることが批判されている。この州の首相は社会民主党の女性、ハネローレ・クラフト(Hannelore Kraft)氏。大連立交渉のエネルギー問題で社会民主党を代表してキリスト教民主同盟のアルトマイヤー環境大臣と交渉に当たったのはこのクラフト州首相だったが、彼女は自分の州の褐炭産業を守ろうとしている人でもある。プラカードの中にKohle-Kraft stoppen! というドイツ語を見つけて、私は思わず笑ってしまった。日本語に訳すとKohlekraft stoppen!と同じように「石炭発電をストップせよ!」になるが、Kohle(石炭)とKraft(発電あるいはエネルギーの意)の間にハイフンが入ったことによって「クラフト(Kraft)州首相もストップせよ」という意味も含まれると受け取れたからだ。

抗議行動企画団体、Campactの代表、クリストフ・バウツ氏も「保守と社会民主党の次期大連立政権は、エネルギー転換に正面攻撃をかけ、再生可能エネルギーの増加を防ごうとしている。太陽光に続いて今度は風力が槍玉に挙がった。最も費用対効果の高い風力は、エネルギー転換の最有力の支えであるにもかかわらず、まさにその風力を制限するという。大連立政権は古い石炭発電を維持し、電力会社に新たな補助金を与えようとしている」と厳しい言葉で批判した。

 

ベルリンの目抜き通りを歩くデモ参加者

ベルリンの目抜き通りを歩くデモ参加者©compact

ひとしきり挨拶が続いた後の午後2時すぎ、集会参加者はデモ行進に移った。デモ隊は中央駅から目と鼻の先の首相官邸に行くのに、わざわざ大回りして、人通りの多い目抜き通りのフリードリッヒ・シュトラーセから観光スポットのブランデンブルク門前や連邦議会前を通って首相官邸に着き、官邸を取り巻いて気勢をあげた。ベルリン在住の日本人たちも、「フクシマを繰り返すな!」「再生可能エネルギー = 希望」などの横断幕を掲げてデモ行進に参加した。連邦議会前のみどりの広場では多くのデモ参加者が、思い思いの言葉を書いた脱原発凧をあげた。デモ隊はもちろん鳴り物入り、太鼓やドラム缶をたたく人、ピーピー笛を鳴らす人、口笛を吹く人、その間には大声のシュプレヒコールが混じり、バンドの演奏もある。自民党の石破幹事長なら、「このデモはテロだ」と言っただろうか。

首相官邸を取り囲む

首相官邸を取り囲む©compact

デモ参加者たちは首相官邸を包囲するデモの後再び中央駅前のワシントン広場に戻って集会を続けた。午後4時過ぎ、締めくくりの挨拶をしたのは、第1次メルケル内閣で環境省の次官を務めた社会民主党の元連邦議会議員、ミヒャエル・ミュラー氏だった。「環境保護団体は1982年以来エネルギー転換のために闘って来た。しかし、今日までどの政権もエネルギーの節約、熱効率の革命、再生可能エネルギーを組み合わせる構想を生み出していない。次期大連立政権は再生可能エネルギー促進政策にブレーキをかけようとしている。化石燃料の人類に対する闘いは今なお続いている」。全国からベルリンにやって来たデモ参加者たちは、エネルギー転換促進のための幅広い市民運動と議会外の政治活動の重要性を確認して散会した。

シュプレー川に沿って中央駅に戻るデモ参加者

シュプレー川沿いを行進するデモ参加者©compact

なお、大連立政権の連立協定は185ページにものぼる分厚い文書にまとめられたが、エネルギー問題はそのうち13ページにわたって記されている。保守のキリスト教民主同盟のメルケル党首、バイエルン州を基盤とするキリスト教社会同盟のゼーホーファー党首、社会民主党のガブリエル党首は11月26日から27日にかけて最後まで残った対立点について17時間も話し合いを続け、妥協点を探さなければならなかった。この最後の詰めの協議で財政問題と並んでエネルギー問題も、電力の安定供給や電力価格の値上がりを防ぐなどの観点から、かなり変更されたと伝えられるが、社会民主党が強力に望んでいた気候温暖化を防ぐ法律制定もこの段階で犠牲になった。しかし、次期大連立政権も脱原発の基本方針に変わりはない。

なお、3党の党首が連立協定に署名したからと言って、ただちに新しい大連立政権がスタートするわけではない。社会民主党がこの大連立協定を受け入れるかどうかを各支部の一般党員(党員数は474.820人)の投票にかけることにしているためで、その最終結果は12月14日に集計される。投票が有効と認められるためには全党員の最低20%が投票する必要があると決められている。賛成票が多いことが分った段階で閣僚人事が発表され、17日に首相選出選挙が行われる。そこで初めて第3次メルケル政権の誕生ということになるのだが、社会民主党員のなかにはエネルギー問題などを中心に批判も強いため、投票の結果が注目される。3党の党首が合意した大連立政権が社会民主党の一般党員の反対で否決される可能性がなきにしもあらずなのである。

デモの写真のサイトをご覧ください。

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