ドイツ社会民主党の臨時党大会、大連立交渉入りを承認

じゅん / 2018年1月28日

ドイツでは昨年9月の連邦議会選挙から4ヶ月あまり経つ今も、新政権の樹立が難航している。そんななか、1月21日の日曜日にボンで開かれた社会民主党(SPD)の臨時党大会は、今後の連立政権樹立に決定的な影響を与える党大会として注目された。マルティン・シュルツ党首を中心とするSPD執行部は新年早々から、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)とその姉妹政党であるキリスト教社会同盟(CSU)との間で、いわゆる大連立に向けての予備交渉を行なってきたが、12日、28ページにのぼる暫定合意書をまとめた。SPDは、この暫定合意に基づき本格的な交渉に入るかどうかを、約600人の代議員が参加するこの臨時党大会で決定する事にしていたため、その結果が注目されたのだ。代議員の間では、CDU・CSUとの大連立に反対の声が強く、予断を許さない状況だった。

特に同党青年部長のケヴィン・キューネルト氏(28歳)を中心とする若者たちは、「メルケル首相のもとでこれまでのような大連立を続けることは、党の存続を危うくする」として、強力な反対運動を展開していた。さらに最大の党員数を抱える西部のノルトライン・ヴェストファーレン州支部とヘッセン州支部がシュルツ党首ら執行部のまとめた暫定合意は、SPDの政策を十分に反映していないとして修正要求を出し、首都ベルリンの支部も大連立に反対の意思表示をするなど、執行部に不利な状況が生まれていた。

こうした雰囲気を跳ね返すことができるのは、シュルツ党首が代議員たちを説得できるような演説をするかどうかにかかっているとも見られていた。というのも、シュルツ党首は9月24日の連邦議会選挙でSPDの得票率がドイツ連邦共和国誕生以来最低の20.5%だったことが判明した直後、この結果を大連立に対する批判票だと受け止め、早々と野に下ることを宣言した。新たな大連立政権には加わらず、野党として党の改革に専念する意向を明らかにしたのである。新興右翼ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が野党第1党の地位を占めるのを防ぐという理由もあった。その後CDU・CSUと自由民主党(FDP)、緑の党の連立交渉が失敗した後も「SPDはメルケル政権に参加する意図はない 」と断言していた。しかし、その後、「国民の大多数の委託を受けた大政党は、安定政権を樹立する義務がある」というシュタインマイヤー大統領の説得を受けて、180度方向転換した経緯があり、一般党員の間にはそうしたシュルツ党首に対する不信感も消えてはいなかった。

シュルツ党首はこの臨時党大会で1時間近くにわたって演説したなかで、状況の変化による方向転換について説明し、予備交渉でまとまった暫定合意にSPDの主張が十分盛り込まれていることを強調した。また、「CDU・CSUとの正式交渉に入るのが拒否されれば、再選挙となるが、それは誰も望まないことだ」と述べて、正式交渉の開始に賛成するよう訴えた。各種世論調査では、選挙をやり直した場合、SPDの得票率はさらに2−3%下がり、AfD が2%ほど票を伸ばすと予想されている。この日シュルツ党首はひどい風邪を引いていたこともあって、その演説に新鮮味はなく、全国から集まった代議員を説得する迫力もなければ、感動させる魅力もなかった。

シュルツ党首に代わって多くの代議員の心を掴んだのは、同党連邦議会議員団団長のアンドレア・ナーレス氏だった。彼女自身もかつては青年部長として過激な主張をしてきた人だが、第3次メルケル政権では連邦労働・社会相として最低賃金法を導入するなど、SPDの主張を実現させるうえで実績も上げてきた。彼女は若者たちに響く強烈な言葉で7分間の短い、しかし情熱的な演説をした。「これ以上大連立を続けるとSPDはさらに支持率を減らす」という現青年部長キューネルト氏らの主張に真っ向から反論し、「第二次メルケル政権でSPDが野党になった後もSPDの得票率は減る傾向にあった」と述べて「問題はSPD自身にあるのであって、連立政権に加わるかどうかの問題ではない」とも強調した。彼女は「党の要求が100%通らなかったからといって、安定政権樹立に貢献することを拒否した場合には、世間から頭がおかしいのではないかと思われるだろう」と反対派を痛烈に批判したうえで「我々執行部は相手が悲鳴を上げるまで、交渉に全力を尽くす」と約束し、拍手喝采を浴びた。執行部の提案を救ったのは、このナーレス氏の熱弁だったと見る人が多い。

キューネルト青年部長は大会の朝、「反対派が多数を占めることを確信している」と自信たっぷりに語っていたが、5時間にわたる激しい論議の後に行われた採決では、正式交渉入りに賛成が362人、反対が279人、棄権一人で、大連立を目指して正式交渉を開始することが決定された。しかし、その比率は賛成派56%、反対派44%という執行部にとってはヒヤヒヤするほどの僅差だった。SPDの臨時党大会は、暫定合意書でまとまらなかった3つの点、労働者の雇用期間を正当な理由なく制限する問題、医療保険の改革問題、難民の家族呼び寄せ問題で交渉し直すことなどを決めて閉会した。

SPDの臨時党大会について「SPDの思慮深い人たちが最後に勝利を納めた」と論評したのはケルンに本拠を置く公共ラジオ局「ドイチュラントフンク」のディルク=オリヴァー・ヘックマン記者だ。「今は小人であることに甘んじよう。将来巨人になることができるために」と呼びかけたキューネルト青年部長の言葉を引用した同記者は、「彼の言葉は危険である。なぜなら4年間、野党に甘んじた後本当に巨人になることができるかどうかは、誰にもわからない。むしろその逆になる可能性がある」と指摘している。

「シュルツ党首をひとまず救ったのは、3人の女性だった」と見ているのは、「シュピーゲル」オンライン版のクリスチャン・テーヴス記者である。

執行部に批判的な雰囲気が支配した臨時党大会の突破口を開いたのは、アンドレア・ナーレス連邦議会議員団団長の熱弁だったが、そのほかに二人の女性州首相が貢献した。ラインラント・プファルツ州のマルー・ドライヤー首相とメクレンブルク・フォアポンメルン州のマヌエラ・シュヴェーズィッヒ首相である。二人は昨年12月までは大連立に懐疑的だったが、その後予備交渉チームに加わり、暫定合意書にSPDの政策が反映するよう努力した。彼女たちもその成果を挙げて、大連立交渉開始に賛成するよう訴えた。

そのほか「勝利を収めたものの、マルティン・シュルツ党首の立場は弱まった」という見出しの南ドイツ新聞の解説や「問題はシュルツ党首」という見出しの「フランクフルター・アルゲマイネ」の解説など、シュルツ党首に厳しい解説も目立った。

SPDの臨時党大会で連立政権樹立の正式交渉入りがなんとか決定されたとはいえ、CDU・CSU側は、SPDの再交渉の要求に反発しており、正式交渉によってどれだけSPD側の要求が 満たされるかは未知数で、交渉は困難なものになることが予想される。その上、SPD には正式交渉の結果について約44万人の党員の郵便投票で決めるという最後のハードルが残っている。その党員投票で反対票を増やすため、青年部は新党員を獲得するキャンペーンを開始した。「10ユーロでSPD党員になって、大連立に反対票を投じよう!」という青年部のノルトライン・ヴェストファーレン州支部発案のスローガンが、瞬く間に広まり、すでに臨時党大会以後の2日間で、メールでの入党希望者だけで2000人近くにのぼったという。SPDの党員が払う党費は、収入によって決められており、収入の少ない若者が負担する党費は月5ユーロとされている。その2ヶ月分の党費10ユーロで投票に参加できるというキャンペーンだ。原則として党員なら新党員でも誰でも投票に参加できることになっているが、執行部の提案を潰すためだけに2ヶ月間党員になってその後また脱退するというやり方には、批判が集まっている。そういう新党員の増加によって、執行部の交渉結果が最終的に否定される可能性も無いとは限らないため、党員歴の浅い党員の投票できる権利を制限するべきだという声もあがっている。

重要な問題について党執行部が決定したことを最終的に全党員の投票にかけるというやり方は、党内民主主義にとっては一見良いシステムのように見えるが、「議会制民主主義」の原則とは矛盾する。特に今回のように国の将来に関する決定的に重大な問題について、最終的に一政党の一般党員の判断に任せるというのは大きなリスクを伴う。そういう観点から見ると、私個人はこういうやり方を評価できないのだが、党内で議論はないのだろうか。それはともかく、今回の臨時党大会のように、執行部の方針について賛成派と反対派が真っ向から向き合って議論するのは、民主主義にとっては重要で、これは特にSPDの良き伝統ではないかと思う。「SPDの分裂」を強調する内外のメディアも多いが、長年ドイツの政治を観察してきた私は、ヘーゲルではないけれど、「SPDは対立を『止揚して』前へ進んで欲しい」という気持ちになる。私が1972年にドイツの放送局で働くため、ケルンに来た時の首相は、のちにノーベル平和賞を受賞したSPDのヴィリー・ブラントだった。冷戦時代に保守派の厳しい反対を押し切って東西の緊張緩和に尽力したブラント首相を通じて、私はドイツで最も古い政党で、ナチに抵抗し続けた輝かしい伝統を持つSPDに対し尊敬の念を抱くようになった。その100年以上の歴史を持つ政党が、他のヨーロッパの社会主義政党のように小政党に転落することがないよう、願っている。

なお、CDU・CSUとSPDは1月26日、ようやく正式交渉を開始することができたが、まず3人の党首だけで話し合った後、拡大グループで交渉を続け、早ければ2月4日までに、遅くとも2月8日までに最終合意書をまとめる意向だと伝えられる。3党首は早期の合意が必要だという点では意見が一致している。

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