ドイツの新政権樹立は、早くても来年の4月?

永井 潤子 / 2017年12月24日

9月24日に行われたドイツ連邦議会の選挙結果を受けて、メルケル首相が党首を務めるキリスト教民主同盟(CDU)とバイエルン州を基盤とする姉妹政党のキリスト教社会同盟(CSU)、それに自由民主党(FDP)と緑の党の4党の連立予備交渉が10月18日に始まった。しかし、4週間にわたる困難な協議のあと、11月19日、FDPが「納得できない政権には加われない」として連立交渉からの離脱を表明したため、交渉は決裂し、事態は振り出しに戻った。その後、CDU・CSUと社会民主党(SPD)との連立政権樹立の道が模索されているが、その道はかなり険しく、今のところ、合意に至るかどうかも不明である。これまでの経過を振り返り、今後の見通しを伝える。

9月の総選挙の結果、過半数を制した政党はなく、すべての既成政党が、初めて連邦議会進出を果たした右翼ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)との連立を拒否したため、連立の可能性は、これまでのCDU・CSUとSPDのいわゆる大連立か、CDU・CSUとFDP、緑の党の4党の連立の二通りしかないと考えられた。しかし、歴史的な敗北を喫したSPDが、これを大連立への批判と受け止め、早々と野に下ることを宣言したため、大連立の可能性はいったん消えたように思われた。SPD内部では当時、今後も大連立を続けるとSPDの独自性が失われ、党への支持率がますます減る恐れがあるため、今後4年間は野党の立場で党の立て直しを図るべきだという意見が強かったのだ。こうした事情から、もう一つの可能性、4党連立のための難しい交渉が長々と続けられたのである。しかし、この連立予備交渉が決裂した以上、この時点で残された可能性は、少数メルケル政権の樹立か、解散・総選挙の二つしかないと思われた。

そこに介入したのが、シュタインマイヤー大統領である。連邦議会の解散・総選挙を最終的に決める権限は大統領にあることが、ドイツの憲法に当たる連邦基本法 第63条で決められている。それに従って大統領は「各政党は安定した連邦政権を樹立させる責任があることを思い起こし、早期政権樹立のために改めて努力するよう」求めた。SPD出身のシュタインマイヤー大統領の呼びかけは、特にSPDに向けられたものと一般には受け取られたが、大統領はすべての党の代表を大統領府のベルビュー宮に招き、膝を交えて話し合った。

当初大統領の仲介にも頑なな態度を崩さなかったシュルツSPD党首も、党内外からの圧力もあり、11月30日、大統領府でメルケル首相、ゼーホーファーCSU 党首と4者会談した後では、大統領の意向を汲む姿勢に軟化した。12月4日、SPDの首脳部は、CDU・CSUと「安定政権樹立に協力するための話し合い」を開始することを了承した。 しかし、SPD青年部など一般党員の間には大連立のパートナーとして与党入りすることに今なお反対の意見が強い。12月7日から9日までベルリンで開かれたSPDの定例党大会は、CDU・CSUとの話し合いを開始するという党首脳部の方向転換を了承したが、「大連立政権樹立を前提とした話し合いではないこと」が強調された。この党大会はシュルツ氏を党首に再選し、彼に交渉を委ねたが、その予備交渉の結果は1月14日にベルリンで開く特別党大会で、了承するかしないか決定すると決められた。この特別党大会で予備交渉の結果が了承されて初めて、本格交渉に入るという長期にわたる交渉プランである。

ところが、ここへ来てさらにこのプロセスが、長引くことが明らかになった。SPDは「1月14日に予定されていた特別党大会を、1月21日に延期し、場所もベルリンではなく、ボンに移して開催する」と発表した。党内で十分議論を尽くすために。時間が必要だというのが延期の理由だった。

一方、CDU・CSUとSPDの3党党首と連邦議会議員団代表は、12月20日、ベルリンで初めての会合を開いた。CDUからはメルケル首相とカウダー議員団団長、CSUからはゼーホーファー党首とドブリント議員団団長、SPDからはシュルツ党首のほかナーレス議員団団長が参加し、予備交渉の日程や協議するテーマについて6時間以上にわたって話し合った。そのあと発表された共同声明によると、「信頼の置ける雰囲気の中で良好な話し合いが行われた」ということで、予備交渉は来年1月7日に開始されること、予備交渉で協議されるテーマとして、財政・税制、ヨーロッパ、エネルギー・気候温暖化防止・環境保護、難民とその統合問題など15項目が決定された。

1月7日に開始される予備交渉の結果は、5日後の1月12日にはまとめられ、各党の交渉者たちは、その結果をそれぞれ党に持ち帰って議論するというスケジュールである。CDU・CSUは早期に大連立政権を樹立したい意向だが、SPD 内部には、「これまでのような大連立政権に参加すると、SPDの独自性が失われる」という理由で大連立に反対する一般党員の声が強い。また、党内左派の間では「協力的連立」とか「限定的連立」とか呼ばれる新しい形の連立を試みるべきだという提案も生まれている。これはCDU・CSUとの間に政策の一致が見られた分野ではSPDも閣僚を送って連立に参加するが、意見が一致しない分野ではその政策を実現するために連邦議会の野党、緑の党や左翼党と協力するというもので、半分与党、半分野党という色彩が強い。もちろん、CDU・CSU 側もSPDと意見が一致しない政策で、例えば緑の党との協力を探る自由があることになる。しかし、CDU・CSU側は「SPD側の虫のいい提案」として拒否している。そのほか、少数メルケル政権に協力することに賛成する意見も少なくない。

SPD 側では1月21日に延期されることになった代議員による特別党大会のほか、交渉結果について最終的に一般党員全員の投票にかけるという厳しいハードルが待ち構えている。そうしたことを考えると、どのような形におさまるにしろ、新政権の樹立は、復活祭ごろになるという見方が強まっている。来年の復活祭は4月1日である。SPDの一般党員による投票で、交渉結果が否定される可能性も全くないわけではなく、その場合には多くの人が避けたいと思っている解散・総選挙ということになる。今回のような事態は、ドイツ連邦共和国成立以来初めてのことで、目下のところは、どういう結果になるか、誰にも予測がつかないというのが、実情である。

12月21日、ベルリンで発行されている日刊新聞「ターゲスシュピーゲル」に「SPDは二重の選挙権を行使しようとしている」というタイトルのティル・クニッパー記者の記事が掲載された。同記者は、一般党員の投票は党内民主主義を意味するかもしれないが、安定した政権が樹立されるか、されないかという国家にとって極めて重要な決定について、SPDが最終決定を、予測のつかない一般党員の投票にゆだねることは、連邦基本法で保証された代表制議会制民主主義の原則に違反すると批判している。連邦議会議員はドイツ国民の代表として選ばれ、国家権力を委託されたわけで、最終的な決定権はSPDの44万人の一般党員ではなく、連邦議会議員にあると述べて、異議申し立てをしているのだ。

 

 

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