コンピュータの助けで政党を選ぶ?

じゅん / 2017年9月24日

きょう9月24日、ドイツでは連邦議会の選挙が行われている。今回の選挙では保守のキリスト教民主・社会同盟のメルケル首相が勝利を収めることはほぼ確実視されているが、苦戦を強いられている対抗馬の社会民主党の首相候補、シュルツ氏がどこまで票を伸ばせるか、また、外国人排斥や難民反対を唱える右翼ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢」が野党第一党になるかどうかが、最大の焦点になっている。今回の選挙では、42の政党が候補者を立てており、各種の世論調査によると、次期連邦議会では6政党が議席を占めると予想されている。6150万人の有権者の中には、最後までどの政党に投票するか、わからない人も少なくなく、そういう人たちが頼りにした一つの方法が、コンピュータによる投票決定サポート・システム「選挙・オー・マット(Wahl-O-Mat)」だった。

まず初めに、これまでの選挙戦の動きの中で行われた世論調査の最終予測結果について概略をお伝えしておく。ドイツの公共放送の一つ、ドイツ第2テレビ(ZDF)が9月22日の金曜日に発表した「ポリット・バロメーター」によると、メルケル首相のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の得票率は36,0%、社会民主党(SPD)は21,5%、左翼党(Linke)は8,5%, 緑の党(Grüne) は8%となっている。また、前回の選挙では5%条項に阻まれて連邦議会に議員を送れなかった自由民主党(FDP)が今回は10,0%、今回初めて連邦議会に進出すると見られる新興右翼政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が11,0% となって、第3党の地位を占めている。1週間前の9月15日に行われた「ポリット・バロメーター」の調査結果に比べると、SPDが1,5% 、左翼党が0,5%支持率を減らしているのに対し、AfDは1%増やして11%となった。あとの3政党の支持率は変わらなかった。

9月に行われた他の世論調査では、AfDの支持率が13%に達すると予測するものもあった。AfDの支持者は世間態を慮ってアンケート調査では支持を明らかにしない傾向があると言われるため、実際に選挙の蓋を開けてみると、AfDの得票率が予想外の高さを示すこともありえる。他の既成政党はみなAfDとは連立を組まないことを宣言している。最近では同党の指導層の中から難民反対や外国人排斥の言葉だけではなく、第二次世界大戦中のナチスドイツの行動を肯定する発言も聞こえてくるようになった。こうしたネオナチ的な政党が、歴史上初めて連邦議会進出を果たすのを食い止めたいという意識は、他の各政党支持者の間に強力に存在する。9月22日の段階で30%あまりの有権者が、どの党に投票するべきか、あるいは棄権するべきか決めかねているという数字もある。棄権が増えれば、AfD の得票率が相対的に上がるため、各政党は自党への有権者の支持を訴えるとともに棄権の防止も呼びかけている。

実際の得票率によっては、次期連邦政府の連立の組み合わせとして、これまでのCDU・CSUとSPDのいわゆる大連立のほかに、CDU・CSUと FDP、それに緑の党の3党連立の可能性があると見られている。大連立になった場合には、AfDが野党第一党として大きな発言力を得る可能性が生まれてくる。真面目な有権者は各政党の政策の違いを正確に把握したうえで投票したいと思うが、そこに役立つのが、この「選挙・オー・マット」システムである。

これは、旧西ドイツに戦後すぐに設立された国民の政治意識を高めるための組織、「連邦政治教育センター」が、15年前に開発した、支持政党を見つけるためのオンラインシステムである。このサイトを開くと、38のテーマについて、その政策に賛成か、反対か、あるいは中立かなど自分の答えをクリックする画面に入ることができる。全てのテーマに答えたあと、その結果を各政党の政策と比べて最終的に自分の考えに最も近い政党の名前を知ることができるというシステムだ。

38のテーマの最初には、現時点で問題になっているテーマが並んでいる。最初の設問は、「国内のテロ対策にドイツ連邦軍を動員することを許すべきか」というものだ。現行法では、ドイツ連邦軍は国内の災害救助活動などには出動できるが、テロ対策などは警察の管轄になっている。ついで、エネルギー転換の問題や環境問題が続く。「再生可能エネルギーの増加のために連邦政府は継続的に財政支援を行なうべきか?」とか、今問題になっているディーゼル車の環境汚染について、「ディーゼル車の自動車税を高くするべきか?」といったものである。また、「企業は、これからも契約労働者を雇うことを許されるべきか?」といった働き方の問題や「給付型の奨学金を両親の収入に関係なく、平等に学生たちに支給すべきか?」などといった若者にとって身近なテーマもある。ドイツの奨学金はほとんどが給付型だが、現在は、学生に奨学金を授与するにあたって、両親の収入が少ないことなどが条件となっている。さらには、アメリカのトランプ大統領がヨーロッパなど北大西洋条約機構(NATO)の加盟国や日本などの同盟国に対して軍事予算を大幅に引き上げるよう要求したことを受けて「ドイツは国防予算を引き上げるべきか」といったテーマまで、幅広い分野の問題に38回答えると、各政党の中でどの党が自分の考えにもっとも近いかがわかるという仕組みである。

このシステムは以前から利用されているが、今回ほど、アクセス数が多かったことはないという。1週間だけで760万人がこの「選挙・オー・マット」にアクセスしたこともあり、トータルではアクセス数は1330万人という記録的な数字に達したという。連邦政治教育センターのクリューガー会長は「このシステムにアクセスするのは、民主的な国民のスポーツとなった」とまで自画自賛している。「選挙・オー・マット」の関連サイトには、ドイツの選挙の過去から現在まで、必要な情報が網羅されており、連邦政治教育センターは、学校の授業でこうした情報や「選挙・オー・マット」を活用するよう勧めている。

今ではこの前例にならって「農業オー・マット」とか、「税金オー・マット」とか「音楽オー・マット」などというものも生まれている。前の二つは、選挙での各政党の農業や税制に関する政策に特化したものだが、「音楽オー・マット」というのは何なのだろうか。このシステムの考案者は各政党に対し、同党のシンボル的な音楽や党大会、選挙集会で使われる音楽、あるいは党首の好きな音楽の名前を17曲挙げるように要求し、そのリストを作った。それを基に有権者は自分の音楽の好みに近い音楽を使う政党を選ぶというシステムのようだ。「音楽によって投票する政党を選ぶ」などというのは選挙に対する冒涜のような気がしないでもない。単にコンピュータの遊びに過ぎないようにも思われるが、コンピュータに慣れ親しんだ若者たちをゲーム感覚で引き込んで、選挙に関心を持たせる効果を狙ったのかもしれない。

投票所がきょう18時に閉鎖されると、全国の88.000の投票所では直ちに開票がはじまり、公共放送ドイツ第一テレビ(ARD)やドイツ第2テレビ(ZDF)などは、それぞれが行った出口調査の結果を発表する。そのあとは世論調査機関の協力を得て、それぞれ独自の投票結果の予想を発表し続ける。それによってかなり早い段階で、選挙結果の大勢がある程度わかるが、暫定的な公式結果が発表されるのは翌日早朝になると予想されている。最近は不在投票する人が増えているため、最終的な公式結果が出るのは、もっとずっと遅くなる可能性もある。何れにしても多くのドイツ人にとって今夜は、ハラハラ、ドキドキするスリリングな夜になるはずである。

関連リンク
「選挙・オー・マット」、https://www.wahl-o-mat.de/bundestagswahl2017/

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