原発の過酷事故の被害、1基で1000億〜4300億ユーロ

ツェルディック 野尻紘子 / 2017年7月23日

ドイツの近隣諸国の原発には、過酷事故に対して十分な保険が掛かっていない。ドイツのシンクタンクである環境社会市場経済フォーラム(FÖS、Forum Ökologische-Soziale Marktwirtschaft)が 再生可能電力の販売会社、グリーンピース・エナジーの委託で調査分析した結果だ。

FÖSは、もしドイツの隣接国の一つの原発で過酷事故が起きた場合、その経済的な被害は、周囲の国々の被害も含めて1000億〜4300億ユーロ(約12兆9000億〜55兆4700億円)に昇るだろうと見ている。しかし 、 国際間で取り決められている事故の際の賠償責任及び事故に対する補償額には3億8100万 ユーロ(約491億4900万円)の上限が設けられている。つまり保険、補償準備額は実際の被害の約250分の1から1000分の1にしか達していないのだ。

国によっては3億8100万 ユーロ以上の賠償責任・補償準備額を義務付けているところもあるが、それでもやはり上限があり「取り決めは原発の操業者だけを守るためのもので、他者を守るのもではない」とグリーンピース・エナジーのクリストフ・ラッシュさんは言う。

上限がないのはスイスとドイツだけで、しかもドイツの場合、事故の際のためには25億ユーロ(約3225億円)が補償準備額として準備されているという。そのためドイツ原子力フォーラムは、ドイツでの準備額を増やす必要はないと主張しているそうだ。

ドイツの国境に近い近隣諸国には操業開始以来30年、50年という原発が30基もある。FÖSによると、例えばドイツの国境から440 km離れたところにあるハンガリーの原発パクスで事故があった場合、被害は準備されている補償額の180倍にも昇るので、被害を受けた者が補償金を手にする可能性はほとんどないだろうという。しかも操業者に被害を訴える場合、裁判はハンガリーでしかできないので、勝つ可能性は非常に少ない。

「国際間の取り決めには改正が必要だ。事故を起こした操業者に対してはドイツ国内で訴訟を起こすことが可能になるべきだ。また、賠償責任の上限が取り除かれ、補償準備額が追加されるべきだ。」と話すのは FÖSのレーナ・ロイスターさん。「必要に応じては、取り決めから脱退することも考えるべきだ」と彼女は提案する。ドイツのバーバラ・ヘンドリックス連邦環境相も、この取り決めの改善の必要性を認めるが、原発事故の被害を見積もるのは難しいとし、「原発事故の被害は大きいからこそ、ドイツはきちんと脱原発を決めたのだ」と発言している。

欧州連合(EU)は福島第一原発の事故後の2012年に、 圏内の原発に対しストレステストを実施させ、ほとんど全ての原発に安全基準の引き上げを要求した。その結果、欧州の原発の安全性は一般的には高くなっているという。しかしドイツ原子力フォーラムによると、フランスや東欧の原発のスタンダードは、ドイツの原発よりかなり低いという。

ちなみに、日本政府は、東電の福島第一原発の被害を22兆円と見積もっていると伝えられる。

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