忘れられた水車発電の復興

やま / 2017年4月2日

ハンマーシュミーデ

日本に一時帰国し熱海を訪れた際、地元の糸川の水を利用して、2年ほど前から発電実証実験を行っている井出由紀雄先生*に出会いました。その井出先生から小型で低価格の水力発電装置について説明を受けることが出来ました。自然のまま残された小川を利用するローテク発電が気に入ったので、ベルリンに戻り、ドイツでの現状を調べてみました。

ネットで検索できたのは、『小水力発電-水車は復興するか?*』という公共放送第二ドイツテレビ(ZDF)の番組です。2014年に制作されたもので、興味深いドキュメンタリーでした。

このドキュメンタリーは、ミュンヘンとボーデン湖の間にある小さな町、シュバーブソイエン*の紹介から始まります。バイエルン州にあるこの町では、およそ600年ほど前から水車の動力で、大きなハンマーを動かして、鉄を鍛える「ハンマーシュミーデ*」が動いていました。80年ほど前までは、バイエルン州だけで、「ハンマーシュミーデ」と呼ばれる水車小屋が1万4000基ほど動いていたそうです。シュバーブソイエンの博物館では今でも「ハンマーシュミーデ」の動力を見せてもらうことが出来ます。70年ほど前から、「ハンマーシュミーデ」は鍛冶ではなく小水力発電として活用されるようになり、いまでもドイツ全国で7000基、そのような水車が動いているそうです。その数基を活用しているのは「ルーフ自動車」の社長です。

山から流れ出る水の豊富な南ドイツに住むアロイス・ルーフ社長は、より良い環境を残したいと考え、愛車ポルシェのエンジンを電気モーターに取り代えました。そして電力も100%自家製です。速い車だけではなく、水力発電にもルーフさんの情熱は燃えているようです。彼は小水力発電所(一般ドイツで見られるガレージぐらいの大きさ)を数ヶ所に持ち、再生可能エネルギーを自動車に入れています。自家製の水力電力で、年間走行距離4万キロの電気自動車を毎年3500台走らせることができると得意気に話していました。

ドイツで電気が普及したのは、約130年ほど前です。需要量が急激に増え、大掛かりな水力発電所の建設が必要となりました。1924年に完成した、その当時最大のヴェルヘン湖水力発電*は既存の水車発電の何10万倍の発電量を持っていました。20世紀の初め、電気の普及がますます進み、効率の悪い水車発電は消えていきました。

水力発電は再生可能エネルギーとして重要とはいえ、電力生産において、その量は全体の4%にも達さないのが今のドイツでの現状です。ちなみに隣のスイスやオーストリアでは水力発電は全体の50%以上を占めているそうです。とは言え、自然環境を破壊する恐れがあるという反対の意見が多いので、大規模な水力発電所の新設や、既存の発電所の拡大などの計画はないようです。そこで見直されてきたのは小水力発電装置です。

水車発電の衰退を止め、さらに復興させたいと考えた一人が、ミュンヘン工科大学のペーター・ルッチュマン教授*です。教授の指導する水力工学および水管理研究室では、今までよりもコストが低く、着実に発電し、環境にやさしい小水力発電装置の研究を重ねています。このドキュメンタリーで紹介されたのは、流れ込み式の発電装置です。川の流れを2つに分断し、片方では川の水が落ちる力をそのまま利用してタービンを回して発電します。もう片方は階段式魚道*で、下流に流された魚が遡行できるようになっています。昔の水車の発電量が500Whだったのに対し、ルッチュマン教授のチームが開発したこの水車装置(まだ実証実験中)では、約2000倍の発電が可能です。発電機およびタービンが川の底に設置されているので、水が落ちる部分は目立たず、小川のほとりの景観はそのままです。

ドキュメンタリーの中で「水車発電を復興することができるか」と聞かれたのは、ドイツ博物館*内エネルギー工学部門研究責任者であるフランク・ディットゥマンさんです。「水車が消えてしまった原因は電気の普及だけではありません。電気が活用される前に蒸気機関が発明され、作業場から水車は姿を消していきました。水車の最も不利な点は、水のある場所だけに製造が限られていたことです。蒸気機関の場合、機械を動かすエネルギー源である石炭を運べば、どこでも製作所を設けることができました。新しかったのは、水車と違い、エネルギー移動が簡単だったことです」とディットゥマンさんは語ります。しかし、結局生き延びたのは蒸気機関ではなく小水力発電でした。

ディットゥマンさんは、小水力発電が復興すると期待しています。なぜならば、今後は多種多様な再生可能エネルギー源を活用していかなければいけないからです。古くからあった水車小屋の活用もそのひとつです。そして情報革命が叫ばれる今、何千基もの小水力発電装置がインターネットで一元管理され、バーチャルな発電所を作ることが可能です。効率が悪いと水車が止まってしまった当時、このようなネットワーキングが可能だとは、だれも想像できなかっただろうとディットゥマンさんは語ります。

このドキュメンタリーを見て私は、既存の水車小屋に最新の設備が取り入れられていることを知りました。今までの流れやそこに住む生き物たちなど、環境に配慮した小水力発電が研究されています。100%自然エネルギー社会のエネルギー源の一つして、小水力発電は復興していくでしょう。「太陽光エネルギー及び風力の活用は水力発電なしでは難しい」とルッチュマン教授は考えています。なぜならば、水力発電こそ、いつでも消費したいときに電気を得ることできるからです。自然エネルギーの中では水力発電はもっとも安定した発電方法だと教授は主張しています。

北斎の浮世絵「富嶽三十六景」の中には、穏田川*のほとりにかけられて米をひく水車が描かれています。この風流な水車小屋にハイテクな発電所が設置されるのは夢ではないかもしれません。

 

写真参照:
Armin Kübelbeck, https://de.wikipedia.org/wiki/Hammerschmiede

関連リンク:

井出由紀雄>インターフェイスラボ、http://interface-labo.com/index.html

『小水力発電-水車は復興するか?』>https://www.youtube.com/watch?v=MYOtZZwVZgo

シュバーブソイエン>http://www.schwabsoien.de/Hammerschmiede.1759.0.html

ハンマーシュミーデ>https://de.wikipedia.org/wiki/Hammerschmiede

ヴェルヘン湖水力発電>https://de.wikipedia.org/wiki/Walchenseekraftwerk

ペーター・ルッチュマン教授>https://www.wb.bgu.tum.de/en/staff/chair-munich/rutschmann-peter/

階段式魚道>https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AD%9A%E9%81%93

ドイツ博物館>ミュンヘンにある技術・科学の国立博物館、http://www.deutsches-museum.de/

穏田川>https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A9%8F%E7%94%B0%E5%B7%9D

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *