世界のエネルギー転換の完成に一役買うソニーの蓄電池

やま / 2016年10月23日
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©sonnen GmbH

最近、ガソリン及びディーゼル自動車の禁止についてドイツ連邦環境相と連邦運輸相が対立しているという記事を読みました。環境相は2030年以降これらの燃料タイプの新車登録を禁止する方針を示す一方、運輸相は、自動車産業で多くの失業者を生むことを恐れ、そのような禁止は“ナンセンス”だと述べました。しかし、交通やエネルギー分野では、脱炭素社会に向かっていて、自宅の屋根のソーラーパネルで発電し電気自動車を運転するのはもう夢ではありません。

今回、有料オンライン・メディア「パスペクティヴ・デイリー(Perspective Daily)」で紹介されたのは「ゾンネン社(sonnen GmbH)」です。この会社はソニー社の蓄電池を取り付け、家庭用のスマートな自家発電システムを設置する企業です。ゾンネン(sonnen)はドイツ語の動詞で「太陽を浴びる」という意味です。本社はバイエルン州の小さな町にあり、5年ほど前にガレージで創業し、既に1万3000台以上の太陽光蓄電システムを設置したそうです。今ではイタリアを始め、オーストリア、イギリス、アメリカ、オーストラリアの6カ国に進出しています。核や石油に頼らないエネルギー供給を望み、太陽パネルで得た電力を自宅で消費する家庭が増えています。そしてこのごろ、小型で寿命の長い家庭用の蓄電池が手ごろに購入できるようになりました。ゾンネン社の目標は、多数の蓄電池に溜まった電力を集め、コンピューターで制御し、バーチャルな発電所を作ることです。

今回、記者のインタビューに答えたのは創立者の一員で、経営者の一人でもあるフィリップ・シュレーダーさんです。大手電気自動車メーカー、テスラでの仕事をやめて、再びゾンネン社に戻ったシュレーダーさんは、なぜ大金をソーラーパネルや蓄電池に投資するべきかについて以下のように説明していました。

クライアントの1年間の電気使用量は平均5000kWh。1kWhが約30ユーロセント(35円)とすると電力だけに毎年1500ユーロ(約17万円)、20年では3万ユーロ(約350万円)の金額を支払うことになります。このお金は戻ってきません。家庭用の蓄電池は3600ユーロ(約41万円)ですが、ソーラーパネルとその設置など、費用が1万ユーロ(約115万円)に及ぶこともあります。1万ユーロの投資を20年間に分けると、一年のコストは500(約5万8000円)ユーロになります。ソーラーパネルの向きにもよりますが、政府の蓄電促進金を利用できれば、8年~10年後に資金の全額を償却できます。一般に、蓄電池があれば消費電力の80パーセントは自家発電で補え、残りの20%は購入することになります。ゾンネン社のコミュニティに入れば、この足りない20%をコミュニティのネットから配電してもらうことができ、100パーセント自然エネルギー供給が可能になります。そして自給自足の「ゾンネン・コミュニティ」が広がれば、住民の反対が大きい高圧送電網の数を減らすことも可能です。

スマホのバッテリーの充電を何度も繰り返すと、より早くバッテリーが劣化することはよくあることです。ゾンネン社の場合も各蓄電池からコミュニティへ充電を繰り返します。充電する量は、多くても蓄電池の容量の3%ですが、日に何度も充電することがあります。同社が求めたのは、特にサイクル寿命が長いハイクオリティの製品でした。蓄電池の安全性も重要です。そして確信を持ってゾンネン社が選んだのは、ソニー社の蓄電池でした。ソニー社のリチウムイオン2次電池のサイクル回数は1万回以上です。ゾンネン社の設置した太陽光蓄電池には10年間の保障が付いています。サイクル回数から予測すると20年は問題なく機能し、後はリサイクルも可能だそうです。

太陽光発電など、自然エネルギーによる発電量は不安定なので、ゾンネン社ではバイオマス発電など大型自然エネルギーシステムも取り入れています。今のところ、コミュニティの発電能力は高く供給過剰で、電力を他の電力会社に売る余裕もあるそうです。ソーラーパネル付きの一軒家を持たない消費者でも、「ゾンネン・コミュニティ」に入れば100%自然エネルギーを買うことができます。ちなみに10月上旬の3日間で「ゾンネン・コミュニティ」は約780MWhのエネルギーを発電したそうです。これは約10万人の電力需要に当るそうです。

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小型で壁に設置できる蓄電池©sonnen GmbH

ゾンネン社の目標は、毎年クライアントの数を倍にすることです。「10年後には1000万所帯がコミュニティーに入り電力を共同で自給自足できるでしょう。ドイツだけで一戸建ての家の数が1500万軒あり、更にイタリア、アメリカ、オーストラリアなど加えると、屋根は無数にあります」とシュレーダーさんはゾンネン社の将来に関して実に楽観的です。炭素の時代はもう終わりつつあります。

 

関連リンク
ゾンネン社のオフィシャルサイト、https://www.sonnenbatterie.de/de/home

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パスペクティヴ・デイリー、https://perspective-daily.de/article/94/mPcwUWzd

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