野菜をネットで注文して、市場で受け取る ━ フランス生まれのミニ市場組織

やま / 2016年6月5日
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「フード・アセンブリー」のウェブサイト

毎週水曜日夕方6時から8時まで、ハスラーさんは、あるベルリンの居酒屋の奥の間で小さな市場を開きます。今日は、ベルリン近辺で農業を営む人、養蜂家とヤギのチーズを生産している人など、計7人の売り手が来ています。ハスラーさんは、言ってみれば市場の経営者です。消費者は、あらかじめネットを利用して注文・支払い済みの食品を、直接ここで生産者から受け取ります。生産者と消費者が毎週出会う市場の雰囲気は、古き良き下町風です。今月送られてきた「未来完了形(FUTURZWEI)」のニュースレターに、この小さな市場の話が紹介されていました。

33才のハスラーさんは特別支援教育者ですが、前から農業に興味があり、小さな市場をベルリンのウェディング地区で開くことにより、日常生活に農業を結びつけることが出来たと喜んでいます。「このミニ市場に出店するということは、普通の売店で売るのと感じが違います」と話すのは、知り合いの家族が作ったヤギのチーズを売っているダルノキさん、23才です。蜂蜜を売っているクルーグマンさんは弁護士で、本職以外に年間3.5トンの蜂蜜を作っているそうです。この日はおよそ25人の顧客が、注文した食品を取りに来ていました。その一人は「決して安くはないけれど、品質が良く、誰が生産したかを知ることができます」と市を楽しんでいました。毎月最後の水曜日には地産の食品以外、ワイン、食用オイル、コーヒーやチョコレートも購入できます。

この食品ミニ市場が生まれたのは、かつてグルメ大国と呼ばれていたフランスです。2人の男性が古き良き市場を新しいテクノロジーと結びつけられないかと考え、ウェブサイト運営団体「ウィと言うミツバチの家(La ruche qui dit oui)」を2010年に創立しました。このミニ市場の原則は、それぞれの場所にある市場が独立しながら、組織全体を構成する要素であることです。企画はそれぞれの町でホストが行います。ホストの役目は、市が立つ場所とその近辺の生産者を探すことです。商品はハンドメイドで小規模農家で作られていることが条件です。ミニ市場を始める前に団体が色々サポートしてくれます。市場に出店する場合、ホストと団体にそれぞれ売り上げの8.35%を手数料として支払います。残りの83.3%は農家の収入となります。食品の価格はもちろん農家が自分で決めます。普通、大手のディスカウンターなどと取引している農家は、価格を自分では決められません。生産価格の3分の1が戻ってきたら良いほうだと言われています。ですから、このようなフェアな市場がフランスだけで、既に750ヵ所も出来たのは不思議ではないかもしれません。2014年からフランス以外の国々でもこのシステムが取り入れられ、姉妹団体が作られました。

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ハスラーさんの市場のウェブサイト

ドイツ担当者はフランス生まれのベルモンさん、26才です。経営経済学を専攻した彼女の夢は、大学で学んだソーシャルビジネスに関する知識をフェアなビジネスに生かすことでした。この団体のことを知り感激して、研修者として採用を申し込みました。子どものころ両親といっしょにブルターニュの田舎で休暇を過ごしたとき、一番の楽しみは、その地域で採れた多種多様な野菜を売りに来る農家の人たちで賑う青空市場だったそうです。「これこそ私たちの伝統として残さなければいけない」とベルモンさんは思ったそうです。以前に彼女の住んでいたパリでは、牛の乳を搾った酪農家、あるいは朝早くサラダ菜を収穫してきた農家の人たちが消費者と出会える市場が、今では残り少なくなってきています。都心では場所代が高くなり、市場で店を出すのは卸売り業者です。「生産者と消費者の関係がまったくなくなってしまったところと言えば、スーパーでしょう」と彼女は語ります。「スーパーマーケット」という単語を口にすると、彼女の顔色が急に暗くなりました。

いつかベルリンに住んでみたいとベルモンさんは考えていました。そして、現在、仲間2人と3人で、若者の間で人気のあるベルリン・ミッテ地区に事務所を設け、ドイツ支社「フード・アセンブリー(Food Assembly)」を開き、あちこちでミニ市場の企画に努めています。今では、ベルリン、ミュンヘンを初めドイツ各地19ヶ所に「フード・アセンブリー」と名がついたミニ市場があるそうです。週の売上高が3000ユーロもあるケムニッツ市の例もあれば、平均売上高が400ユーロの小さな市場もあるそうです。市が開かれる場所は、居酒屋だったり、カルチャーセンターであったり、共同庭園であったり様々ですが、その町独特の市場の雰囲気が広がるのは、その土地の野菜を生産する農家の人々が集まるからです。

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蜂蜜を作っているクルーグマンさんのウェブサイト

これからも、まだ数々のミニ市場が予定されています。このような市場が開かれる前には、数ヶ月の準備期間が必要です。原則的にはだれでも新しい市場を開くことが出来ます。「私たち企画者として注意しなければいけないことは、市場が長続きすることと、共食いがおきないことです。そしてできるだけ多くのホストが助け合い経験を交換することです。例えばミュンヘンのシャルロッテさんの市場で2人の生産者の間でトラブルが起きた場合、すぐにベルリンのアントニアさんに電話ができます。なぜならばベルリンの市場で同じような問題が起きたことがあり、彼女はシャルロッテさんにアドバイスができるからです」とベルモンさん「フード・アセンブリー」について説明しました。

ちなみに、ドイツのテレビで最近、日本の各地にあるコンビニについて報道されました。コンビニとは年中無休で24時間開いているミニスーパーだと説明されていました。

「過労死。死ぬまで働く」:日本の社会は、これから未来を担う一世代を失いつつあるのではないだろうか。(中略)
太郎さんは大学で歴史を勉強している。彼はここ5年間二重生活を送っている。昼間は大学、夜はコンビニ。彼は毎日夜の10時から朝の6時まで働いている。休憩はない。時給は8ユーロ(約1000円)。残業は? もちろん!  残業代は? 出ない。

関連リンク
「ウィと言うミツバチの家(La ruche qui dit oui)」、https://laruchequiditoui.fr/fr

ドイツ支社「フード・アセンブリー(Food Assembly)」、https://laruchequiditoui.fr/de

ハスラーさんの市場、https://thefoodassembly.com/de/assemblies/181

関連記事
「未来完了形(FUTURZWEI)」Der Geschmack der kleinen, nahen Welt、Annette Jensen著 http://www.futurzwei.org/#773-food-assembly

テレビ放送、ARD, Weltspiegel「死ぬまで働く」
http://www.daserste.de/information/politik-weltgeschehen/weltspiegel/sendung/japan-arbeiten-bis-zum-umfallen-100.html

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